#8 「魂の計測」

これは実家に住んでいた頃のエピソードだ。

休日の朝、おもむろに私は体重計に向かっていた。と言うのもなんだか最近太ったような気がして、流石に現実を見た方がいいと思ったからである。

朝起きてすぐくらいだったので、パジャマ姿で計測をした。

体重計「48.7」

ははぁん。なるほど、そう来たか。
私の身長や体格から言って、だいたい48キロジャストがちょうど良い具合だった。この分だと少々、オーバーしていた。

私「お母さん、今はかったら48.7だったよ。やっぱ太ったんだよ、あたし。」

私も一応年頃なので、体重計に示される数字に一喜一憂することは多々ある。意味がない事は分かっているが、慰めの言葉がほしくてつい母親に泣きついた。
でも、母から帰ってきた言葉は慰めではなかった。

母「あんた、どんな格好ではかったのさ。まさかパジャマ着てたんじゃないだろうね。ダメだよ、裸じゃないと。ほんとの数字は出ないよ。」

母は50代だが私より体重測定にシビアだった。
スポーツ選手が試合前に体重をはかる時並に厳格だった。

私「え、パジャマでだよ。そんな変わるもん?パジャマが1キロとかもないでしょ。」

母「あんた!知らないの?衣類って結構重いのよ!パンツやシャツ一枚でも変わるからね〜。マッパが1番本当の数字よ。」

母は私に隠れて今までどんな格好で測定していたのか。少なくともマッパ、パンツ一枚、シャツ一枚、パジャマ。と4種類は試していることになる。
今まで知らなかった母の顔を見た気がした。

私「そうなのか。そんな衣類で変わるのね。したら、今から本気でやるわ。」

休日の朝、私は勢いよく全裸になり神聖な気持ちで体重計に乗った。

体重計「48キロ」

おぉ!!お母さん、いやお母様。だてに50年以上生きているのではないのだと改めて感じた。

それと同時に、パジャマがこんなに重いとは知らなかった。毎晩、約700グラムをまとって寝ていると思うと、休めているのか休めていないのかよく分からなくなった。

私「お母さん!すごいよ、48になった!マッパになるだけでこんな変わるんだね!いやなんか嬉しいわ!」

母「でしょ〜?本気でやるならこれくらいしないとね。なんか着た状態であれこれ言うなんて意味ないわよ。」

いつになく母の言葉は力強かった。

私「これさ、まさに魂の計測だね…本当の重さがわかるのはマッパの時だけだもん。」

またしても私はおかしなことを言っているが、この時は体重測定を今まで真剣にしていなかった自分を恥じることに精一杯で特に気にしてなかった。

これからも私は、魂の計測を通じて自分を戒めたい。




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