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Bøhmisk-Dansk folketone ① 【C.Nielsen】《私的北欧音楽館》

YouTubeで、新しい再生リストを公開しました。

ニールセン (C.Nielsen) 作曲
Bøhmisk-Dansk folketone Parafrase for strygeorkester
(CNW 40 /1928)
 
弦楽合奏のためのパラフレーズ「ボヘミア-デンマーク民謡」

 

 すみません。
 冒頭からヘッダーがめっちゃ眩しいですね……

 今回は Nu sol i øst oprinder mild を紹介するつもりだったのですが、頭の中で明確にまとまりきらないうちにこっちの曲からでっかいウェーブが来たので、変更しました。
 しかも、歌でなく弦楽合奏です。

 だけど、ちゃんと歌です!

 その理由はこれからおいおい述べます。

 

 聴いてもらうと一発でわかると思いますが、一番最初の弦の響きからしてすでに、みずみずしいです。
 青々とした木立に囲まれて、ちいさめの編成のオーケストラが演奏会をしているのが向こうのほうに見えるような気がします。
 透明感のあるみどりの若葉がさやさやとゆれ、木洩れ日がきらきらとしているのが感じられる、風薫る5月にぴったりの曲です。

 そんなわけで、ヘッダーの写真も、「若葉」「新緑」「木洩れ日」……でさがしました。だけどどれもしっくりきませんでした。だめもとで「風景」のタグでさがしたら、太陽が強烈に眩しい写真が出てきて、「これだ!」と思いました。
 逆に、この写真を選んだことで、この曲から感じる明るさが、「やさしい木洩れ日」どころか「力強い、生命力にあふれた輝き」だったことが明らかになって、われながらびっくりしてます。
 
 音楽を写真で語ると、漠然と感じていたことが具体的になるんですねぇ……。
 言葉で語るのとはとはまたちがう働きをするみたいです。

 

・◇・◇・◇・

 

謎発見① You はなにゆえ、かくもゆっくり?

 ということで、時候もいいので、あらためてこの Bøhmisk-Dansk folketone をみっちり聴いてみたくなり、YouTube上にアップされているものを探してみました。

 素人オーケストラを除くと、5つ録音がありましたが、面白いことに、長いものは7:30、短いものは5:18、と2分以上の差があるんですよね。
 あとの2つは6分台で、8:00の動画も、ライブなので前後に拍手が入り、実質は6分台です。

 さすがに5分台の演奏↓は速すぎて、聴き終わると呼吸も心拍もはやくなったなった気がして健康に悪いです。年のせいか、速さに耳もついていけなくて、もうしわけないけど、自分的には、アウトです。

 だけど、6分台の演奏に慣れると、7分超えはちょっとゆっくりすぎる気がしてもどかしい。

 そんなわけで、ここではいったん、オススメの演奏として、6分台の演奏から、オストロボスニア室内管弦楽団の演奏↓をあげておきます。

 全体的によくまとまっていて、初めての人も聴きやすいのがこの演奏かな、と思います。

 

 だけどですね……7分かけるゆっくり演奏の指揮はヘルベルト・ブロムシュテットで、ブロムシュテットはニールセンの演奏の第一人者です。ブロムシュテットは、堅実で、誠実で、クリアだけど温かい音作りをする指揮者です。

 私には、6分台で演奏するほうが、バイオリンの速いパッセージがちょうどいい感じにまとまって聴こえるような気がします。ブロムシュテットの演奏は、ゆっくりなせいか、ぐだくだ感を感じるところがあって、もどかしくなってしまうんですよね……なんかもったいない。
 テンポを緩めるとそれはそれでリスクがある、とはわかっていたはずです。他の指揮者はそのリスクを避けるために、6分台でおさまる速度を選んだのでしょう。
 だけど、それでもなお、あのブロムシュテットがこんなにゆっくりな速度をえらんだのはなぜか、不思議で、気にかかります。

 

謎発見② 鳥肌が立つほど雄弁な沈黙

 それともうひとつ。

 これ↑は、オーフス交響楽団、という聞きなれない名前のオーケストラの演奏です。

 オーフス交響楽団はデンマークの交響楽団で、これまでの経験では、デンマークのオケは、ニールセン演奏については別格です。しばしば奇跡が起こります。
 この録音は、演奏全体としては印象が薄い感じなのですが、奇跡があるかもしれん、と思いじっくり聴いてみました。

 で、ですね。
 奇跡はやっぱりありました!

