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蒲生氏郷芋とイカ煮

残暑が厳しいけれど、そろそろ秋の味覚が出回り始める。
定番の煮物を作りながら、多くの家臣に慕われた戦国武将を妄想した記録。

人間観察に長けていた秀吉が、ある時、家臣達にこんな問い。
「何万もの兵を率いた蒲生と何千という兵しかいない信長公が戦したら、どちらが勝つと思うか」
兵力の桁が違うとなれば、やはり数が多い方が勝つのではないかと多くの者が答えたものの、秀吉の答えは信長が最後に勝つ。
「信長公の兵が兜首を取れば、必ずその中には氏郷の首がある。一方、信長公は必ず逃げ延びて、最後には勝つ」
つまり蒲生氏郷とは突出して戦う勇猛果敢な武将。一方、織田信長は不利と見れば、恥も外聞も捨てて逃げることが出来る人物と秀吉は見ていた。


材料

烏賊 1杯
里芋 10個
醤油 大匙2
味醂 大匙1
蜂蜜 大匙1
酒  大匙1

近江守護、六角氏に仕えていた父、蒲生賢秀の三男として弘治二年(1556)近江国(滋賀県)日野に誕生した鶴千代が後の蒲生氏郷。
六角氏の滅亡後、蒲生家は織田信長に臣従。人質として鶴千代は信長の元へ。
人質として来たとはいえ、卑屈な所はまったくなく、信長を真っ直ぐに見返す目力。
「この小僧は只者ではない」と信長も一目置き、自らの小姓に加える。
信長、小姓達に戦の話をすることがありました。
若い者達に戦の心得や経験を語っていましたが、話が長くなると、うとうとと舟を漕ぐ者も出てくる。そんな中でも、鶴千代のみは目を輝かせて聞き入っていたのを見て、信長は自身が見抜いたことを確信。
「我が婿にせん」と娘の冬姫を娶らせる。言わば信長に見込まれた貴公子。


烏賊を輪切り。

信長、ついで秀吉に仕えた氏郷。小牧長久手の戦い、小田原合戦、大崎葛西一揆の戦で活躍。
その度に加増、転封と身代はどんどんと大きくなる。それにつれて家臣も多く召し抱えねばならなくなる。新参の家臣が挨拶に来ると、氏郷は
「我が家中には銀の鯰尾の兜を被った者が常に先陣を務める。その者に負けぬ働きをせよ」と声を掛ける。
実際に戦になり、銀の鯰尾の兜を被った者を探すと、氏郷本人。
俺についてこいとばかりに陣頭指揮を取る武将。
秀吉はそれを知っていたから、先の問答。
蒲生氏郷には、家臣との興味深い逸話が多い。

佐久間安政、勝之の兄弟が仕官の挨拶に来た時、畳の縁に躓いて転ぶと、氏郷の小姓達が失笑。すると氏郷は一喝。
「この者達は畳の上ではなく戦場で働く者達だ。畳の上が慣れぬといって笑うことは許さん」
兄弟が感激して忠勤を励んだのは言うまでもない。


里芋の皮を剥き、洗ってぬめりを取る。

自分は臆病者だが、雇ってもらえまいかと言って来た者あり。
「自ら臆病者と言える者はそうはいない」と氏郷は家中に迎える。
大言壮語して自分をよく見せようとする者よりも信頼出来ると判断。
この者も感激して戦場で大いに働き、最終的には討ち死に。本当に臆病だったのかもしれないが、氏郷により勇者に変貌?

新たに来る者ばかりではなく一度、蒲生家を離れた者についても寛容な対応。
西村佐馬という者が家中を離れる。勧める者があって、氏郷に謁見。
「相撲を取ろう」と言い出した氏郷。
どうせクビになった身ということで、西村は遠慮なく氏郷を二度まで投げ飛ばす。
旧主に遠慮などという所がない正直さが気にいったとして、氏郷は西村の帰参を許す。


材料と調味料をすべて圧力鍋へ。強火で蒸気が出たら加圧5分。

「知行と愛の両輪が人を使う要諦」と氏郷は語っていた。
給料を一杯やりさえすればよいというものではなく、給料は雀の涙しかやれないが、大事にするから働いてくれというのも長続きはしない。生活がありますから。
現代の組織とか経営にも通じる考えというか、これが本来の日本の労使関係。
やたらとパワハラだのセクハラだのと言って労使の対立を煽ろうとしているのは、そもそもの日本型組織ではない。
蒲生家は労使ではなく主従と言うべきですが、こうしたよい関係を示していたように感じます。

家臣にも気前よく領地を与えていたので、蒲生家では氏郷本人の直轄地は2割にも満たなかった。平均的な大名家では本人の取り分は4割。

格別な功績あった家臣は主の館に招かれて食事と風呂で饗応。
家臣が風呂に入っていると、
「湯加減は如何か?」と聞き覚えある声。
外を見ると、顔を煤だらけにした氏郷自身が薪をくべて、火吹き竹を拭いている。
風呂の饗応は蒲生風呂と呼ばれ、一種のステータスになったとか。


かなり濃い色。

ただ、家臣達に甘い顔ばかりを見せていた訳ではない。
一万石で召し抱えた橋本惣兵衛が酔った勢いで、
「自分には子が多いので、十万石くれるならば一人位は川に捨てても構わん」と発言。
これを聞き咎めた氏郷。
「人の道に外れることを言う奴には高禄はやれぬ」と激怒。
千石に減額。

軍律に厳しく、隊列から外れたり乱したりを固く禁じていましたが、馬に履かせていた草履が外れたので列から外れた者を処断。
飴と鞭を巧みに使い分けていたと言うべきか。


蒲生氏郷芋とイカ煮

圧力鍋を使うと短時間で仕上がる。しかし結構な濃い味に仕上がった。ご飯が幾らでも進む味と言うべきか。
炭水化物が多い里芋ではありますが、食物繊維やカリウムも豊富。
イカには疲労回復効果があるタウリンが含まれるばかりではなく、血中コレステロールの低下や中性脂肪を減らす働き。

蒲生家の知行は自己申告制。しかし申告通りにやってしまうと領地の石高をオーバーするので、全員で話し合わせて調整。これならば、話し合いで決めたことなので、申告通りではないという不満も抑えられる。
蒲生氏郷は誠に家臣達の制御がうまい。

蒲生氏郷には興味深い話が多いのですが、今回は家臣達との絆をメインに妄想。料理が出来上がってしまったので、氏郷本人については又の機会に。
蒲生氏郷と家臣達について妄想しながら、蒲生氏郷芋と烏賊煮をご馳走様でした。

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