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花束みたい

社会人になってから睡眠時間がぐっと増えた。23時半には寝て、テレワークの日は、PCをつける1分前まで寝る生活。とにかく早寝遅起きの生活に浸っている。

でも、今日は眠れない!いま、3時45分。とても眠れない。なんか耳鳴りが音楽みたいに聞こえてきた。ぼーっとしている。よくない。でも眠れない。眠れないから、書く。わたしが昔、今日くらい眠れない日々を過ごしていたときの話。

その頃わたしは大学を秋卒業して、4月から新入社員となる予定だった。入社までの半年間は夜勤のアルバイトをして生活費を稼いでいた。20時から6時くらいまでシフトに入って、7時くらいに帰宅し、コンビニ弁当を食べ、胃をきりきりさせながら9時ごろ就寝して13時に起きる。そんな生活をしていた。お酒も大量に飲んでいた。
そんな生活をしていたものだから、身体的にも精神的にもかなり良くなかった。薬を毎日飲むことすらできなかった。正直、歯を磨くことすら面倒だったと思う。

その間わたしは恋愛をして、3ヵ月くらいであっさりふられた。ふられたのは、入社の3日前だった。

別れの予兆はなく(と、当時は信じていて)、きちんとふられたのは初めてだった。わたしはとてもまいった。入社式までの間、友だちに電話をかけまくり、死ぬほど泣き、家に駆け付けてもらったり美味しいごはんをつくってもらったりした。友だちは偉大だった。毎日誰かにいてほしかった。机の上がティッシュの山で埋めつくされていた。花束みたいだな、と思った。勝手に咲いてんじゃねえよ、と思った。まだ綺麗なものに例える元気はないんだ、こっちは。

慟哭といえる 花弁に見えなくもない鼻紙に紛れて咲いた
―――椛美

しばらくの間はなんにもしたくなかったけど、そうも言っていられずに3日間が過ぎ、わたしは社会人になった。入社後2週間はとにかく食べものが喉を通らなくて、お昼には隣の席の子に「ほんとにそれしか食べないの?!」と驚かれた。会社では、ふられたことを積極的にネタにしていた。同期は10人中7人に恋人がいて、心の中で「社会の荒波にもまれてふられてしまえ!」と思っていた。1年経ったいま、半分以上が別れてしまった(わたしの呪いのせいじゃありませんように……)。

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いまになって思えば、全然うまくいっていないふたりだった。

つきあい始めた瞬間から何かのスイッチがはいってしまって、わたしは異常に相手に執着していたと思う。すべてが良く見えていて、「彼と別れたら結婚はできないだろう」と本気で思っていた。本当に謎だ。そのくせ思い通りにならないと泣いたりすねたり相手の家に押しかけたりして、ひどいことばかりしていた。相手を尊重するということを、1ミリもしていなかった。

そのエンジン爆かかり状態のわたしに、彼は明らかに引いていた。これは私が異常だったから、とても反省している。彼も人より自己肯定感が低くて「なぜおれのことをそんなに好きになれるんだコイツ」とか思っていたと思う。

悪いことに、わたしは「これは社会人になる直前の今だからできるわがままだから許されるはず。社会人になれば今のように頻繁に会ったりはできないから、今は思い切りわがままでいよう」と思っていた。早い話が、入社前のわたしはものすごくひまだったのだ。だから、彼のことを考えすぎて、自分の中だけで彼への愛情を育てすぎて、ぶくぶくに太った感情に飲みこまれて身動きが取れなかった。わたしの友だちで「(付き合っている恋人の)イデアが好き」と言う人がいたけれど、わたしが彼に対してもっていた期待は明らかに彼のイデアからずれていた。円形を四角と言い張っていた。
そして、さらに悪いことにその時わたしは前述の通りアルバイトで精神がずたずたになっていた。それもあり、「入社してアルバイトを辞めればストレス要因もなくなるし、今だけはおんぶにだっこでいさせてください」と思っていた。
結局、入社前に別れてしまったものの、入社後はびっくりするほど精神がおだやかになり、お酒も飲まず健康優良児のようにぐーすか寝る生活になりました。予想は間違ってなかったけど、もし会社の環境がすごくブラックだったらわたしは変わらず彼に依存しまくっていたかもしれないから、彼が手を放したのは賢明な判断だといえる。