 3:08ごろから、ソロの四重奏がはじまるのですが、そのフレージングが、鳥肌の立つようなフレージングなんですよ!

 わかりますか、演奏がふっと、吐息をついたように途切れる瞬間があります。
 その瞬間がすごく豊かで、どの演奏よりも雄弁なのです。

 あらためて聴き比べてみましたが、このフレージングは他の録音にはない特徴です。しかも、この後のメロディの繰り返しでも、きっちり繰り返されています。

 

・◇・◇・◇・

 

となると、じっさいのところ、楽譜ではどのように書かれているか、気になるじゃないですか!

 しかも、ニールセンのフレージングは、ときに神がかりなところがあって、ほんとはそのことを先に Nu sol i øst oprinder mild について記事にして語っておきたかったのですが……まあ、それはそれでしかたないのでおいとくとして、どんな指示がこのオーフス交響楽団の奇跡のフレージングを可能にしたか、もう、楽譜で見るっきゃありません。

 

 それと、もうひとつ。
 楽譜でたしかめたいことがあります。

 この曲は、《弦楽合奏のためのパラフレーズ「ボヘミア-デンマーク民謡」》というタイトルのとおり、2つの民謡の旋律から構成されています。
 だけど……だけどです。
 いま手元に、先にあげたブロムシュテットの録音したニールセン全集のCDの解説があるんですけど、あっさりと、

 ボヘミア民謡とデンマーク古謡《ダグマー王妃》から編み上げられている。

 って書いてあるだけで、どこがどうとか全然わからない。
 そのうえ、日本語で《ダグマー王妃》と書かれちゃあ、YouTubeで検索しても元歌はひっかかりっこありません。
 この全集、20年前のものになるのですが、おかげで私は「どの旋律がボヘミア民謡で、どれがダグマー王妃やねん?」と20年間もやもやしながらこのこの曲を聴いてきたわけです。
 しかたがないので「冒頭のメロディが明るく平易でニールセンっぽいから、デンマーク古謡……?」「ソロの四重奏が民謡っぽくて、ちょっともの悲しい感じがスメタナとかドボルザーク似だから、ボヘミア民謡……かなぁ……?」と、勝手に推測しながら聴いてましたが、そろそろ白黒つけたいです。

 それにしても、鑑賞のための肝心な情報がないまま、もやもやが20年とは、長いです。
 花の女子大学生も子持ちのおばさんになってしまいました。
 ニールセンがモーツァルトやベートーヴェンのようにメジャーなら、情報はもっと潤沢で、こんなもやもやはなかったはずです。
 もしインターネットがここまで発達しなかったら、もやもやしたまま天寿を全うしていたかもしれない……と思うと、ぞっとします。

 ……まさしく、積年の恨みを晴らしてやる!、って感じです。

 

 とにかく楽譜にあたって、ヒントを探すしかありません。
 しかも、うまくいけば、原曲もさがせるかもしれません。

 なぜなら、

 YouTubeは奇跡が起こるんですよ!

 ……うふふふふ。

 

 たとえば、ずーっと我らニールセンファンを悩ませてきた、ニールセンの代表作、木管五重奏曲、第3楽章↓の原曲……

 ニールセン自身の作曲した賛美歌であることは解説にあれど、ずっと正体は不明でした。

 だけど、おすすめであがってきた動画をてきとーにぽちぽちしてたら、あったんですよ……!

 これ↑を見つけた当時は、そもそも、ニールセンの歌についての情報がなくて、

 おすすめで出てくる→とりあえずポチる→どこかにニールセンって書いてあったらビンゴ!

