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#27:雪ダルマ男③仙台と東京と神戸で交錯するキモチ

好きとか嫌いとかよりも、なぜ会えないのかがどうしても気になった私は、とにかく意地になっていた。仙台までわざわざ行った日から数ヵ月後、クリスマスが過ぎ、お正月が過ぎ、誕生日が過ぎてもTはドタキャンを続け、結局神戸に来ることはなかった。

またひとつ季節が移り変わり、東京での一人暮らしが始まった。東京工大の近くの小さな部屋を借りて、狭いながらも初めての一人暮らしは快適でありつつ、当時はネット環境もそんなに整っていなかったので、どこかへ遊びにいくにも友達もいなければ、どこに行けば何があるのかすら分からなかった。慣れないことばかりで、時には仕事に疲れて肩を落として歩いていることもあった。そんな時、愚痴を聞いてもらえるのはTだった。会うことはなくても、話は聞いてくれる。たびたび電話をして愚痴を言って少し救われた気分になった。

結局私は孤独に負けて、1年足らずで退職した。私以外にも数人退職者は出ていた。キラキラした旅行会社での仕事を夢見ていたけど、現実はまったく違うものだった。キラキラする部分までたどり着けなかっただけだと思うけど。
さすがに何もしないわけにもいかないので化粧品会社で働きだした。実家に戻ると、少なくとも孤独からは解放されてTの存在は無意味なものになっていった。いつの間にか、新しい彼氏ができていたけどその人は名古屋勤務になったので、そうそうデートを楽しむことはなかった。

Tから時々は連絡が来ていたが、冷静になって考えれば考えるほど20代の貴重な2年ほどの時間を無駄にさせられた、という気持ちでTに対する憎悪の気持ちがどんどん増していっていた。これで電話に出るのも最後にしよう、今後はブロックしよう、と決意したとき、思いつく限りの言葉で罵って、恨んでいることを伝えた。自分の中に鬱積していた汚いものが湧き出てくるのを感じていた。

「もう、かけてこないで」と言う私に
「本当に申し訳ない。ごめん」と力ない声で返したTが憎くて仕方がなかった。会わないなら、会えない理由があるなら、もっと早く言ってくれたらよかったのに。そう思えば思うほど悔しくて憎らしかった。

忘れかけた頃に、再びTからメールで連絡があった。今までにないぐらい、具体的に新幹線の時間や番号が書かれていて、新神戸駅に12時に来てほしい、時間はとらせないから。という内容だった。
これまでと違う。と感じた私はもはや騙されついでだ、といわんばかりに新神戸駅へ車で向かった。家からさほど遠い場所ではないし、今回は仙台へ飛行機で行くのとはリスクの大きさが違う。

駐車場に車を停めて日傘をさして駅のホールへ向かった。
新神戸駅には「お待たせ桶」というバカみたいな名前のついた待ち合わせ場所がある。「お待たせOK」とかけてあるのだが、その桶の前に立っている自分が何よりもバカみたいだと思った。散々待たされた女が「お待たせOK」の桶の前に立っているなんて、酷すぎる。そんなことを思いながら数分が過ぎたとき、聞きなれた声が背後で聞こえた。

来た。本当に来たのだ。

続く

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