ライターびんこ/長谷川敏子

東京在住のライター。得意分野は沖縄・酒・食・ビジネス系のインタビュー取材。書く&司会も…

ライターびんこ/長谷川敏子

東京在住のライター。得意分野は沖縄・酒・食・ビジネス系のインタビュー取材。書く&司会も。山形→沖縄のテレビ&ラジオ局→東京。noteのテーマは絞らずに書いてます。仕事例はHPに記載。ご依頼お待ちしております。 https://www.binco-hasegawa.jp/

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料理と原稿

「グゥ~」 夕方、お腹が鳴った。その日、私は朝から原稿を書いていて、午後1時ごろ、休憩も兼ねてお昼ごはんを食べた。 それにもかかわらず、私のお腹が鳴ったのである。さっき、ちゃんと食べたのに。 自分のお腹が鳴ったせいで、自分が空腹であることに気づかされた。すると、もうダメだ。夕食のことしか考えられない。 冷蔵庫に、豚肉があったなぁ。 あ、スーパーで半額になっていたもやし、買ったのに使ってない。 たしか、冷凍庫には切って冷凍したピーマンがあったはず。 ……ということ

    • ワクのある食卓

      念願の木製トレイを買った。 木製トレイ、もしくはおぼん。白木の板にワクのついた、正方形のトレイである。 「念願の」というのには、理由がある。実はここ数年、探していたのである。ひとり暮らしの私にぴったりのトレイを。 探し始めたきっかけは、SNSだった。 私は食いしん坊なので、料理人の方や料理ライターの方のSNSをフォローして、彼らの投稿を拝見している。「おいしそうだなぁ」と眺めるだけのときもあるし、メニューや盛り付けを参考にすることもある。 んで、食いしん坊な私は、自

      • 駅のきしめん

        駅のホームに降り立つと、お出汁の香りがする。 新幹線の名古屋駅である。 だから私は、名古屋に出張があると、その日の朝食を抜く。もしくは、東京駅で駅弁を買わずに新幹線に乗る。 あの、駅のホームにあるきしめんを食べるためである。 名古屋への出張は、たいてい日帰りである。駅のホームで、立ち食いのきしめんを食べてから、改札を抜け、仕事を済ませて、再び駅に来る。そして、帰りの新幹線に乗る。それだけだ。 たまに、早く仕事が終わることがあると、駅ビルにある居酒屋に入って、手羽先や

        • 残りものうどん

          今年の私は「考えすぎない」を意識している。 考えすぎずに、動く。動いてみると、次にやることが見つかる。 先日の寒い朝、朝ごはんの用意をするのがおっくうだった。けれども、ハラは減っている。どうしようかと思って、とりあえず、キッチンへ行った。 ガスコンロの上に、お鍋がひとつ。フタをしたまま、置いてあった。 「これ、なんだったっけ?」と思いながら、フタを開けると、前の晩に自分でつくった煮物の残りであった。 あ、そうか。昨晩、自分でつくった煮物をつまみに、焼酎のお湯割りを飲

          食いしん坊の段取り

          今夜は冷えるから、お鍋にしよう。 でも、その前に、お風呂であったまりたい。お風呂であったまってから、アツアツの鍋をつつき、冷たい日本酒を飲みたい。 それを叶えるには、どうするか。食いしん坊の私は、考える。 わが家の冷蔵庫にある材料は、スーパーの特売日に買った白菜と、家飲みのときにおつまみにしようと思っていたベーコンである。それ以外にもあるにはあるのだが、どれもお鍋の材料にはふさわしくない。 ベーコンだって、本来はお鍋の材料ではないかもしれない。しかし、その日の私は、い

          会う、ということ。

          私はめったに泣かない。でも、その日は涙が止まらなかった。 知り合いが急逝したことを知った。 その人は、とある酒場の店主で、おもしろいことが大好きな人だった。自分の店でユニークなイベントを開いては、人と人をつなぐのが好きだった。 私は年に数回しかお邪魔したことがなく、店主のことはそれほど深く知ってはいなかった。 けれども、涙が止まらなかった。 人って、こんなにもあっけなく、死んじゃうものなんだなぁ、と思った。 そう思ってからは、いても立ってもいられなかった。 会い

          和風と洋風のあいだ

          ある日のお昼どきのことである。 その日も原稿を書いていて、締め切りが近かった。外食する気にもなれないし、そんな時間もない。家にあるもので済ませようと、冷蔵庫を開けた。 見事に、なにもなかった。 正確には、お昼ごはんになりそうなものが、なにもなかった。冷蔵庫に入っていたのは、お酒のアテと炭酸水。それと、調味料がいくつか。 仕方がないと、ため息をつきながら、今度は冷蔵庫のとなりの食糧庫をのぞいた。常温で保存できる食べ物を入れてある棚である。 ここにもやはり、酒のアテにな