 っていう信じられない探し方してました。
 そのあてどの無いポチポチの旅の途上でめくらめっぽうにポチッとされて発見されたのが、この Min Jesus lad mit hjerte få でした。

 これぞ、盲亀の浮木。
 まさに、奇跡。

 

 それともうひとつ。
 「フェロー諸島への幻想旅行」↓のこれ。

 このクリスチャン・ヤルヴィベルリン・フィルの演奏は一部抜粋ですが、間違いなく名演です。
 聴いてるだけで背筋がぞくぞくしてきます。

 このメロディについても、元歌(フェロー諸島の民謡「イースターの鐘は柔らかく鳴る」)があることは解説されていても、それ以上情報がなく手詰まりでした。ていうか、「その民謡、ここのメロディだよね?たぶん?それでいいよね?」って、20年間猜疑心の塊で聴いてました。
 ですけど、Påskeblomst ! hvad vil du her ? の動画をさがしていたら、たまったま、あたまに「Påske」ってついてるのがあったから、なにか関係があるかもしれんと思い、ぽちったら……

 いま、あなたも叫びましたよね?ね?ね?
 大ビンゴォォォォォォ!!!!って。

 だから、このメロディが聞こえた瞬間、私はとうぜん叫びましたよ

 キタぁぁぁぁぁぁァァァァーっ!
 メロディ、そのまんまやんけーっ!

 もう、大興奮。

 だって、この日が来るのを20年間まっていた。
 ていうか、まさか来るとは思ってなかった。
 だけどこれで疑心暗鬼が払拭されて、心おきなく音楽が聴ける!

 

 と、こんなふうに、YouTubeで2回も「盲亀が浮木にぶちあたる」という奇跡を体験してしまったので、Bøhmisk-Dansk folketone についても奇跡が起きるのを待っていたのですが、いまだに起きません。
 だけど、情報は探しさえすればYouTubeにある、ということはこの2回の偶然で身にしみてわかりました。

 それだけでなく、この動画↓のコメント欄には、ボヘミア民謡について、こんなことが書いてありました。

 私は、1950年代はじめ、スロベニアの田舎でこの歌をよく歌っていました。

 ……ということは、廃れた歌ではなく、けっこう最近まで歌われていたのはたしかのようです。ならば、YouTubeに原曲がアップされている希望が大です。
 それだけではなく、

 indescribably beautiful……その歌の美しさは、筆舌に尽くし難い
 you would bresk into tears……歌詞に落涙することは必定

 とまで書かれてある。
 もう、気になってしかたない

 なんとしてでも、楽譜に原曲のタイトルがないかどうか、探したいものです。

 

・◇・◇・◇・

 

で、楽譜を見てみたら、謎がふえた……

 では、実際に楽譜を見てみます。
 前々回の記事を読んだ方は記憶にあるかと思います。例の「ニールセン生誕150年記念」のサイト↓にいきます。

 ついでといっちゃあなんですが、このサイトもニールセンのあれこれを検索しているときに偶然あがってきたものです。
 いま、こんなふうにニールセンについてしたり顔で書いてますけど、リアルなところを明かすと、とにかく日本ではマニアックすぎて手がかりがないから、もう、すべてがインターネットの神の配剤と偶然でここまできてるだけなんです。

 リンクは今回も順調に文字化けしてます。「v脱rker」ではなく、本来は「værker」です。

 Bøhmisk-Dansk folketone は、このページのいちばん下にあります。
 タイトルをポチると、楽譜が出てきます。

 ……でました。だけど……
 見た瞬間、うっ!ムリだっ!……って思いました。

 

 私もみなさんと同じく、おたまじゃくしが苦手ですねん。
 それと、前々からフォローしてくださっている方はうすうすお気づきかと思いますが、私、メンタルやられてますねん。
 ひらたくいうと、うつです。

 うつは、情報処理能力が著しく落ちます。
 楽譜上に民謡のタイトルが記されているかどうかチェックすればいいのだから、「苦手なおたまじゃくしを無視してアルファベットだけ注目」すればいいのですが、情報処理がうまくできないから、そのへんうまく立ち回ることができなくなってるんですね。
 
 楽譜の上の情報全部が一気にぶわーっと目に入ってきて、脳みそが「助けて〜(@@;)」ってなり、逃げ腰になります。しかも、立ち向かえる気力がそもそも無いんです。
 ていうか、へたに立ち向かうと疲労がひどくなりかえって状態か悪くなるので、がんばっちゃだめなんです。
(ちなみに、うつの人に「がんばれ」と言ってはいけないのは、こういうときです。そんなときは「やめとけ、代わりにやってやる」と言ってもらえると、涙が出るくらいうれしいです)
 
