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中国奇谭ってアニメが中国で大ヒット中。上海美术电影制片厂が生み出した新たな流行

中国通のみなさん、新たな中国アニメ「中国奇谭」(Zhōngguó qí tán)は知ってますか?

中国奇谭の微博より

上海美術映画製作所(上海美术电影制片厂)とBiliBIliが共同で制作したアニメで、年末に公開されてからまたたく間にバズりました。 2023年の1月6日時点で「中国奇譚」のBiliBiliでの再生回数は2000万回を越え、10点満点で9.6点という高評価です。

「中国奇譚」は中国の怪談をベースに11人の監督が発想し作られた8つの短編(全8話とのこと)アニメです。制作開始から2年間をかけた大作たちで、それぞストーリーやアニメのスタイル、方向性が様々な作品になっています。

ボクも現時点で第3話まで見たのですが、日本のアニメとは違った中国独特の世界観で描かれていて、かつそのクオリティに衝撃を受けました。第一話は西遊記をベースにした物語で日本昔ばなし風なタッチ、一方で第二話キツネの怪談話が水墨画スタイルで立体的に表現されています。ちなみに第二話はある程度中国文化を理解していないと難しいかも。

そして、作品のクオリティや面白さだけではない点でも熱狂を生み出しています。それはこのアニメの制作が上海美術映画製作所という昔の中国アニメを知ってる方は絶対ご存知の重鎮なこと。

上海美術映画製作所は1957年に設立された国有のアニメ映画の製作所です。設立当時のメインクリエイターは中国アニメ映画の創立者と言われる万籁鸣さん。上海美術映画製作所が設立するまで、万氏が中国初めてのアニメ映画である「铁扇公主」(The Princess of Iron Fan)(1941)の製作も率いてました。この作品をきっかけに、手塚治虫さんが医学を辞めてアニメ制作に転身したのは有名なストーリーです。

その後、上海美術映画製作所は次々と話題の作品をリリースしてました。1960年に作られた「小蝌蚪找妈妈」(Baby Tadpoles Look for Their Mother)は中国で初めての水墨アニメで、第4回アヌシー国際アニメーション映画祭短編特別賞を受賞。

宮崎駿氏もこの作品を非常に高く評価して、中国を訪ねた時にわざわざ上海美術映画製作所を訪問したそうです。ただ残念なことに、当時の管理者は作品の創作よりも日本のアニメ映画の工業化に対する興味が高く、宮崎氏からみて想像と全然違うがっかりした訪問になってしまったそうです。

その後1961年と1964年に上海美術映画製作所は再び世界を驚かせます。「大闹天宫」(The Monkey King)の二部作をリリースし、この作品が第22回ロンドン国際映画祭最優秀作品賞などの賞を受賞しました。

手塚治虫さんからもこんな絵がありました。

ただ成功は続きませんでした。中国では文革などが起き、上海美術映画製作所にも大きな影響を及ぼしました。実際しばらく作品がリリースされなかった。

そんな逆境のなか、1979年に上海美術映画製作所は14回の人形アニメ「阿凡提的故事」(The story of any lift)をリリースしたのですが、これは国民的な作品に。日本でもアニメが放送されたこともありますかね。

↑これこそ中国の80年代生まれの全員が知ってる作品だと言っても過言ではないと思います。

その後も影響力のある作品をリリースした国有アニメ映画製作の大手ですが、WTOに加入した中国のアニメと映画市場はますます市場が大きくなり制作方式も近代化されました。古い国有経営スタイルは段々と時代遅れになり、最近では影響力の高い作品はほぼ皆無な状態が続いていた。

と、みんなが上海美術映画製作所の昔の作品と現在の不調を心痛いほど残念だと感じていた最中、今回の「中国奇谭」という、いわゆる「上美影」らしい作品が現れたことが大きく話題になりました。

これ以上言葉で魅力を説明するのが難しいしネタバレになってしまうので、ぜひBilibiliのサイトで見てみてください(英語の字幕がありますのでご安心を)。

今中国で社会現象を起こしているのですが、どれだけ人気なのかというと、他を圧倒する再生数やSNSでのバズりはもちろん、関連グッズはすでに売り切れ状態、同人作品や二次創作、コスプレ動画も次々とアップロードされているのです。

第一話の人形を作ったUP主。すごいクオリティの高さ、欲しい

第2話のcosplayをしたUP主。特徴掴んでますね

先日、中国で最強のSF小説「三体」がアニメ化され公開されたことを紹介しました。

今回の「中国奇谭」は「三体」を超えた国産アニメだと好評の嵐で「中国アニメの勢い半端じゃないな」と思いきや、「三体」はちょっと暗雲がたちこめています

1日で1億人以上が見るほどのスタートダッシュを切った「三体」の1話2話は原作の影響力による注目を集めた一方で、5話からのストーリーがあまりにもあり得ないという悪評が拡散中。影響の大きさに広告主が降板するという予想外の展開になっています。

そんな状況なので、「これだぞ!上海美術映画製作所!クソ資本制作三体は見習え!」との声をよくネットで見かけます。
まぁ、三体もこれから復活するかもしれませんし。歴史ある制作チームも新鋭も切磋琢磨して素晴らしい作品を次々出していって欲しいです。もちろん日本のアニメにも期待しています。

(参考資料)


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