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【セミナーレポート】ヒット作を生み出す企画力とは?萩原CCOに学ぶエンタメ企画

バルスでは、これまで培ってきたバーチャルコンテンツの知識と実績を活かし、エンタメコンテンツに特化したセミナーを“企画編”、“制作編”、“分析編”に分け、2023年6月から全3回で開催いたしました。
今回は“企画編”として、6月に現地&オンラインで開催した、CCO萩原猛による「届くエンタメ企画の作り方」のセミナーについてレポート形式でご紹介いたします。


萩原:バルス株式会社CCO(チーフ・コンテンツ・オフィサー)を務めている萩原と申します。本日は「届くエンタメ企画の作り方」についてお話しいたします。


自己紹介・実績紹介

【萩原猛 経歴】
・バルス株式会社の創業メンバーで、取締役CCO
・1980年7月生まれ。大学卒業後、法令系出版社を経て、幻冬舎コミックス、富士見書房(その後、KADOKAWAに合併編入)へ。
 KADOKAWA在籍の7年の間に、以下の5レーベルに携わりました。
・ドラゴンブック編集部/デスク
・ファンタジア文庫編集部/副編集長
・富士見L文庫/初代編集長
・カドカワBOOKS/初代編集長
・小説サイト「カクヨム」/初代編集長

【主な立ち上げタイトル】
・「冴えない彼女の育てかた」丸戸史明
 シリーズ累計600万部以上。ゲームライター出身の作家デビュー作で、2度のTVアニメを経て、劇場版も大ヒット。
・「紅霞後宮物語」雪村花菜
 シリーズ累計250万部以上。「中華後宮もの」というジャンルをキャラクター文芸に打ち立てた金字塔的作品。
・「かくりよの宿飯」友麻碧
 シリーズ累計200万部以上。「小説家になろう」出身作家による描き下ろし作品、TVアニメ化も果たした。
・「リコリス・リコイル」
 企画並びにストーリー原案を担当。2023年度を代表するタイトルとなり、アニメアワードで最優秀オリジナルアニメ賞を受賞。
・「Engage Kiss」
 企画並びにストーリー原案・脚本を担当。スクウェア・エニックスよりソーシャルゲームも展開中。

萩原:バルス株式会社では、新企画の立案及び社員から提案された企画の承認が私の仕事となっています。現在バルスで運営しているバーチャルYouTuber「MonsterZ MATE」と「銀河アリス」は、どちらも私が最初に企画立案したものですね。また、配信イベント「マーダーミステリーシアター」の企画立案も手掛けました。

企画者に重要なのはデータとロジック

萩原:私はコール&レスポンスが重要だと考えています。エンタテインメントの構造として、作り手がコンテンツを一方的に流すだけでなく、そのコンテンツを読んだ受け手から、作り手へのフィードバックがあるという構造です。

作り手にもクリエイターとプランナー、あくまで私の解釈ですが、大きく2つの属性、役割があって、クリエイターは感性でモノを作る人たち、プランナーはロジックを詰めてモノを作っていく人たちと分類しています。もちろん100:0のように、クッキリと色分けされるわけではないですが、便宜上、この属性に分けて話をさせてください。

萩原:私は、上記の属性になぞらえるなら、プランナーにあたるでしょう。ですので、今回はその視点でお話をさせていただきます。

企画書を作るのは、往々にしてプランナーの仕事ですしね。

企画を立てて作品を作るのであれば、もちろん予算があり、達成するべき目標・数字があります。しかしクリエイターさんの感性に頼るだけでは、目標達成にたどり着くのはなかなか難しいです。クリエイターの感性を活かしつつ、あくまでデータとロジックをベースに施策を組み立てる、そのために読者や視聴者の反応を常に確認・分析する、これがプランナーの仕事でしょう。

プランナー型の良いところは、自分がお客さん・ターゲットではない企画を立てられることです。

さきほど私の経歴をあげましたが、女性向けレーベル、男性向けレーベル、ウェブ発小説、いずれのジャンルでもヒットを出すことができました。こういった作品はどれも、作家さんの感性を軸にしながら、読者について調べ上げ、すべての施策にロジックを通して製作したものです。

プランナーの仕事とは?

