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嘘なら、夢ならよかったのに(後編)【夢見る恋愛小説】

数日後、本当にプリンセスは現れた。

目を丸くして驚いている兄弟に、
『来るって言ったじゃない?』
と茶目っ気たっぷりに微笑んでいる。

1つ、2つと咲き始めた薔薇を数える後ろ姿。

1度の奇跡で終われば、
なかったことにできたかもしれない。
平凡な毎日に麗しいプリンセスが登場して、
心を奪われないなんてできるだろうか。

それは10才のぼくにも、
年の離れた兄にも同時に訪れた初恋。

決して、結果を求めるものではない。
恋に堕ちる瞬間とは、そういうもの。
誰にも、自分にもとめることはできない。


花の話をしながら、時には少しだけ
お互いの生活の話もした。
話さなくとも、あまりに違うことはわかっていたので些細な話だけだが。

でも、大事なのは話の内容ではない。
とても居心地のいい空気が流れる。

もっと一緒にいたい。
帰りたくない。
また逢いたい。

そう思うこの気持ちが、きっと恋なんだね?


花も毎日では変化も少ないし、
プリンセスも ‘こっそり’ なので
数日おきに幸せな時間は訪れた。

しばらくしてそろそろ満開に近づいた頃、
プリンセスが『また明日』と言った。
明日?と思ったぼくと兄は顔を見合わせた。

プリンセスがここへ来る理由が、
ついに花だけではなくなった日だった。
もちろん、その対象は10才のぼくではない。

兄は、頑張って平然を装っていた。
忘れてはならない、ぼくたちは平民だ。


ある日、プリンセスの花のイヤリングが
とても素敵だったのでぼくが見つめていると
『片方あげるわ、お揃いね』と、くれた。
子どもに対する優しさだとはわかってる。
それでも、ある日突然現れた
行動力があってお茶目で素敵なプリンセス。
到底かなわない10才の淡い初恋も、彼女のおかげで深まるばかりだ。


♦♦♦


ドンドンッ!!


まだ空が暗い早朝に、ドアを叩く音。
さすがに家の奥の寝室にいる父と母も
まだ寝ている。

…ん?
寝ぼけているぼくに、絶対に出てくるなと言って兄が玄関に様子を見に行った。

少しの会話となにか物音が聞こえた。
そして用事が済んだようだ。

来るなと言われたが、ベッドから起き上がり
気になって窓から去っていく馬を見た。
あれは…お城の馬!!

嫌な予感しかしない、
こんな田舎の家にお城の馬が来るわけない。
急いでぼくは裸足のまま玄関へ向かう。

…兄さん!!


そうだよね、他に用事ないよね。
10才のぼくにはどうにもできない現実。
兄さんとはもう、話もできない。

悲しむより先にぼくの心の中は
「伝えなきゃ!」でいっぱいだった。

必死に走った、どこをどう来たか覚えてない。
馬車を使うお金もない。
走るしかない、走って、走ってお城についた。

案の定、衛兵に止められる。
城になんの用事だと。
ぼくはプリンセスにもらったイヤリングを
握りしめてきた。
ぼくには、これしかない。

「これを見て!!プリンセスに会わせて!」

一瞬驚いた衛兵だが、
それを見て放置するわけにもいかず
仕方なくぼくに付き添って城に入ってくれた。
お仕事だから止めるんだよね、ありがとう。
と、心の中で感謝した。

そうはいっても簡単には会えないか…
ここからどうしようと思いながら
衛兵の横を歩いていると、
騒ぎを聞きつけたプリンセスが勢いよく
外に飛び出してきた。

さすがだな、ぼくと兄さんが大好きな
行動力あるお姉さんだよ…。
姿を見たら安心して、座り込んでしまった。

それと同時に、安心したら忘れていた感情がいっぺんにやってきた。
「姫様…兄さんが…兄さんがさっき…!!」
察しのいいプリンセスがボロボロなぼくを
気にすることなく、強く抱きしめた。

