見出し画像

メンタルモデルとWebサービスのおはなし

今日はWebサービスの話をしよう。

あなたがWebサービスを運営しているとする。あなたのサイトに来るとき、ユーザー(彼または彼女)は決して普通の状態ではないのだ。そんな視点を持つためのお話だ。

人は知らないうちに期待をしている

本題に入る前に、まずは身近な例を挙げてみよう。
あなたが仕事終わり電車に揺られ、コンビニで購入した夕食を手に家についたとする。そして何気なくテレビの電源を入れる。このときの気持ちはどんなものだろうか?

きっとそれは「何か面白いものはないかな」という漠然とした期待だろう。よほど楽しみにしていた番組がない限り、あなたは知らず知らずのうちにそんな期待を抱いている。あなたはテレビのチャンネルをカチカチと切り替えていく。もしあなたの意に沿うものがなければ「やっぱ最近のテレビはダメだな」ということになる。

この一連の感情をメンタルモデルと呼ぶ。

メンタルモデルとは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したものである
出典:Wikipedia - メンタルモデル

私たちは何かを体験する前に、未来の自分の姿をイメージしているのだ。決してわがままなわけではない。どんな人間もメンタルモデル抜きに行動を起こすことはできない。これはUXデザイン的には「予期的UX」と呼ばれる。行動する前にすでに体験は始まっているのだ。

期待と不安が入り混じった状態

話を冒頭に戻そう。
あなたのWebサイトに訪れるユーザーは、メンタルモデルにより大なり小なり期待を抱いている。「○○ができるサービスだって聞いたけど、どんなものかしら。私を楽しませてくれるのかしら」と。一方で、同時に不安も抱いている。「でも大したことはないんじゃないかな。この時間が無駄だったら嫌だな」と。それはちょうど、初めてデートをする異性との待ち合わせに似ている。ちゃんと会えるかな、服装はこれで良かっただろうか、話が続くかな、その後恋愛にまで発展するだろうか。そんな期待と不安が入り混じった状態だ。

Webサービスの中には、そんな「普通な状態ではない」ユーザーが相手だということを忘れているものがある。あるいはそういった想定をしていないものも多い。相手は腕組みをして、高い台座に座ってあなたの作品を品定めしているのに、あなたがもし無邪気に「よかったら見ていってね...^^」などと言っていては、せっかく良くできたサービスも知らないうちに見捨てられてしまう。その点、ディズニーランドのエントランスは本当によくできている。これでもかというくらい入場者の夢を掻き立ててくれる。それは究極のおもてなしと言っても良い。もしこの夢の国の入口がオフィスの自動ドアだったら、どんなファンでも興醒めだろう。

トップページでアピールするものは必ず「1つ」

Webサービスのトップページを作るとき、私たちがやってしまう最も大きな過ちは「こんなにたくさんのことができます」とアピールしてしまうことだ。いろんな人のニーズを満たす機能、まだ世の中にないベネフィット、何より頑張って作った作品なのだからアピールしたい気持ちが出てしまうのは当然なのだが、それをぐっとこらえて欲しい。ユーザーはそれを望んでいるわけではない。もっとシンプルに「○○ができるって聞いたけど、それって本当にできるの?」という答え合わせをしにきているのだ。

私たちは見た目やサイトの導線を作り込む前に、ユーザーが求めてきている「○○」を徹底的に考え抜かなければいけない。そしてそれが実現できることを示さなければいけない。

それがきちんと表現できればユーザーは自然と増えていく。ユーザーは決して悪者ではない。なぜなら人生の限られた時間の一部を割いて、わざわざあなたのWebサービスを訪ねてきてくれた(!)のだ。私たちはその行為に最大級の感謝をしなければいけない。だがもちろん媚びへつらう必要はない。その心意気に対し、対等な関係でベネフィットを提示することが何よりの恩返しになる。

メンタルモデルを変えるのは難しい(Schooというサービスの場合)

私が働いている会社では、Schoo(スクー)という「オンラインの学校」を提供している。毎日いろいろな「先生」を招いて、ライブ配信で「受講生(ユーザー)」と談義するサービスである。3000人の受講生が同じ時間に同じ場所に集まり、夜な夜な議論を繰り広げる様はいまでも新鮮だ。

あまり知られてはいないが、設立当初は「ビジネス学部」という建てつけであまりメディアには出てこない「起業家」の貴重なお話が聞けるサービスとしてスタートした。その後ジャンルの間口をいろいろと試したところ、Webスキル(Webデザイン)の分野がヒットし、その後プログラミングやエンジニア向けのサービスとしてピボットしていった。

この時期、運良くメディアに取り上げていただいたりしたものだが、その影響だろうか、いつしかスクーは「Webスキルの学校」という肩書きがついてしまった。そして訪れるユーザーのメンタルモデルはそれに起因するものとなった。

そして現在、メンバーも増えてきたタイミングでそろそろ新しいジャンルを開拓しようと模索している。だが一度しっかりとついてしまったラベルをはがすのは難しい。Web業界の仲間からは「最近スクーさんの授業見なくなった」みたいな声も多く寄せられ、とても心苦しく思っている。

一度出来上がったメンタルモデルを変えるのは至難の技だ。ぜひこれからサービスを立ち上げる、立ち上げたばかりという方は参考にしてほしい。私たちも当初に立ち返って「○○」を探す旅に出かけようと思う。


<この記事はSchooアドベントカレンダー4日目の記事として書かれたものです>


<著者紹介>
上羽 智文(うえば ともふみ)
学べる生放送コミュニケーションサービスSchoo(スクー)の初代プロダクトオーナー。初年度登録ユーザー1万人のサービスは5年後に40万人に成長した。全世界の人々が使うサービスになるまで彼の戦いは終わらない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?