『No Nukes』 (1) ジャクソン・ブラウン&ドゥービー来日記念 名盤と人 第28回
ジャクソン・ブラウンが来日、そして4月にはドゥービー・ブラザーズの来日が迫っている。そこで1979年に両者が揃って参加し、他にもジェームス・テイラー、カーリー・サイモン、ボニー・レイット、CSN、ブルース・スプリングスティーン、トム・ペティなどが大挙して参加した『ノー・ニュークス(No Nukes)』のライブ。原発反対をテーマで開催されたこのライブについて書いたみた。
原発反対運動の高まり
『NO NUKES / FROM THE MUSE CONCERTS FOR A NON-NUCLEAR FUTURE-MADISON SQUARE GARDEN』これが本作の正式タイトル。1979年11月にリリースされ、アナログでは1〜6面までの3枚組だった。
「MUSE」とはMusicians United for Safe Energy の略で原発反対運動に共鳴するミュージシャン達の団体のことだ。
中心メンバーは ジョン・ホール、ジャクソン・ブラウン、ボニー・レイット、グラハム・ナッシュの4人である。
コンサートは「Musicians United for Safe Energy」の頭文字で「The Muse Concerts」と呼ばれた。
東日本大地震の32年前、当時の日本では原子力発電への認識も少なく、その大義が伝わりにくかった。
1986年のチェルノブイリの原発事故には衝撃が走ったが、当時は一般大衆にそれほど原発の危機は伝わっていなかった。
そんな背景もあり3枚組と言う大作だったため手が出ず、その後もデジタルでも配信されていない本作は幻の存在で、先日中古のアナログを見つけて歓喜して購入した。
アメリカでは1979年4月ペンシルバニアのスリーマイル島の原子力発電所の事故をきっかけに、原発反対運動が顕在化していた。
偶然にもこの事故の直前に封切られた映画「チャイナ・シンドローム」がまるでこの事故の様に原発事故の恐怖を描いていたことなどから、運動は全米に拡大。
そしてスリーマイル島の事故の1か月後「チャイナ・シンドローム」に主演もしていた女優ジェーン・フォンダや当時カリフォルニア州知事だったジェリー・ブラウンなどともに、ジャクソン・ブラウン、ジョニ・ミッチェルがワシントンでの反原発デモ集会に参加することで、ミュージシャンにも社会活動として広がって行く。
それに先立つ78年11月、Orleansを前年に脱退したジョン・ホールは、ボニー・レイットとジャクソン・ブラウンに、ニューヨークでの原子力発電所の建設反対への協力を要請していた。
2人は賛同しホールと共に反対運動を行なうことを表明し、CSNのグラハム・ナッシュにも参加を呼びかけ前述の『Muse』(原子力以外の安全エネルギーを推進するミュージシャン同盟)が結成された。
OrleansがDance with me、Still the oneとヒットを飛ばし、これからの矢先にリーダーのジョン・ホール自身が脱退した時は困惑したが、背景は社会運動への並々ならぬ情熱であったことが後々理解できた。
続々と大物が参加表明したコンサート
そして彼らは記者会見し、79年9月にマジソン・スクエア・ガーデンで2日にわたってコンサートを開催すること、またその収益は反核の活動グループや太陽エネルギーの研究を行う学者への基金とすること、活動を通して核の危険を訴えることを発表する。
以下の映像で会見の模様、事前にサンフランシスコで開催されたボニー・レイット、ジョン・ホール等のライブの様子が観れる。
当初2日予定のコンサートは参加アーティストもどんどん増えていき、9月19日から23日まで5日間にわたる大コンサートとなる。
当初はウエストコースト系のミュージシャンが中心であったが、イーストコースト出身のブルース・スプリングスティーンが参加することで爆発し、切符の販売記録を更新するのである。
主な出演者は、ジャクソンら主催者4人と彼らと親しいジェームス・テイラー、このイベントのためにナッシュの呼びかけで再結成するCSNらのウエストコーストロックの面々。
また、カリフォルニア州知事ジェリー・ブラウンとも親しいテッド・テンプルマンもサポートし、プロデューサーとして傘下にあったドゥービー、ニコレット・ラーソン、当時はテイラーの妻であったカーリー・サイモンを送り込んだ。
さらに、ジェシ・コリン・ヤング、ライ・クーダー、チャカ・カーン、トム・ペティ、Pocoそしてブルース・スプリングスティーン。
さらにはバックミュージシャン達も豪華なメンバーが揃った。
