そうめんチャンプルーは、台風の味
東京に、台風が近づいている。
今回の台風は、勢力が強いままに東京に近づくようで、飛行機はもちろん、鉄道も運休するというお知らせをしている。
「台風、ってことは、今日はアレを作ろう」
私は、台風情報を伝えるテレビを見ながら、そうつぶやいた。
以前、私は「台風銀座」といわれる沖縄に住んでいた。沖縄には、今回の台風くらいに強い勢力のものが、1年に何度もやってくる。だから、沖縄県民は台風に慣れっこで、街も建物も、強い風や雨に耐え得るようにできている。
そんな沖縄県民にとって、「台風」といえば思い浮かべる料理がある。
それが「そうめんチャンプルー」だ。
沖縄料理は、もう全国に知られるようになっているから、そうめんチャンプルーを知っている人も多いだろう。かために茹でたそうめんを、ツナや豚肉、野菜などの材料と一緒に炒めたもので、味付けはカツオだしをきかせた塩味が多い。
ちなみに、そうめんチャンプルーを英語でいうと…
オキナワン スタイル フライド ソーメン ヌードルズ(Okinawan Style Fried Somen Noodles)というらしい。
「やっぱりねぇ。沖縄料理は独特だから、オキナワンスタイルだよね」
私は念のため、家にあるストック食材を確認した。そうめんと、ツナ缶はある。冷蔵庫には、キャベツと玉ネギが入っている。
「よし。これだけあれば、十分」
特に、台風の時のそうめんチャンプルーは、具材がシンプルなものが、沖縄では一般的なのだ。
なぜ、沖縄人が「台風=そうめんチャンプルー」と思うのか?
それは、停電が大きく関係している。沖縄にやってくる台風は、勢力が強いままのことが多い。いくら、台風慣れしている沖縄とはいえ、強い風雨によって木が倒れたり、その影響で電線が切れたりする。だから、停電に備えることは、台風時の沖縄人にとって当たり前のことなのだ。
台風で停電になっても、お腹は空く。
そこで、電気を使わずとも、簡単に作れる料理「そうめんチャンプルー」の登場なのである。
台風そうめんチャンプルーは、たいていの場合、おばあ(沖縄では、おばあちゃんのことを親しみを込めてこういう)が作ってくれる。停電になって暗くなった家の台所で、懐中電灯やロウソクの灯りを頼りに、コンロで鍋に湯を沸かし、そうめんを茹で、ツナ缶を開けて、フライパンで茹でたそうめんを炒める。
そして、まだ停電が続く、薄暗い家の中で、みんなでそうめんチャンプルーを食べる、というのが、多くの沖縄人にとっての、台風の思い出なのである。
ま、私は沖縄生まれではないから、おばあの思い出はないのだけれど。
「でも、台風といえば、そうめんチャンプルーなのよね~」
私は、コンロで鍋に湯を沸かし、そうめんを茹でた。冷蔵庫に残っていたキャベツと玉ネギを切り、ツナ缶を開け、茹でたそうめんをフライパンで炒めた。
東京に、台風が近づいている。まだ、それほど風雨は強くない。もちろん、停電もない。ひとり暮らしの小さな台所は、薄暗くはなく、妙に明るかった。
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