何故フレームワーク分析は役に立たないどころか害になるのか

このSWOT分析、Tが空欄じゃないか。ちゃんと何か考えて埋めないと。
これは当時銀行員だった私が稟議の添付書類について上司からお𠮟りをいただいていた一コマ。SWOT分析というのはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素の頭文字を取っており、これら4つの視点から事業環境を整理する分析の方法の1つ。こういうのは沢山あって「3C」とか「STP」とか「PEST」だの「5F」だとか「PPM」だとか。もう山ほどありまして、当該企業や事業について穴埋めペーパーを作らされたりしていました。

 転職後、やっとこさこういうものと縁が切れるかと思いきや、結果的には益々悪化することになります。というのも転職先の現弊社に突き刺さっているコンサルからこの手合いの話がボコボコ飛んで来る様になり、共有フォルダが日付とPJ名入りの象限分析資料で埋め尽くされる様になりました。さて、ではこれらの分析は何か実務を助けたり、合理的な結論をもたらしたでしょうか。

 ここまでの所長い事付き合ってきた結論として、これらはほぼ何の効果も挙げる事はなく、SWOT分析が融資先の将来を予測する役に立ったことも、PEST分析から有効な打ち手が出てきた事もありませんでした。少し解像度を上げると「そらそうだろうな、という結論」、例を挙げると「夏にサンダルを売り、冬にブーツを売ると良い」みたいなものに還ってくることが多く、特に革新的な結論が出る事はほぼありませんでした。これらはいずれも稟議の添付資料として、あるいはコンサルの成果物として書庫に眠り、保存期限が来た所で焼却処分されて終わりです。何かそれっぽく見えるので上からは好まれるこれらは結局人工のリソースを喰い荒らした挙句、必要な検討を埋没させてスルーさせてしまい、どちらかと言えば有害であって何の利益をもたらすこともありませんでした。何故こうなるのでしょうか?そして、逆にフレームワーク分析を上手く機能させる方法はあるのでしょうか。

解像度の低い人間が作る分析の顛末

ある時、Twitterで流行ったネタとして
銚子電鉄は鉄道事業が赤字で、製菓業で食っているので、鉄道事業からは撤退すべきだ
というものがありました。実際の銚子電鉄を知っている人間はそんなことをやればどうなるかはよく分かっているのですが、現場に行った事もない外人部隊に表面的なSTP分析とかをやらせたら出て来そうな結論です。実際には大赤字でも健気に頑張るボロボロの鉄道会社を少ないたいというファンの思いで売れているあんまり美味しくない濡れせんべいの売上は、鉄道が撤退すれば瞬く間に消し飛ぶ事になることと思いますが、こうした特殊事情を考慮しないフレームワーク分析が消費者の「頑張ってて偉い。応援したい」という気持ちを捉えることはほぼ不可能と言って差し支えないと思います。

業界であっても、特定の事業でも、現場に行かずに書面調査で資料化できる様な内容というのは全体のごく表面的な事に過ぎません。例えば「在庫が少ないと良い」というのは財務分析の一丁目一番地の様に言われる事ですが、好き好んで在庫を増やしている業者なんかどこにもいません。減らせない理由はそれこそ千差万別なのですが、取扱いラインナップが多いことで取引先を繋ぎ止めているとか、どうしてもフロー上の手待ち時間を減らせないだとか、在庫を抱える事による副次的なメリットを享受してうることも多々あります。こうした事はまず業界について深く学び、現場に足を運び、カウンターパート全員に話を聞いてようやく分かることなのですが、そんなことは統計資料にも業界レポートにも書いていません。

穴埋めの作業には何の意味もない

 一つケースを考えてみましょう。貴方は戦略コンサルの新卒アソシエイトとして老舗製菓メーカーの主力製品「きなこ棒」の製造及び販売戦略を見直して収益性を向上させるミッションを与えられました。テキストで勉強したフレームワーク分析を順次実践していきます。まずはPEST分析です。「きなこ棒」の売上を左右する、最初「P」、Politicsについて考えてみましょう!!!


これに時間を費やす意味がないということが分からない人はいないと思います。だって考えりゃ分かるでしょうよ。きなこ棒と政治の関係ってなんだよアホかよ。いや百歩譲って社会で「子供が減るときなこ棒売れない」とかはあんでしょうけど、そら分析ってか見れば分かんでしょ。でも実は冒頭に出てきた私はこういう間抜けな作業を大真面目にやらされてたワケです。もしフレームワーク分析を少し擁護してみるのであれば、多分使うフレームが間違ってるんだと思いますが、多分何してもきなこ棒の売上上げる方法はあんま出てこないと思います。

この様に使用するフレームワークが不適切であるという事例と、もう一つ穴埋めゲームになってしまった時に良くあるのが事の軽重が埋没することです。その例示としてもう一つ事例を出してみます。じゃあビッグモーターについてSWOT分析をしてみましょうか。まずはビッグモーターの「S」、強みとは…どんな機会があるだろう…


この分析にも今の状況下では全く意味がない事は2秒考えれば分かると思います。今Tがデカ過ぎて全体が燃え盛ってる時に強みも弱みもへったくれもなく、鎮火するまで耐えられるか以外の分析にほぼ意味はありません。敢えて考えるなら、SWOTそれぞれに軽重を表す%を付けてみれば分かる事で、今実態を踏まえるとTが全体の課題の99%、Oなんか無いしSを気にする局面ではないワケです(身売りするとかなら別かもですが)。でもよく分かってない人間、例えば銀行員が稟議書類に添付する為に書かせられるSWOT分析はこれをフラットに並べてる物が山ほどあります。S欄「歩合制で社員の意欲が高い」がT欄の「不正でもうどうしようもない」と同じ一行書かれて並んでるワケです。しかしそんな笑い事ではなく、そこまで知名度の無い会社であれば、もし有報だけ見て作ればこういう分析が上がってきてしまうかもしれません。

どんな場合ならフレームワーク分析は意味があるのか

では、フレームワーク分析とは何の意味もないか、下手すると有害で、内容が何もない時に表面を作ろう為の粉飾の手法みたいなものなのでしょうか。正直言えば世にある9割くらいはそうだと思ってますが、実は有効で有益な場合が1つあります。それは

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