 素人が六法全書見ても、どこに着目したらいいかわからず、途方にくれてページを閉じる……のような状態がイメージが近いかと思います。

 なんとか最後までたどり着きましたが、なーんも見つけれませんでした(あとで気が付きましたが、ホントはちゃんと書いてあります)。
 それどころか、オーフス交響楽団のフレージングの謎を調べることも頭から飛んで、ふらっふらになってました。

 だから、うつになってからは「本を読むのが苦手、とか、情報を読み取るのが苦手って、こういうことかなぁ……」って、いつも感じます。

 考え方を変えれば、「オプションで別の人の人生も体験してる」みたいなもんで、興味深いです。

 そのかわりに、新しい謎を見つけてしまいました……
 冒頭のメロディ、ニールセンがつけてあるスラーのとおりに歌おうとすると、めっちゃうまくいきません。
 なんでこんな歌いにくいスラーをつけたんでしょうかね?

 

・◇・◇・◇・

 

 こうなったら、王立図書館へGo!っす。

 どうやら、デンマークでは、王立図書館が中心となってニールセン関連の資料を収集し、整理しているようです。

 さっきの150年記念のリンクから楽譜を開くと、青文字になっているところがあります。それが、王立図書館へのリンクです。当該作品のページに飛びます。

 ……っていっても、いつもあまりたいしたこと載ってないんですけどね。
 予想どおり、民謡タイトルはのってませんでした。

 

 だけど、あきらめきれなくて、なんかないかなぁ、なんか出てこんかなぁ……とページのあちこちをポチポチしてたら、

 え……いま何かダウンロードしてもうたぁ〜!

 前にもそんなことがあったんですけど、いまだに、どこを触ったらその現象が起こるかよくわかってません。

 

 なんかよくわからんけど、アルファベットがびっちり書いてあるのが数ページ、ダウンロードされています。
 たぶん、楽曲解説なのだと思うのですが……ページの左半分が英語、右半分がデンマーク語で、世界に向けてニールセンの事績を発信する仕様になってます。

 もう、こんなん、解読するのムリです……
 見ただけでまた、うっ……てきます……

 半分以上あきらめモード入ってますが、でも、たぶん、これをのがすとヒントは見つからないと思われます。調子は最悪ですが、20年来の恨み……じゃなくって、謎を明かすためにも、ふんばります。
 でもさすがにデンマーク語は無理なので、英語の方をがんばってみます。
 しかも、「読む」んじゃなくて、「いかにも英語じゃない綴りを探す」というセコい方法でいきます。

 すると、ありがたいことに、わりとすぐ見つかりました。

The Czech melody is “Tecˇe voda, tecˇe” (“The water flows, it flows”), said to have been the favourite song of the first president of Czechoslo-vakia, Thomás Masaryk, which is why he was given the nickname “Old tecˇe”.The Danish element consists of the melody of the medieval ballad “Dronning Dagmar ligger i Ribe syg” (“Queen Dagmar lies ill in Ribe”).
 
※太字は筆者

 チェコ語(?)の独特の記号「ˇ」は目立つのでいいですね〜。
 デンマーク語の方も、数少ない知ってる単語「ligger (横たわる)」と「i (in)」がはいっていたので、すんなりと見つけれました。

 

 これで、

 ボヘミア民謡は Tecˇe voda, tecˇe 
 デンマーク古謠は Dronning Dagmar ligger i Ribe syg 

 だということがわかりました。
 それぞれ、付記されている英訳を参考にすると、「水は流れ、流れて」「ダウマー王妃はリーベで病の床に伏せている」と訳したらよさそうです。

 

 すごい!
 あとはこれをYouTubeで検索にかけるだけです。
 出て来い、メロディ!

 

・◇・◇・◇・

 

原曲とニールセンの意図①

 さあ、いよいよこのときがやってきました。
 Let's go!YouTube!です。

 まず、Tecˇe voda, tecˇe をそのまんまコピペして……えいっ!