セクションのダニー・クーチマー、ラス・カンケル、リー・スクーラー、クレイグ・ダーギーに、ジム・ケルトナー、リトル・フィートのビル・ペイン、デヴィッド・リンドレー、ワディ・ワクテルにフュージョン系のアンソニー・ジャクソン、ジェフ・ミロノフ、フィル・アップチャーチ、クリス・パーカー、アヴェレイジ・ホワイト・バンドのスティーブ・フェローニ、ヘイミッシュ・スチュアートなどと枚挙に遑がない。
映画からの一シーン。ジョン・ホール、ジャクソン・ブラウン、ボニー・レイット、グラハム・ナッシュの主催者4人とジェームス・テイラー、カーリーサイモン夫妻がコアメンバーだと伺える。
最盛期のドゥービーブラザーズ
ではライブ盤の順番で曲を紹介しよう。
1-1 Dependin' On You / The Doobie Brothers
冒頭(1-1)を飾るのは来日間近のドゥービーブラザーズのDepending on you。
ドゥービーと社会的活動はイメージとしてあまり結びつかないが、実はジェーン・フォンダとソーラーエネルギーを推進するなど、積極的に社会運動に参加していた。
ちょうど「Minute by Minute」が1978年12月に発売された直後でもあり、79年4月にはマイケル・マクドナルドによるWhat a Fool Believesが、全米一位となり人気も最高の時期である。
しかし本作発売後、ジェフ・バクスター、ジョン・ハートマンが脱退し新しくメンバーが加入した新体制でのお披露目でもあった。
新メンバーは現在もメンバーのギターのジョン・マクフィーら。
(Cornelius Bumpus – saxophone&organ、Chet McCracken – drums)
そして次作「One Step Closer」後に脱退するベースのタイラン・ポーターが、参加した最後のライブであり貴重な唯一の公式LIVE音源でもある。
ドゥービーサウンドの軸としてバンドサウンドを支えたタイラン・ポーターの骨太ベースがLIVEで存分に聴けるのは嬉しい。
What a Fool Believesはレコードではカットされたが、映画では演奏シーンが使用された。ジャクソン・ブラウンのバンドメンバーでもあり「Minute by Minute」にも参加したRosemary Butler がボーカルで参加。
そしてプロデューサーで元ドラマーでもあるテッド・テンプルマンが、レコードで共に叩いたキース・ヌードセンとツインドラムの一角を担う。テンプルマンは反原発の旗頭カリフォルニア州知事ジェリー・ブラウンと懇意にしていて、舞台裏で動いた本イベントのキーマンの1人だ。
そしてさらに2組のアーティスト(ジョン・ホール、ニコレット・ラーソン)がドゥービーブラザーズをバックに演奏している。 ドゥービーをバッグバンドに従えて演奏と言う貴重な機会を体験できるだけで価値あるLIVEだ。
3-1 Lotta Love/Nicolette Larson & The Doobie Brothers
ニコレット・ラーソンは同じテンプルマン傘下で「Minute by Minute」にもゲスト参加し、さらにはマイケル・マクドナルドも彼女のアルバムに参加するなど交遊のある両者の共演は親和性の高いものだった。
You Tube上にあった9月20日のドゥービーのステージの音源では全ての演奏が聴けるが、これが意外にも音質が良い。
Sweet Feelin'ではレコードと同様にニコレット・ラーソンが参加し、パット・シモンズとのデュエットを聴かせる。
自分がドゥービーを観るのは、1989年の再結成ライブ以来であるから本当に久しぶりである。
今回の来日はトム・ジョンストン、マイケル・マクドナルドと言う重なり合うことがなかった二人が初めて揃う。歴史的なライブとしてこれは見逃すわけにはいかない 。
4月15日 盛岡 岩手県民会館、4月17日 東京 日本武道館、4月18日 パシフィコ横浜 国立大ホール、4月20日 名古屋 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール、4月22日 金沢歌劇座、4月24日、25日 大阪フェスティバルホール、4月27日 広島上野学園ホール で行われる予定だが、初日が岩手と言うのが復興、そして最後が広島で平和を願うのが、彼ららしい。
反原発テーマ曲 ジョン・ホール「Power」
1-2 Runaway/Bonnie Raitt
ドゥービーの次に登場するのが、このプロジェクトの中心メンバーでもあるボニー・レイット。
