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生物学を斬る#9 【ボトムアップとトップダウン】

生物学は生物を理解するための学問である。
これは間違いないが、ここに重大な問題が一つ存在する。
それは、「どうしたら生物を理解したことになるのか?」という問題である。
これは生物学に限らず自然界を理解しようとする自然科学分野に一般的な問題なのではないかと思う。

ボトムアップ

古典的な(そして今でも主流な)方法は、還元主義の考え方に則った方法である。
生命を分子・細胞レベルに分解し、そこで起きている現象の解明を積み重ねていくことで、最終的に生物の理解を目指す、ボトムアップ的発想である。
生物の機能、構造に対して、なぜそれが達成されるのか定性的に説明できる仮説を立て、実験によりその仮説を実証していくといった流れに代表される。
分子生物学や生化学はこのように生物を理解することを目指す学問として栄えている。
(日本で最大級の生物系学会は分子生物学会や生化学会である。)

一方、還元主義の考え方に対しては、疑問も生じる。
生命の構成要素を調べ上げていったとしても、生命全体の中で何が重要な働きをしているかわからないのではないか?
つまり、複雑な生命現象そのものの動態に関する理解は進まないのではないかという疑問だ。

トップダウン

ここでとられる現代的な方法は、計算機の発達に伴って可能になったデータ駆動科学の方法である。
細胞を多数の分子や遺伝子が作るネットワークからなるシステムとしてとらえ、そこから生物を形作る本質的な構造や機能を抽出しようという、トップダウンの考え方に代表される。
生物内の分子、表現型から得られる大量のデータをもとに、それらがどのように機能し、どのように発展していくのかを定量的に説明していくことになる。
生物情報科学やシステム生物学はこのようなアプローチで生物を理解しようとしている比較的新しい学問である。

ここまで、それぞれの方法を対比させて述べてきたが、どちらの方法も利点と欠点があるように思う。
これらを融合させ、互いの弱点を補完しあうことで複雑な生物の深い理解を進展させることができないだろうか?
最近流行している、生物個体の様々な階層におけるオミクスデータ(特定の生体分子の包括的データ取得)の解析とその統合による大規模ネットワークの再構築などは生命の俯瞰的で定性的、定量的な理解につながる面白いアプローチではないかと思う。

参考文献

生物を理解しようとする自然科学分野に重大な問題が一つ存在する。ボトムアップ、トップダウン、データ駆動科学の2つ。互いの弱点を補完しあうことで複雑な生物の深い理解を進展させることができる。

ELYZA DIGESTを用いて要約
サムネイル画像はとりんさまAI(@trinsama)により生成