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【小説】Dying Lightの盗賊たち(全6話)

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2021年おきなわ文学賞小説部門落選作をnoteで供養してます。ビターな青春小説です。読んでくれたら嬉しいです。
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Dying Lightの盗賊たち【第1話】

Dying Lightの盗賊たち【第1話】

 住宅地と埋立地をつなぐ橋の上から、黒々とした海水の帯のなめらかな表面が、両岸に対になって並ぶ外灯の投げかけるオレンジ色の光を、磨りガラスの不規則な凸凹がきらめきくように反射しているのが見える。
 琉樹はメロンソーダの残りを飲み干し、助手席のパワーウインドウを開け、磯のにおいと夜の冷たさが混じる空気のなかに暖色の光を照り返す水面めがけて、ペットボトルを投げつけた。ペットボトルは斜め後ろの方向にふら

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Dying Lightの盗賊たち【第2話】

Dying Lightの盗賊たち【第2話】



 二人は琉樹が一年前に辞めた配送業の会社で知り合った。琉樹の勤務する集配センターは慢性的な人手不足を埋め合わせるために、大学生が数多く登録している派遣会社から短期アルバイトの派遣を要請するのが常となっていた。残念なことに、周りをサトウキビ畑に囲まれたこのトタンぶきの配送センターには、コミュニケーション能力に難があり、始業時間を守らず、覇気がなく、そのくせ社員に聞かずに仕事を勝手に進める謎の積

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Dying Lightの盗賊たち【第3話】

Dying Lightの盗賊たち【第3話】

 カズアキから再び連絡が来たのはそれから二か月後の十二月初め、二人がしゃべり始めてちょうど一年経った寒い日だった。琉樹は別の短期アルバイト派遣会社に登録し、週に二、三回ほどイベント会場の設営や解体のアルバイトをしていた。ジャンパーを着こみ、コンベンションセンターでテントを設営する途中、ジーパンのポケットに突っ込んだスマートフォンの振動を感じ取った。昼休みに確認すると、カズアキからのLINEだった。

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Dying Lightの盗賊たち【第4話】

Dying Lightの盗賊たち【第4話】

 アパートのアルミサッシの窓枠からのぞくモクマオウの樹が、地面に対して垂直に立ち昇る黒い焔の柱へと変わり、夕暮れが近づく空に油のように浮いている錠剤色の雲の底を溶かしている。琉樹は二日酔いで痛む頭を左手で支えながら、静止画のように窓に嵌め込まれた外の風景を見つめていた。
 散らかった部屋の畳の上に、ハードカバーで装丁された、とある劇団のファンブックが無造作に置かれている。宜野湾市長田のブックオフに

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Dying Lightの盗賊たち【第5話】

Dying Lightの盗賊たち【第5話】

 カズアキがビデオデッキくらいの大きさの段ボールを持って車に戻ってきた。差しっぱなしのキーを回し、ヘッドライトを点ける。
「これ、例の薬品が入っているハコ。あんまり揺らしたらマズいらしいから、膝の上で大切に持っといて。お願い」と指示して琉樹に段ボールを渡した。琉樹の顔が少しひきつった。カズアキはアクセルを踏んだ。サイドミラーに映る照明を浴びた「株式会社 南開薬業」の看板がどんどん小さくなった。
 

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Dying Lightの盗賊たち【最終話】

Dying Lightの盗賊たち【最終話】

 二人は目的地に着いた。そこは建築資材置き場だった。両方をサトウキビ畑に挟まれ、向かって左側に建つトタン屋根の倉庫には、「(有)根路銘建材第一資材ヤード」と書かれた看板が下げてあった。資材置き場は倉庫を抱き込むように左へと折れ曲がり、上空から見ると直角のカギ状になっていた。周りはフェンスが張り巡らされており、奥側にはギンネムが茂り、さらに左奥には破風の門中墓がぽつんと建っていた。あたりには外灯一つ

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