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映画『オリエント急行殺人事件』(2017)のこと (ネタバレ注意)

「……犯罪は悲劇しか生まないんだ!!」

 ミステリー漫画『金田一少年の事件簿』の「蝋人形城殺人事件」のラストで、主人公が犯人に訴える言葉が、最初に読んでから長い年月を経た今も、心に残っている。

 映画『オリエント急行殺人事件』(2017)の真相解明とその後の結末に、ふと思い出した。

 アガサ・クリスティーによる古典ミステリーの代表格、『オリエント急行殺人事件』。

 密室とも言うべき列車内で起きた殺人事件の真相―――「乗客たち全員による犯行だった」―――は、今や知らない人の方が少ない。

 その動機は「復讐」。

 事の発端は、アメリカで起きた誘拐事件。(実際に起きた事件がモデルになっている)

 裕福な軍人アームストロング家の5歳の長女が誘拐され、身代金を支払うも、遺体になって発見される。

 妊娠中だった母親は、ショックから流産し、自身も死亡。残された父親も自殺を遂げる。

 アリバイが無かったがために、容疑者として糾弾されたメイドは自ら命を断ち、彼女を追い詰めてしまった検事もまた自殺。

 一つの犯罪を起点に、ドミノのように悲劇が起きて行き、悲しみをもたらした。

 肉親、直接血は繋がらなくても同等のつながりのあった存在、尊敬する恩人、恋人……犯人たちは、皆それぞれに大切な人を失った。心の安定を失った人もいる。

 全員で手を下していくシーンの、悲しみと怒りに満ちた表情―――特にとどめをさした、ミシェル・ファイファー演じるハバード夫人(リンダ・アーデン)の存在感。

 しかし、元凶たる男(ラチェット)を自らの手で裁いたとしても、彼らは本当に救われたのだろうか。失った者は帰らない。

 それは皆理解している。今まさに、実感している。

 特に娘一家を失い、他のメンバーを集め、今回の計画を立てた主犯格の悲しみと苦悩が際立つ。


 金田一少年シリーズで、主人公は上記とは別の事件でこのような事も言っている。

「「人殺し」なんて本当は誰だってしたくないんだ。だけど時として人は逃げ場のない苦悩にとらわれ悩み苦しんだあげく最後の選択として”悪魔のささやき”に耳を傾けてしまう。」

 でも、「犯罪を犯して、それで救われた奴なんて一人もいない」。

 許しがたい男を、自らの手で裁いた人々も、救われることはない。

 ポアロは、事件の真相を伏せ、「強盗殺人」「犯人は既に逃亡済み」と警察に報告する。

 だが、犯人たちは、これからの人生を、「罪」と共に生きて行かなければならない。余命が短い人も、これから先が長い人も。 

 そんな人々を乗せた列車は、下車したポアロを残し、トンネルの中へと消えていく。

 どんな理由があっても、たとえば被害者がどんなに最低な人間だったとしても、やはり「犯罪は悲劇しか生まない」。


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