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この1枚 #6 『Rickie Lee Jones』 リッキー・リー・ジョーンズ(1979)

1979年に彗星のように登場したリッキー・リー・ジョーンズ。Chuck E.'s in Loveがヒットしグラミー賞も獲得。最近ではトム・ウェイツやローウェル・ジョージと恋人同士であったことも告白している。謎に包まれたデビュー当時の彼女の足跡と人脈図を辿る。

『Rickie Lee Jones』

Rickie Lee Jones』は1979年2月に発売されたRickie Lee Jones(リッキー・リー・ジョーンズ)のデビューアルバム。
邦題は『浪漫』。

名カメラマン、ノーマン・シーフの撮影

恋するチャックという邦題で知られるChuck E.'s in Loveは、シングルチャート4位のヒットとなります。
アルバムも3位となるヒットとなり、グラミーの最優秀新人賞をも受賞したのです。

レニー・ワロンカー&ラス・タイトルマン

プロデュースはランディ・ニューマンの「Sail Away」「Little Criminals」等のレニー・ワロンカー(Lenny Waronker)とラス・タイトルマン(Russ Titelman)のコンビが担当。
両名はバーバンクサウンドを広めた立役者として知られます。
その関係かランディ・ニューマンがシンセサイザーでクレジットされています。そしてワロンカーは後にワーナーブラザーズレコードの社長になる実力者で、デビューアーティストにも関わらず、かなり力が入っていたことが窺い知れます。
バーバンクサウンドと言えば、Harpers BizarreVan Dyke Parks、Nick De CaroRy Cooder辺りが代表ですが、彼らの後継としてリッキーに白羽の矢が立ち、2人のプロデュース作としても最大のヒットとなるのです。
さらに言うと、ワロンカーはドゥービーの、タイトルマンはリトル・フィートのデビュー作のプロデュースを担当しました。

レニー・ワロンカー、ラス・タイトルマンとリッキーの幼少時代の写真も。リッキーが幼い頃に彼らの知り合いであるはずはなく合成であるようです

他にも豪華な参加ミュージシャンも話題となりましたが、当然2人のプロデューサーによる招聘と思われます。
Nick De Caroもオーケストラ・アレンジで参加。
DrumsにSteve GaddAndy NewmarkJeff Porcaro
Bass にWillie Weeks、GuitarにBuzzy FeitenFred Tackett
Keyboards に Mac Rebennack(DrJohn), Neil Larsen。
vibraphone, percussionにVictor Feldman。
Horns がChuck Findley、 Ernie WattsTom Scott
バックコーラスにはMichael McDonald
など。
原石のようなリッキーをここまでのサウンドに仕立て上げた、2人の功績は計り知れないですね。

Chuck E.'s in Love(恋するチャック)

リッキー・リー・ジョーンズは、ジョニミッチェルノラ・ジョーンズの系譜に連なる、ジャズのテイストが濃い女性シンガーソングライターです。
後にグラミー賞を獲得するノラ・ジョーンズの「Come away with me」と並ぶ、女性シンガーによるデビュー作として歴史的な作品でもあり、ジャジーで気だるいボーカルはサウンド的にも類似性を感じます。

彼女はシカゴで生まれですが、各地を転々とし21歳でLAに移りライブ活動を始めます。
当時からジャズのスタンダードも歌っており、3作目には「My Funny Valentine」というスタンダードのカバー集もあります。

「This kind of cool and inspired sort of jazz when he walks
歩く時は、ジャズか何かに影響された感じよ」とJazzという言葉が歌い込まれたChuck E.'s in Loveもジャズの香りがする一曲です。
本曲はグラミーでもSong Of The Yearにノミネートされました。(この時はWhat a Fool Believesが獲得)

スティーヴ・ガッド

本作には豪華なミュージシャンが参加していますが、残念ながら曲ごとのクレジットが残されていません。
しかし、Chuck E.'s in Loveのジャズテイストとレイドバック感に溢れるドラムは、長らくガッドだろうと噂されていました。

