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#24:お誕生日の記念に、とミラノでもらったプレゼント~年下のイタリア人カメラマン~

40歳になった日、私はミラノで一人旅を満喫していた。
今日は、誕生日か…と夜に予定がないのが少し寂しい気がしたが、何より一人で過ごせる贅沢と前の日よりもゴージャスなホテルに移動してきたことが自分への誕生日プレゼントだと思って満足度は高かった。ランチに老舗トラットリアでたっぷり食べたからか空腹感はない。散歩がてら中心部へ出かけることにした。

ドゥオモからほど近い、若者でにぎわうカフェでフレッシュのオレンジジュースを飲んでいる私の席の横に座っていた30代前半ぐらいの男が話しかけてきた。
「やぁ。元気?」
「ええ。旅の終盤で少し疲れているけど元気」
「日本人?イタリア語わかるの?」
「うん。イタリア語は少しだけね」
「へえ!すごい。僕の名前はG。もう少しおしゃべりしてもいい?」
といった具合に他愛もない話からお互いの仕事の話になった。
彼は、ファッションや建築などを専門に活動するプロのカメラマンだった。作品をいくつか見せてくれて、人間の美しい瞬間を切り取った作品にすぐに私は魅了された。
「どんな写真家がすき?」と聞かれたので
何人か好きな写真家を答えたら
「有名どころが多いね」と言うので
「だってあまり知らないもの。でも、あなたの作品もとてもいいと思った」と私は正直に笑って答えた。
こんなときに気取っても仕方がないと思っている人間なので、素直に振舞うのが自分もリラックスできる。
「私はライターなの。ミラノに来ているのは仕事が半分、遊びが半分、そして、今日は40歳の誕生日」と言うと
「ホントに?!ディナーの予定は?一人なの?」と聞かれた。
「お昼食べすぎちゃってあまりお腹はすいてないけどルイーニ*なら食べれる」(*ルイーニは揚げピザの名店)
「ご馳走する!」とすぐルイーニに連れていってくれた。フォトグラファーなだけあってアーティスティックな見た目とモノを見るときの視線が素敵な人だった。私が美味しそうに揚げピザを頬ばるのを見ていた彼は
「そうだ!もしよければ、バースデーポートレートを撮ってみない?」と突然提案してきた。
旅先のミラノでプロの写真家に撮影してもらえる機会なんてめったにないことだ、と思った私は快諾した。

ホテルの部屋で撮影をすることにしたので、フロントで彼が部屋に入る旨を伝える必要があった。イタリアの高級ホテルは意外とそういうところが厳しくて、宿泊者以外が部屋に入る場合、本人確認や証明書が必要だ。普段泊まっているようなところならスッと入れただろうが、今日はちょっと様子が違う。そのときに「プロのカメラマンで、今日は彼女のポートレートを撮影する仕事がある」と言ってIDを見せたら、急にフロントのスタッフの彼に対する態度がにこやかになり、お部屋にどうぞと彼を通してくれた。

部屋に入るとGはさっそくカメラを取り出して私の写真を撮っていった。リラックスして。微笑んで。にらんで。僕を誘うようにして。そんなこと、慣れていないのでうまくできないし、どう考えてもぎこちなくなってしまう私にGは「まだ緊張してるね。キスしていい?」とカメラを下ろして私の耳元で聞いた。彼のキスはとても気持ちよかった。私はだらしなく開いた口元のままレンズを見つめて、彼は私をレンズ越しに真剣に見つめていた。

「セクシーだね」とベッドの上に横になるように指示された私は明らかに興奮していた。彼が欲情してるのが伝わってきたし、こんなにいろんな角度から写真を撮られたのも初めてで、非日常感が煽情的な気持ちにさせた。一緒にバスルームへ移動してからは撮影はいつの間にか中断されていて、温いシャワーに打たれながら舌の絡むキスをしていた。彼は背後からシャワージェルを私に塗りつけて体中を綺麗に洗ってくれた。こんな状況になるとはまったく思っていなかった私はますます自分が自分でないような気がして、興奮が止まらない。跪いて彼の固くなった部分を丁寧に舐めていると、Gは呻き声をあげて私の首に置いた手に力をこめた。

シャワーブースとバスタブの間に大きくて分厚いバスタオルを敷いて「寒くない?ベッドまで我慢できないんだ」と私を床にそっと下ろした。Gの体から水滴と汗が混じってポタポタと私の体に滴り落ちてくる間、私はバスタオルからはみ出た部分で冷たいタイルの感触を確かめるように、自分の体をGに押し付けた。ウットリとこちらを見ながら、気持ちよさそうに私の体を味わうGを見ていると、自分がすごくいい女になったような気がした。

セックスが終わったあと、また彼はカメラをこちらに向けて「ほら、すっごくいい表情になった」と撮った写真を見せてきた。セックスが終わったあと、私は男の前でこんな表情をするのか。と思って照れくさくなり「やだ、変な顔」と言って髪を乾かしたい、とそそくさとその場を離れようとした私だったが、気付かない間にバスルームの扉の隙間からGは私が髪を乾かす表情まで撮影していた。少し、気取っていて自信に満ち溢れている。そして撮影されていることに気付いた瞬間の私の屈託のない笑顔は、自分でも気に入っているショットとなった。誰にも見せることはできない、40歳のポートレートだ。

私のパソコンに自分のカメラのデータを移しながら、私に横に座るように言ったGは写真をチェック、リタッチしながら「いいお誕生日の思い出になった?ミラノに来るときは必ず連絡して」と私にキスした。

今でも時々あの日の写真を見返すことがある。誘うような表情、挑発するような表情、快楽に崩れる表情、夫が知るはずもない私がたくさんそこにはいる。

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