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#19:アルジェリアの呪術師プリンス?(前編)

彼はアルジェリア人だといった。砂漠の少数民族の出身だ、と…。後から調べてわかったのだけれど、おそらくトゥアレグ族のことではないかと推測される。トゥアレグ族は女性の地位の方が高い民族だ。アルジェリア人の名前は忘れてしまったのでトゥアレグ族のTということにしよう。

待ち合わせ場所に現れたTはラルフローレンのビッグポニーのネイビーのポロシャツを着ていた。スタイルのよさはアフリカ系民族であることから納得だったが、それ以上に目を奪われたのは滑らかな筋肉質な褐色の肌と美しい顔立ちだった。トゥアレグ族は美男美女が多いことでも有名だとか。
待ち合わせ時間が昼間だったことがなんだか新鮮だったし、ピザを食べたあとにカフェへ誘われたのも健全な感じがして気に入った。それにしても、平日の昼間からランチやお茶ができるなんてどういう身分なのだろうか。

「僕はね、占いができるから、手を見せて」とTが言い出したので
「じゃあ私のことについて何かわかるの?」と聞き返すと
「山羊座だよね」と突然当てられる。ほどなくして
「1月生まれかな」と詰めてくる。
「なんでそんなことわかるの?すごい…」と驚いていると今度は
「アルジェリアの少数民族の王子だから与えられた才能なんだ」と言いだす。
そんなこと、ある?と思いつつもシャーマン的な存在が部族の長になるパターンなのか。と妙に納得しつつも素朴な疑問を呈した。
「…じゃあなぜ日本へやってきたの?」
「まぁ、勉強みたいなものだよ。いろいろなことを知っておきたいから」

ふーん。本当に、世界は広い。世の中にはいろいろな人がいるもんだ。もしこの人の話が本当だとしても驚きだし、嘘だとしても平気でこんな話を思いついて初対面の女に堂々と話す人間がいることにも驚きだ。どちらにしても私にとっては興味深く感じた。

駅前の商業施設の中にある本屋に行こうというT。変わったデートコースだなと思いつつも本屋をブラブラするのは好きなので喜んでついていく。駅前にもかかわらず、人通りの少ない本屋だった。

「目を閉じて、意識を集中させて」と突然静かに語りかけるT。
言われたとおりにすると静かに両腕で包んできた。あぁ、なんだか気持ちがいい。周りの音が急に聞こえなくなる感覚だった。立ったまま瞑想しているようだ。しなやかな筋肉に抱かれるのはとても心地よかった。この人とセックスしたら気持ちよさそうだな、と感じた。
よく考えてみると本屋の通路で抱き合ってるカップルがいたら、避ける。今から思い返してみると、あの時私たちの回りだけが静寂に包まれたように感じたのは一般常識のある日本人に避けられていただけだろう。とはいえ、厚い胸板や張りのある肌は激しいセックスを連想せずにはいられなくなるほどセクシーに思えた。

「じゃあ、僕はジムに行くからまた会おう」と言って彼は颯爽と消えていった。
しないんだ…。と少なからず残念に思っている私がいた。単なる好奇心もある。黒人男性とセックスしたことがなかったので試してみたいと思ったし、彼はきっとセックスがうまいに違いない。私は連絡をこちらからするタイプではないので彼が「また会おう」と言ったことを思い返しながら、ミステリアスな男の腕の感触を思い出して自分の腕をそっと撫でてみた。

~続く~

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