そして運良く、本曲のクレジットは発見でき、想像通りでした。
Drums ;Steve Gadd
Bass ;Willie Weeks
Guitar ;Rickie Lee Jones
Guitar; Buzzy Feiten
Keyboards; Neil Larsen
Horn ;Tom Scott、Ernie Watts、Chuck Findley

ガッドもインタビューでお気に入りのプレイとして50 Ways to Leave Your Lover' (Paul Simon)、Aja(Steely Dan)と共に挙げています。

特に1:55辺りのガッドらしい芸術的フィルは聴き物です。
「ポップにもかかわらず、根底にはジャズがあったので、私は少し自由でルーズになることができました」とリッキーについての印象を語ります。
そしてベースはダニー・ハサウェイの名盤LIVEで、伝説のソロを聴かせたWillie Weeksという強力メンツでした。
また、Full Moonで活躍したNeil Larsen&Buzz Feitenが揃って参加していることもポイントが高いです。
その後のリッキーのツアーでは2人はバンドメンバーとして参加していることが、映像で確認できます。

ラス・タイトルマンによるとWeasel and the White Boys CoolThe Last Chance TexacoDanny's All Star Jointもガッドによるもので4曲を叩いています。

最近ではリッキーは「The Last Chance Texaco」なるタイトルの自伝も出していますが、その中で当時の奔放な恋愛関係を告白しています。

トム・ウェイツ

リッキー・リー・ジョーンズがLAのクラブで歌を歌っていた1977年頃、トム・ウェイツ(Tom Waits)と出会います。
程なくして親しくなった二人は恋人となり同棲を始めます。
この前年にトムは「Small Change」をリリース、初めてベスト100入りし音楽活動が軌道に乗り始めた頃です。
1978年のトム作「Blue Valentine 」には、裏ジャケットには当時の恋人リッキーが写っています。

リッキーの後ろ姿

そしてChuck E.'s in Loveチャック・E.ワイスは実在の人物で、トム・ウェイツとも近しい人物でした。
リッキー、トム・ウェイツチャックの3人は連む遊び仲間となりますが、突然チャックが行方不明に。
しばらくすると電話がかかってきてトムが出て、リッキーが何と聞いたら、トムは「Chuck E's In Love(チャックは恋してるんだってさ)」と答えたらしく、それを元に歌詞を作り出しました。
実話に基づいた話ですが、オチの部分のみ創作で、「He's in love, no-ho-no、with Me!」と私に(リッキーに)恋したと改変しています。

3作目の「Girl At Her Volcano」(邦題はMy Funny Valentine)に収録されたRainbow Sleevesトム・ウェイツがリッキーのために書いた曲です。
実際の録音はデビュー前の1978年12月。
当初はデビュー作である本作に収録予定であったようですが、録音後に2人は別離します。
そのためかリリースされ世に出たのは1983年となります。

またトムの「Heartattack and Vine」(1980年)にはかつての恋人リッキーとの別れを歌った曲Ruby's Armsが収録されています。

Young Blood(A-4)

Young Bloodは第2弾シングルとしてリリースされて40位を記録。前年にデビューしたニコレット・ラーソンにも通じるテイストです。
この曲もクレジットが明らかになっています。
Bass ; Willie Weeks
Drums ; Andy Newmark
Guitar; Buzzy Feiten
Keyboards; Neil Larsen
Sax ;Tom Scott
イントロの印象的なベースのスラップ音は名手Willie Weeks。ドラムはWillie Weeksとのコンビで著名なAndy Newmark
2人はランディ・ニューマン作品の常連なので、レニー・ワロンカー&ラス・タイトルマンがやり慣れた2人をアサインしたのでしょう。
タイトルマンが同時期にプロデュースしたジョージ・ハリスンの「George Harrison」には2人に加えてNeil Larsenも参加しており、ほぼ同時に進行していたと思われます。