カバーであるが彼女の代表曲でもあるRunawayを披露。ギターにジョン・ホール、キーボードにビル・ペイン(Little Feat)、そしてベースには当時の盟友Freeboという強力な布陣。
この年にはローウェル・ジョージが亡くなっていた。彼が生きていたらLittle Featもこの催しにも参加しただろうか。
73年の「Takin 'My Time」は当初恋人だったローウェル・ジョージがプロデュースしていたが破綻し、ジョン・ホールが引き継いで完成した。それ以来、ホールはボニー・レイットのアルバムに継続的に参加、ビル・ペインも同様に参加する仲だった。
1-4 Plutonium Is Forever / John Hall
「But there is one pollutant that we should really fear
Oh, oh, oh, oh, plutonium is forever
本当に恐ろしい汚染物質がある。
おープルトニウムは永遠だぜ。」
と怖い歌詞をカリプソ調に陽気に披露するジョン・ホール。
この人は本気度が違う。
バックはホールのバンドでドラムはクリス・パーカー(Stuff)。
1-5 Power/ Doobie Brothers With John Hall & James Taylor
そして1面の最後(1-5)はこのコンサートのテーマ曲とも言えるジョン・ホールのPower(パワー)。
福島の悲劇を目の当たりにした我ら日本人にもグサッとする歌詞。
この曲のバックの演奏はドゥービー・ブラザーズが担当。
そしてボーカルはマイケル・マクドナルドからジェームス・テイラーへのリレーと言う豪華さ。
ギターソロもジョン・マクフィーの見事なスライドからホールのギターへとリレーされる。
さらにはバックボーカルにカーリー・サイモン、ジャクソン・ブラウン、ボニー・レイット、グラハム・ナッシュ、ニコレット・ラーソンを率いた、歌詞も含めてこのコンサートの最大の見所でもある。
(後で知るのだがこの曲がこの日の大ラスだったようだ)
こちらはレコードとは違い、1979年9月23日、ニューヨークのBattery Park埋立地で、MUSE が主催した大規模集会での演奏。主催者のホール、レイット、ナッシュ、ジャクソンとカーリーが仲良く顔を揃える。この時の演奏はドゥービーブラザーズではなく、ホールのバンド。
ジャクソン・ブラウンとデヴィッド・リンドレー
2面に行くと来日するジャクソン・ブラウンの活躍がフューチャーされる。
幸運にも1977年のジャクソンの初来日を神奈川県民ホールで観た。
Pretenderのツアーでメンバーには先日逝去したデヴィッド・リンドレーもいて、フィドルやスライドギターとマルチぶりを発揮していた。
2-3 The Crow On The Cradle/Jackson Browne & Graham Nash
グラハムナッシュとのデュエット曲 Crow On The Cradle。
ここでも亡くなってしまった盟友デヴィッド・リンドレーのフィドルがフューチャーされる。
2-3 Before The Deluge /Jackson Browne
さらにジャクソンの代表曲Before The Deluge。ここでもフィドルを奏でるリンドレーの活躍が続く。セクションのラス・カンケル(dr)、クレイグ・ダーギー(Key)、ベースは前回もジャクソンと来日した Bob Glaub(ボブ・グラウブ)という豪華なメンバーである。
なんと今回の来日公演の1曲目がBefore The Delugeだったそうだ。ベースはボブ・グラウブ、そしてリンドレーの後継マルチ奏者のグレッグ・リースも帯同している。
さらに、レコードにはないが映画には含まれたRunning On Empty。
デヴィッド・リンドレーが世を去り、そして1月にはジャクソンを見いだしデビューの時にサポートしてくれたデビット・クロスビーが亡くなり、そして前回までキーボードプレイヤーとして一緒に来日していたジェフ・ヤングまでも失う。
今回の来日は盟友たちを失くしたジャクソンが、悲しみの中で立ち上がる姿を熟視しなくてはならない。
ジャクソンは既に来日し、今日の大阪フェスティバルホールから始まり、やはり広島を3月22日にJMSアステールプラザで行い、3月24日 名古屋市公会堂、3月27日、28日、30日(追加公演) 東京 Bunkamura オーチャードホールで行われる予定。
来日公演のセットリストは以下の拙稿を参照。
3-2 Little Sister/Ry Cooder
リンドレーはライ・クーダーのステージも参加し横断的に大活躍した。
