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品川縣ビール(東京)

 一般的に、日本におけるビール産業発祥の地は横浜であるとされています。これは明治2年(1869)に日本初のビール醸造所、「ジャパン・ヨコハマ・ブルワリー」が創業したことが所以です。

 一方で同じく明治2年、現在の品川区にビール工場が設立された記録が、近年になってから掘り起こされています。
 記録には、明治維新の煽りや恐慌で困窮する住民たちのために、当時の品川縣知事であった古賀一平氏が、現在の大井3丁目付近に建っていた土佐藩主の下屋敷跡を使い、ビール工場を設立したとあります。
 なぜ清酒でも焼酎でもなくビールだったのかは不明ですが、古賀氏が海外文化に明るい佐賀・鍋島の藩士であったことと無関係ではないのでしょう。

 しかし、明治4年の廃藩置県を前に民間に払い下げられたビール工場は、明治10年頃まで細々と存続したものの、経営難からあえなく閉鎖。資料が乏しいことも手伝って、歴史に埋もれる“幻の工場”となってしまいました。

 そんな知る人ぞ知る史実を元に、品川にビールを復活させようと立ち上がったのが、地元の商店街有志でした。
 紆余曲折を経て、日本初のビール酵母とされる「エド酵母」を用いた新たなビールづくりが実現し、2006年に誕生したのが品川縣ビールです。日本最古のビール工場と、日本最古のビール酵母のマッチングは、いかにもロマンティックですね。

 なお、品川は江戸時代から宿場町として栄えたことで知られる土地柄ですが、明治2年に時の政府が「県」に設定。そのエリアは広範囲に及び、現在の練馬区や杉並区、新宿区、渋谷区、世田谷区、多摩地区などをまるごと包括していたのだそう。品川の由緒の正しさを感じさせる変遷と言えます。

〈Text By Satoshi Tomokiyo〉

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