本曲のギター弾き語りバージョンと聴き比べると、彼女の原曲がいかにアレンジで生まれ変わったかが理解でき、プロデューサーの貢献度が浮かび上がります。

Easy Money(A-5)とローウェル・ジョージ

トムの次にリッキーが付き合うのは、リトル・フィートローウェル・ジョージ(Lowell George)です。
そして、ローウェルはリッキーのデビューの一端を担うのです。
きっかけを作ったEasy Moneyは、1979年3月リリースのローウェルのソロデビュー作 「Thanks, I'll Eat It Here」に収録されました。

そして本作にもEasy Moneyは収録されていますが、全く違うアレンジで聴き比べすると面白いです。

ローウェルは2人の共通の友人から、デビュー前のリッキーが作ったEasy Moneyを聴かされます。
そしてリッキーに電話をかけて会い、自分のソロアルバムに入れたいと告げるのです。その後、2人は恋人関係となったそうです。
Easy Moneyがローウェルのソロに選ばれ、またワロンカーがデモテープを聴いたことで、リッキーはワーナーと契約に至ります。
それにしてもリッキーの恋愛関係は、トム・ウェイツの次がローウェル・ジョージだなんて何と濃厚なんでしょうか。
一方ローウェル・ジョージの恋愛相手も、リッキーの前はリンダロンシュタット、その前はボニーレイットとこれも濃厚ですね。
ローウェル・ジョージ
はこの後間もなく、1979年6月にドラッグのオーバードーズによる心不全で逝去します。

1979年デビュー直後のロンドンでのライブ映像

Dr.John

さらに、同じ頃にはDr.Johnとも親しい関係にあったことを自伝で告白しています。
それもあってか、本作にはMac Rebennackという変名で参加しています。
クレジットはないので定かではありませんが、Weasel and the White Boys Coolでのピアノは彼らしいタッチが聴かれます。

1989年リッキーはDr.Johnのアルバム『In a Sentimental Mood』でMakin' Whoopee!に参加し、グラミーの最優秀ジャズ・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞しました。

Company(B-4)

私が一番好きな曲がこのCompanyです。
アルフレッド・ジョンソンというシンガーソングライターとの共作で古くから書き溜めていたようです。
映画音楽やナタリー・コール「アンフォゲッタブル」の編曲などでもグラミー賞を獲得したジョニー・マンデルがストリングスアレンジを担当。

この曲のドラムがJeff Porcaroではないかと言われています。
少ない音量でミックスされていますが、そんな気がします。

ポーカロの自伝によると実はポーカロとリッキーは次作の「Pirates」(1981)の録音中に演奏方法で対立し、仲違いし暫く絶縁していたそうですが、1984年の「The Magazine」ではリッキーから請われて再度プレイしています。

プロデューサーのラス・タイトルマンは「初めてCompanyのオリジナルデモを聴いたとき涙を流しました」と語っている通りの名曲です。
珍しいところでは今井美樹もカバーしています。

そして40年の歳月を経て、このタイトルマンと再度組んだリッキーの新作「Pieces of Treasure」が2023年に届けられました。

カバー

彼女はカバーの名手としても知られ、瞬く間にリッキーワールドに染め上げてしまいます。
ジャズだけでなく、60's、70'sのロックの秀逸なカバーの数々で本章を終わりとします。
スートンズのあの曲から、ジミヘン、スティーリー・ダン、トラフィックと選曲センスは独特です。

Sympathy for the Devil (Rolling Stones)

The Weight(The Band)

Only Love Can Break Your Heart(Neil Young)

Low spark of high heeled boys(TRAFFIC)

Show Biz Kids(Steely Dan)

Bad Company(Bad Company)

Lonely People (America)

Up From The Skies (Jimi Hendrix)

プレイリスト;Rickie Lee Jonesの名曲とカバー


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