 すると、拍子抜けするほどあっさりとみつかりました。
 そりゃあたしかに、これ以上苦労はしたくなかったですが、20年間謎だったから、もうすこし重々しく登場してほしかったなぁ……

 最初、トークが3分ほど続きます。
 だけど、そのあとに流れてきた歌声は、身震いするほど美しいものでした。
 まさに、さっきの動画のあのコメントのとおりです。

 もうひとつ↓、最上の歌い手を見つけました。

 私は Bøhmisk-Dansk folketone の冒頭のメロディはデンマークのもの、と予想していましたが、ハズレでした。こっちがボヘミア民謡でした。

 

 歌詞は、古い言葉のようです。検索して見つけましたが、グーグル翻訳が役に立ちません。なので、他の言語に訳されたものを探してみました。
 これは、中国語(繁体字)の翻訳付きのページ↓です。

 どうやら、「恋人に捨てられてしまった」という内容のようです。

 悲しい内容のはずなのに、さっぱりとしていて、明るい歌です。
 横へ横へとのびやかにのびていくメロディは、民謡特有のうねりをもっています。楽譜どおり正確に歌うのではなく、間やタメをもたせながらたっぷりと歌い上げる歌のようです。

 これ、よすぎます。カラオケに入っていたら、絶対歌います!

 

 でも、こういう自由にのびていく歌を、クラシックの縦で揃える枠組みに収めるのは大変だろうなぁ……と気持ちよく口ずさみながら、素人でも感じます。
 だけど、その一方で、Bøhmisk-Dansk folketone を、ニールセンの書き込んだスラーのとおりに歌おうと四苦八苦するうちに気が付きました。

 スラーのとおりにフレージングすると、メロディに自然うねりが生じるんです……まるで、Tecˇe voda, tecˇe のように。

 うおおおおおおおおお!ニールセン、そうくるか!

 この20年というもの、しばしばこの Bøhmisk-Dansk folketon を脳内再生してきましたが、いま、脳内のメロディが、これまでとは別物のように生き生きと輝いて聴こえます。
 すごい。ニールセン意図したフレージングって、こんなにすごいのかっ!

 脳内で、調子にのってどんどんニュアンスを濃くしていったら、五木ひろしの演歌か、韓国の演歌歌手のような、情念たっぷりの節回しになってしまいました。
 なにごとも、やりすぎはダメですね……万が一、Bøhmisk-Dansk folketone を指揮するときがあったら(いや、ないけど)、気をつけます。

 だけど、もし、Tecˇe voda, tecˇe をテレサ・テンが中国語で歌ったら、テレサ・テンの歌唱のたおやかさがいい感じになじみそうじゃありませんか?

 そのかわり、「いち、に、さん」の三拍子の刻みを意識すると、Tecˇe voda, tecˇe の横へとのびる流れが死にます。
 いちど、拍子のカウントが頭から離れなくなって、脳内再生するメロディが死に絶えてしまい、取り戻すのに苦労しました。

 

・◇・◇・◇・

 

原曲とニールセンの意図②

 こうなればぜひとも、Dronning Dagmar ligger i Ribe syg も検索して見つけたいものです。

 コピペして、検索。
 えいっ!

 すると、こんなの↓が見つかりました。

 大河のオープニングだとか、日本のNHKの映像もすごいですが、DR(デンマーク放送協会)の映像もハンパないです。

 ダウマー王妃は、ボヘミアからデンマークのヴァルデマー2世のもとに輿入れしてきて、わずか7年後に亡くなりました。20代で亡くなったと推測されているようです。
 動画は、ダウマーの最期にヴァルデマーが間に合わなかったエピソードをあらわしているようです。

 そして、歌のフレージング。
 オーフス交響楽団のソロの四重奏と同じです。

 楽譜では、Dronning Dagmar ligger i Ribe syg を引用したソロの四重奏の部分は、各音符にテヌートがつけられているだけで、それ以上の指示は見られません。
 ていうか、後半、チェロとコントラバスがこの旋律をくり返すのですが、その部分でも、執拗なくらい徹底的に、Dronning Dagmar ligger i Ribe syg のメロディを構成する全部の音符に、テヌートがついています。
 もうこの執拗さと徹底さがニールセンの意思そのものだと解釈するしかないくらいです。