その1 そのエンタメのユーザーを理解する

萩原:例として、私がかつて立ち上げを担当した小説『紅霞後宮物語』を挙げさせてください。この作品は、今となっては書店さんに数多く並んでいる「中華後宮もの」というジャンルの嚆矢となる作品で、実は刊行当時はこのジャンルはほとんど世に出ていませんでした。

刊行レーベルである「富士見L文庫」の当時のメイン読者層は、30~50代の女性でした。彼女たちの読書遍歴を調べてみると、コバルト文庫やホワイトハート文庫といった少女小説レーベルを通っている方が多い、ということがわかったのです。

そして、少女小説ジャンルには昔から中華風の世界を舞台にした作品が多かった。つまり、今は世にあまり点数が出ていないジャンルであっても、実は読者には馴染みがあることがわかったのです。これは売り上げの数字だけを見ていては、わからない情報です。

こうして製作・刊行した『紅霞後宮物語』は、シリーズ累計250万部を超えるヒット作品となりました。しかもこの作品を先行事例として様々な作品が発表されていき、大きなジャンルになりました。結果的には「中華後宮もの」という、ブルーオーシャンを掘り起こした形です。

余談ですが、このジャンルが急速に大きくなった理由は、書きたいと思っていた作家さんが数多くいたからでしょう。でも、ヒットした前例がなかったから編集部に企画が通らない。その蓋を外したと言えるかもしれませんね。

書きたい作家さんが多いということは、裏を返せば読みたい読者さんも多いはず。そういうところに鉱脈が眠っていると思っています。

プランナーの仕事とは?

その2 クリエイターの感性をログラインに落とし込む

萩原:もう一つの属性であるクリエイターとどう相対するか、という部分についてもお話をしたいと思います。

プランナーの仕事として、クリエイターさんの感性をロジックで翻訳し、誰にでも伝わる言葉にする、ということがあります。クリエイターさんが作りたい作品の核はどこなのか、読者に届けるべきテーマは何なのか、それを短いフレーズにまとめてコピーを作ります。映画などの世界では「ログライン」と呼ばれるものですね。

これを作る際に、ログラインを先に作ってクリエイターの想像をはめてしまうことは避けた方がいいでしょう。企画が小さくまとまってしまいますので。ログラインは、クリエイターさんとの対話や作業を繰り返している中で、「見つかる」ものだと私は思っています。

強いログラインを作り、それを軸にしてストーリーはもちろん、ビジュアルやキャッチコピーなども作り込んでいく。そうすると、いろんな立場の人が間に入っても、ログラインに込めたメッセージが大きく変質することなくユーザーに届きます。

一方、ログラインがふわふわしていると、多くの人が間に入る中でメッセージが誤った形で伝わってしまい、想定していた形でユーザーに伝わらなくなります。

伝言ゲームみたいなもので、短くて印象的な言葉はブレることなく伝わっていきますが、曖昧で冗長な言葉は正確に伝わっていかないのです。

もう一つ、ログラインを作ることで助かる部分があります。エンタメ作品を作っていく中で、何が正解なのか作り手側が迷ってしまうことは往々にしてあります。そんなとき、確固としたログラインがあれば、企画の原点に立ち戻り、改めて確認することができるのです。

自分がプランナーとして企画を立てるときには、受け手である読者や視聴者はどんな人なのか、クリエイターが作りたいものは何なのか、この2つを自分の中で可能な限り具体化し、両者の間をつなげるログラインを作る、ここを最初の目標としています。

「バーチャルYouTuber」という企画を分解する

萩原:私は現在、バルス所属のバーチャルYouTuberの運営を職掌としていますが、もともと会社の設立に参画した背景には、バーチャルという新しい空間への可能性と、そこに才能ある作家を連れてくることで新しいエンタメが作れるのではないかという期待がありました。

では、そのバーチャルYouTuberについてお話をしましょう。バーチャルYouTuberというジャンルはすでに広く知られるようになっていますが、ざっくりと、このような要素に分解することができます。

・3D(Live2D)のキャラクターがリアルタイムで動くこと
・「中の人」のタレントマネジメントをすること
・収録した映像を編集し、エンタメ性の高い動画にすること
・ゲーム実況などのライブ配信を行うこと

これらの集合体がバーチャルYouTuberとなります。

バルスはバーチャルYouTuberの運営においては上記をすべて行っており、それができることが会社の武器でもあります。
ですが一方で、すべてを使ったコンテンツしかやってはいけない、というわけでもありません。
会社の強みを分解し、言語化することで、新しい仕事が見えてくることもあります。

その例が、『マーダーミステリーシアター』でした。

『マーダーミステリーシアター』は、「マーダーミステリー」というアナログゲームを題材にした配信即興劇でした。6人の役者さんに、当日に演じていただくキャラクターの設定やシチュエーションをお伝えし、それに従って即興で物語を作っていただく、というものです。