「お城の馬が、うちに来たんだ…」
言葉にならず、抱きしめながら大きく
うん、うんと頷いてくれたプリンセスから
あたたかい涙がぼくに降り注いだ。
あたたかさが染みて痛い。

「どうして…?
    お城の人は…姫様の家族でしょう?
    どうして姫様が悲しむことをするの…?」

兄さんたちが過ごした時間は、
いつだってぼくも一緒に見ていた。
ぼくも同じ人が大好きだけど、
そんなことどうでもいいくらい
そこには幸せな時間が流れていた。
だからこの状況で、プリンセスを責める
気持ちなんて少しも持たなかった。
ただ、なぜこんなことになったのか、
理解できない疑問は悲しくも彼女に訊ねるしかなかった。

「どうして…?どう…して…?」
泣きじゃくるぼくに、
抱きしめていた肩をいったん離し、
涙で崩れた顔を隠すことより優先して
しっかり目を見てその答えを教えてくれた。
涙と涙の合間に、本当のことを教えてくれた。

『きっと私が…婚約の話を少し延期して
   ほしいなんて…お父様に言ったから…』

ぼくたちの何がいけなかったんだ。
ただ、みんな恋をしただけじゃないか…

『私のせいで…守れなくてごめんなさい』

そんな勇ましい答えをくれた。
ただの、か弱いお姫様ではない。
そんなところが、
ぼくたちが大好きなプリンセスなんだ。


◇◇◇

これ以上もしものことがあってはと、
そのままぼくは専属のお花係に任命された。
‘子どもだから’とプリンセスが押し切り、
権限が行き届くほど近くにおき、かくまってくれたのだ。
悔しいけど、自分の幼さに救われたわけだ。

翌日、プリンセスの信頼できる側近たちと
一緒にぼくたちは教会で兄と別れを告げた。


それはまぶしいほどに、
あの日からプリンセスが楽しみにしていた
薔薇が満開に咲きそろった日だった。



◇◇◇

ぼくはあの日、淡い初恋を教会へ置いてきた。
お城でお花係として兄さんの分まで、
プリンセスが幸せになっていくのを見守る。
仕事としてだ。気持ちは持ち込めない。


ねぇ兄さん?
運命には逆らえないけれど、
今日という日をぼくなりに精一杯生きているよ。

今年もそろそろ、薔薇が咲きそうだよ。
見てくれているよね?



~※~※~※~


僕は運命を前に何もできなかった。
プリンセスや弟のこと、両親のこと。
心配はたくさんあるが、どうしようもない。

善意に満ちた生き方をして来た訳ではない。
でも、特別悪いこともしてこなかったので
僕は天国へ行かせてもらえるようだ。

そして今、人としての最後の選択をする。

天国では一切の苦痛がないかわりに、
1つだけしか人として生きていた時の感情を持っていけないらしい。
感情だけだ、記憶は持っていけない。
それを何にするか?と問われている。

そんなの決まっている。

『君を愛していた気持ち』

それがあれば僕はこれからも幸せだ。
いつだってあたたかい気持ちで過ごせる。


たとえ、
君が誰だったのか?
どんなふうに出逢い、
どうなふうに過ごしたのか…
その記憶は持っていけなくても。


どうして僕たちは出逢ったんだろう?

出逢わなければよかった?
ほかの未来があった?

そんなことできた?

今でもたしかに、こんなに愛しい気持ちだけはっきりとここにあるのに…



ー Fin ー


~※~※~※~※~※~

このお話を読むときにBGMとして
聴いてほしいテーマソングはこちら↓


そして…
エンディングソングとして読み終わったあと
聴いてほしいのがこちら↓



こちらのステージver.も
良かったら観てください↓


テーマソングからイメージを膨らませて
私が書いた完全フィクションの
ファンタジー中世ヨーロッパ恋愛小説です。

前編·後編にわたり
読んでいただいてありがとうございます✩.*˚

素人が不安げに投稿してるので
noteでもtwitterでも
感想聞かせていただけると
もれなく私が喜びます...♪*゚

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