違う星のように瞬き同じ星のように流れてふたつに割れる
―――椛美

わたしの精神状態は、彼にとって大きなネガ(=「こいつめんどくせ~」)のひとつだったわけだけど、もうひとつ、決定的なことがあった。

ある時わたしは彼のことを見ていて、ふと短歌を思いついたので何首か書いて彼に見せた。そうしたら、ニュアンス的には「もうやめてほしい。せめて自分には見せないでほしい」というようなことを言われた。おそらく、自分のことを題材にして創作に昇華されることに嫌悪感・気持ち悪さを感じたのだろう。そりゃそうだ!本当にそうだ。本当に申し訳ない。何か実際にあった出来事などをそのまま短歌に起こしたわけではなかったし、彼に会う前に作ったものも含まれていた。でも、その「気持ち悪さ」は至極真っ当なものだし、ほんとうに反省している。人に見せるつもりではなかったクローズな関係性を下敷きにして創作物をつくるということは、みんなやっていることではある。だけれども、ものすごく慎重にならなければいけないことだ。たとえばアラーキーの私写真。園子温と神楽坂恵。ピカソとドラ・マール。

その人はわたしのSNSを見ていないだろうからわたしはもう彼を傷つけることはないと思ってこうやってnoteを書いているけれど、こんな風に「まあ、いいだろう。だってアートだもん」というような投げやりな正当化はハラスメントでしかないはずだ。本当にこのnote公開していいんだろうか。もし見ていたら、そしてこれが嫌だったらこのnoteは消しますから教えてください、ごめんなさい

わたしは、ふられた直後にあえて映画館に『花束みたいな恋をした』を観にいくような人間だ。「こうなったらとことん胸を痛めてやろう、いましか味わえないこの感情の揺さぶりをなにかに昇華してやろう」と、なんならチャンス!とまで思っていたふしがある。わたしの発する言葉や創作物や赤裸々な文章が、今まで、そしてこれから関わる人を傷つけて不幸にしたらどうしよう。恋愛して曲書くバンドマンと変わらない。というか全く同じだ。
わたしの書いたものは別に何百人・何千人に届いているわけではないけれど、世界に発信している時点でそういう責任が絶対に生じるはずなんだよな。きちんと向き合って自分のスタンスと、誰かを傷つけないようにする方法を模索しなければいけないと思う。

花束を火に水に散らして歩いた ただ力いっぱい老いるため
―――椛美

色々書いたけれど、結論として、どういうつきあい方をしたとしても我々はうまくいかなかったと思う。別れたあと、色々な考え方をした。こうしていたらうまくいっただろうか?時間が戻せたら、失敗を踏まえれば、なにか筋道が見えるの?でも、恋愛関係としてはうまくいかない理由ばかりがぼこぼこ湧いてきてもはやすがすがしかった。そして、ifのシミュレーションはまったく無意味だった。わたしが8割わるいが、彼も恋愛をする時期ではなかったと思う。わたしより彼の方が根本的に精神を病んでいると思うときもあった。

それでも、とてもよいつきあいだったと思う。わたしがアルバイトでいちばん辛かった時期を、バイトを辞める日まで支えてくれたことをとても感謝している。彼はきっと早い段階でわたしに愛情がなくなっていたのに、「バイトを辞めるまでは」と義務感で支えてくれていたんじゃないか。尊いじゃないか。

それでいいと思う。

別れ話をしているときの顔がいちばん美しかった。あまりの痛みに「失恋 心筋症」で調べたりもした。でも、2か月経ってしまえば元気にたのしく過ごせた。「わたし、もう他の人と付き合えないんじゃないか」といった舌の根も乾かぬうちに新しい恋人もできた。人間、というかわたし、ずぶとい。

この話をどんな風に結んだらいいか、わからない。なんだか自分がすごく悪いことをしている気がする。そしてその気持ちを赤裸々に書くことで許されようとしている自分がいる。ごめんなさい。なりたくなかった大人にどんどんなっている気がする。矯正された部分もあるけど。ある意味これもフィクションだけど。【フィクションです】【自由恋愛でした】【それってあなたの言い訳ですよね?】【書き逃げですか?】さようなら







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