この、3Dキャラクターも出なければ、モーションキャプチャスタジオも使用しない企画を、なぜバルスでやろうと思ったのか。バーチャルYouTuberの運営会社、という表面的な部分だけを見ると、ミスマッチに見えるかもしれません。

しかし、前述のように会社が持つ武器を要素分解して考えると、新たな可能性が見えてくるのです。

今回でいえば、何が起こるかわからない即興劇だからこそ、生の配信ライブを多数手がけたノウハウはきっと活きるでしょう。効果的な番宣動画の制作及びチケット券売へのスムーズな誘導も得意とするところ。

自分の組織の可能性を決めつけすぎず、柔軟に考えることで生まれる企画もあると思っています。


「面白い」「新しい」「売れる」の企画三原則

萩原:さて、自己紹介の際にも申し上げましたが、私はバルスにおいて、新規企画の立案だけでなく、社員が提出した企画書の承認を担当しております。

では、その企画書はどのような内容なのか。どのようなフォーマットになっているのか。その辺りをお話ししたいと思います。

まず、私が考える、企画書の三原則をご紹介します。

・面白い→ベンチマークタイトルと共通してユーザーに刺さるポイント
・新しい→ベンチマークタイトルを上回っている点、差別化できている点
・売れる→誰に対して、どのくらいの規模で売れる想定か、全てを具体化する

萩原:この3つがしっかりとしている企画は、成功の可能性が高いと考えています。自分が企画書を書くときに気を付けるポイントでもありますし、人の企画書を読むときにも、ここをチェックすることが多いです。

また、私は企画書を読んだり書いたりするときには、"主語"を重要視しています。例えば、「ARをやりたい」「フェスをやりたい」というように、「〇〇がやりたい」と企画書に書くことは多いでしょう。その主語は、「担当者が」もしくは「会社が」だと思います。

ですが先ほど申し上げた通り、エンタメはコール&レスポンスです。「自分がこうしたい」というコールだけでなく、「誰に対して」というレスポンスも重要です。そこで、「読者が」「ユーザーが」「視聴者が」と、主語を届けたい相手に置き直して、改めて企画書を読んでみるのです。

具体的には、「(自分が)ARをやりたい」ではなく、「(視聴者が)ARを見たい」と読み替えていく。そこにデータの裏付けがあり、ロジックがしっかり組み上がっているかをチェックする。

そこがクリアになって、ようやくエンタテインメントの企画書となるのです。

最後に、バルスで使っている企画会議のフォーマットをご紹介します。バルスでは、このようなフォーマットで企画書を制作しています。

萩原:特徴的なのが、二つの勝利条件の項目かなと思っています。バルスでは、社員が企画を作るときに、勝利条件を2つ設定します。

勝利条件Aには、「誰に対して」「どのように届けて」を明示した上で、「いくら売れたか」といった具体的な数字を掲げてもらっています。

勝利条件Bでは、数字とは別の目的をあげてもらいます。それは、単に「やりたい」という一方通行なものではなく、「それが達成できたらどうなるか?」という結果予測や期待を記入してもらい、そこに到達できたかを測れるようにしています。


さて、時間も迫ってまいりましたので、最後に一言だけ。

エンタメは、出して終わり、ということはありません。ちゃんと作り手が見せたかったものが、届けたいユーザーの元に届いたか、そこが重要です。家に帰るまでが遠足で、結果を確認するところまでがエンタメです。

最終的に作品がユーザーに届いた風景をできるだけ具体的にイメージしながら、企画書を作り、読み直す。そうすることで、企画の精度は格段に上がると思います。


以上、あくまで私の経験からきたノウハウをお話しさせていただきましたが、本セミナーを聞いていただいた皆様の企画づくりに少しでも役立てそうなら、望外の喜びです。

面白いエンタメが世に溢れて、困る人はいません。そんな世界を実現するため、皆さん頑張っていきましょう。

ご静聴、ありがとうございました。


【登壇者紹介】

バルス株式会社 萩原猛 CCO(Chief Contents Officer)

早稲田大学卒業後、法令書等の編集を経て、富士見書房(現KADOKAWA)に入社。 ドラゴンブックデスク、ファンタジア文庫副編集長、富士見L文庫編集長、カドカワBOOKS編集長、 カクヨム編集長を経た後、作家の新しい活躍の場を開拓するために退社。以降、アニメやゲーム等のIP立上げに多数携わる。 企画にかかわった作品は、『冴えない彼女の育てかた』『かくりよの宿飯』『デスマーチからはじまる異世界狂想曲』『リコリス・リコイル』『Engage Kiss』『Link!Like!ラブライブ!』など多数。



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※この記事は2023年8月時点の情報です。