 オーフス交響楽団の演奏はニールセンの指示をまもりつつ、自分たちがこの歌を歌うとき、自然に発生する、かなしみの吐息のようなフレージングをそのまま適用することで、Dronning Dagmar ligger i Ribe syg のメロディに命をあたようとしたのでしょう。

 

 さらに、この動画↓は全歌詞を歌っているようなのですが、なんと、歌い終わるのに7分もかかっています。

 単調でしつこい。
 しかも太鼓つきで、縦に刻んでいく音楽です。
 メロディが横にのびていくTecˇe voda, tecˇe とは真逆です。

 Tecˇe voda, tecˇe はメロディアスでどちらかというと今の歌に近い感じですが、Dronning Dagmar ligger i Ribe syg は原始的で、これ↓を思い出させます。

 いやー、まさかの伊福部昭でキングコングの歌です……これが頭に浮かんだ自分が自分にびっくりです。

 伊福部昭はゴジラのテーマを作曲し、円谷英二の東宝特撮映画や座頭市シリーズ、その他の日本映画を音楽面で支えた、日本のクラシック界の重鎮です。
 たぶん、今後の記事にも登場すると思います。

 また、こんなのも見つかりました。
 ニールセンと同時代で、かつ、いっしょに歌の楽譜を出版したこともある、Thomas Laub が合唱用に編曲したもの↓です。

 これにいたっては、まんま、Bøhmisk-Dansk folketon に聞こえます。ついつい、パクリ疑惑がよぎります。
 ですが、さっきの「うっかりダウンロードしてしまった解説」にはちゃんとそのことも出ていました。
 どうも、ニールセンが Laub の編曲をうまく取り入れたようです。ニールセン自身が楽譜に「Th.Laub のメロディから」とメモを書き残しているようです。

In the Radio Symphony Orchestra’s score for the piece (Source C) Nielsen has added the manuscript note “(Th. Laub’s melody form)” in bar 86, where the Queen Dagmar ballad first appears in its full form. A comparison between this passage and Thomas Laub’s setting of the melody confirms that Nielsen indeed took over both Laub’s melody form and his setting.
 
※太字は筆者

 Dronning Dagmar ligger i Ribe syg の原始的な持ち味を殺さず、かつ、Tecˇe voda, tecˇe や、ニールセン自身の現代の音楽の風味と練り合わせる。
 Laub の編曲は異質なふたつを橋渡しする役割をしているのではないかと想像されます。だけど、ニールセンはあくまで、Dronning Dagmar ligger i Ribe syg の原始的な持ち味をたもちたかった。だからこその「全音符テヌート」なのではないか、という気がします。

 余談ですが。
 ここまで、いかにもはじめて Dronning Dagmar ligger i Ribe syg を聞いたかのように書いていますが、どうも数ヶ月前に聞き逃していたのではないか、という疑惑が……。
 この↑アルバムからニールセンの歌を探すために、全動画をいちど開いて、作曲者の名前を確認して、という作業を一度しているんです。だから、どの動画も、冒頭だけは耳にしているはずなんです。
 Dronning Dagmar ligger i Ribe syg はいちばん最初に入ってました。しかも、この再生リストは、途中まで聴いた記憶があります。

 聞き逃したということは、やはりそれだけ異質な曲である、ということだと思います。Laub の編曲と聴き比べると、ますますその思いが強くなります。
 また、記事の冒頭にも書きましたが、Bøhmisk-Dansk folketon に対して「力強く光を放つ曲」と認識していたら、この録音の重たく悲嘆にくれた印象と重ならなくても仕方ないような気がします。

 

・◇・◇・◇・

 

 みなさま、お疲れ様です。
 今回の記事は全部で10000字ちょっとになりました。自分でもここまで長くなるとは思ってませんでしたが、まだまだ続きます。
 実はぜんぜん、核心部分にせまってません。

 今回の記事の核心はブロムシュテットの演奏↓なのですが、ここでいったん切ります。

 
 続きはこちら↓。


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