ティム・ドラモンド(B)とジム・ケルトナー(Dr)によるリズム・セクションはボブ・ディランのSavedでも起用された。
(映像はMUSEではないが、同時期のものでドラムはジム・ケルトナー等、同じメンバーと思われる)
夫婦共演 ジェームス・テイラーとカーリー・サイモン
2-1 The Times They Are A-Changin' / James Taylor, Carly Simon & Graham Nash
当時は夫婦だったジェームス・テイラーとカーリー・サイモンもNo Nukesの主要メンバー。ディランの1964年作「時代は変わる」をナッシュを入れて夫婦でカバー。キーボードはブレッカー・ブラザーズのメンバーとして、またスティーリー・ダンの「Aja」等への参加で知られるDon Grolnick(ドン・グロルニック)。映像ではジョン・ホールも含めた演奏になっている。
4-4 Honey Don't Leave L.A./James Taylor
4-5 Mockingbird / Carly Simon&James Taylor
セクションのリー・スクラー(b)、ラス・カンケル(Dr)、ダニー・クーチマー(G)、にワディ・ワクテル(G)、ドン・グロルニック (Key)、リック・マロッタ (Percussion) 、デビッド・サンボーン(sax)という豪華なメンバー。
Honey Don't Leave L.A.は77年の大ヒット作「JT」より。同じく「JT」からのYour Smiling Faceはレコードには収録されていない。
Mockingbirdはカーリーの持ち歌でテイラーをフューチャー、1974年全米5位となった。
この夫婦は1973年に結婚して6年。まだ長睦まじい様子だが、現在は夫婦ではない。
3-5 Get Together/Jesse Colin Young
ジェシ・コリン・ヤングがYoungbloods時代のGet Togetherを歌う。
ラス・カンケル(dr)、クレイグ・ダーギー(Key)、 ボブ・グラウブ(b)にBacking Vocalsにジャクソン・ブラウン、グラハム・ナッシュという豪華な布陣。意外にも会場は大合唱の大盛り上がり。Get Togetherがアメリカでは平和へのアンセムであることが理解できる。
映像はニューヨークのBattery Park埋立地で、MUSE が上演した大規模集会での演奏。
流石に3枚組で登場ミュージシャンも多いので、一回では収まらない。
後半戦は次回へと続く。
NO NUKES: THE MUSE CONCERTS FOR A NON-NUCLEAR FUTURE
1
1, Dependin' on You/The Doobie Brothers
2, Runaway/Bonnie Raitt
3, Angel from Montgomery/Bonnie Raitt
4, Plutonium Is Forever/John Hall
5, Power/The Doobie Brothers with John Hall & James Taylor
2
1, The Times They Are A-Changin'/James Taylor, Carly Simon & Graham Nash
2, Cathedral /Graham Nash
3, The Crow on the Cradle/ Jackson Browne & Graham Nash
4, Before the Deluge/ Jackson Browne
3
1, Lotta Love /Nicolette Larson & The Doobie Brothers
2, Little Sister/ Ry Cooder
3, A Woman /Sweet Honey In The Rock
4, We Almost Lost Detroit /Gil Scott-Heron
5, Get Together /Jesse Colin Young
4
1, You Can't Change /That Raydio
2, Once You Get Started /Chaka Khan
3, Captain Jim's Drunken Dream /James Taylor
4, Honey Don't Leave L.A./ James Taylor
5, Mockingbird /James Taylor & Carly Simon
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