          山道を歩く

          久しぶりに高尾山に登ろう、と思った。 高尾山の山頂へ行くには、ケーブルカーに乗り、舗装された道を歩いて、短時間でラクに行ける方法もある。 恋人や家族と、クラスメイトや友人たちと、 「え~、キツイ~!まだ歩くの~」 などと言いつつ、おしゃべりしながら、写真を撮りながら、楽しそうに山頂を目指す人たちもたくさんいる。 けれども私は、ケーブルカーにも乗らず、舗装されてもいない登山道を選んだ。その方が「山に登っている」という感じがして好きだからだ。ひとりで黙々と、でこぼこの山

          「お客さまの声」を取材します

          今回は珍しく(?)私の仕事の話をします。 ビジネス雑誌の取材などをしているので、全国あちこちへ行くため、飛行機に乗ることもあります。 飛行機に乗って目的地へ着いた後、間もなくすると航空会社からメールが届くんです。 「今回のフライトはいかがでしたか?お客さまアンケートにお答えください」 たいていはどのフライトも快適なので、アンケートに「よかったです!」と答えようと思うのですが、アンケートフォームを開いてみると、記述式だったりします。 その時点で、私はそっとアンケートフ

          「お客さまの声」を取材します

          とりわけおいしいビールを飲むために

          「ぷは~っ!」 居酒屋のカウンターで最初の1杯を飲みながら、私はふと、思った。 忙しくしている方が、いろいろはかどるなぁ。 コロナ禍でそれを忘れていたのかもしれない。 コロナ禍では先が見えなかったし、仕事が減って時間があり余っていたから、それほど急ぐ必要はなかったように思う。コロナ禍の3年間で、急がないというクセがついてしまったのかもしれない。 コロナ禍から元へ戻っていなかったのは、私の方だったのかもしれない。 だから、仕事も戻って来なかったんじゃないか? 3か

          とりわけおいしいビールを飲むために

          仕方ない選択

          その選択は「仕方なく」だった。 仕方なく選択したことで、早起きが苦手な私が週に何度か、午前5時30分発の電車に乗ることになった。 向かう場所は、早朝のアルバイト先。ホテルの朝食会場である。 私の本業はフリーライター。年齢は52歳。ついでに言うと独身女性である。 仕事の中心は対面でインタビュー取材をして原稿を書くこと。なので、コロナ禍では仕事が激減した。人に直接会うことが制限されたからである。 おまけにコロナ禍の真っ最中にメインの取引先だった出版社が倒産したので、私は

          マグロの刺身と寡黙な男

          その日、私は仕事でイヤなことがあった。 イヤなことをそのまま引きずって家に帰れば、そのイヤなことが自分の中で増幅される。それを、これまでの経験から知っていた。 だから、ちょっとだけ飲みに行ってから、家に帰ることにした。 「こんばんは~」 訪れたのは、最近よく飲みに行くようになった居酒屋である。自動扉ではない引き戸を、ガラガラと開けて入る。 「いらっしゃいませ~」 私の顔を覚えてくれている店員さんが笑顔で出迎えてくれた。 「すみません、今日は混んじゃってて。こちら

          マグロの刺身と寡黙な男

          うどんとコントラバス

          コツコツ努力する、ということが苦手なせいか、私は楽器が弾けない。 子どもの頃、親にムリをいってエレクトーンを習いに行ったことがあるが、何度かレッスンに通った後、ほとんど弾けないままやめてしまった。 そのくせ、音楽を聞くのは好きだ。決して詳しくはないが、民放ラジオから流れてくる流行りのポップスも聞くし、NHKのラジオから流れてくるクラシック音楽もなんとなく聞いている。ジャズは時折、ライブハウスや音楽ホールに聞きに行く程度に好きな音楽である。 そのせいか、街の中で楽器を背負

          午前5時のコーヒー

          私は早起きが苦手だ。 しかしこのところ、週に何度か、午前5時前にコーヒーを淹れている。 理由は、早朝のアルバイトを始めたからである。 当初は、ライターとしての仕事が減ってしまったために、少しでも収入を補おうとアルバイトを探していた。ライターを辞めるつもりは毛頭ないから、できるだけ本業に影響がない時間帯がいいだろうと、早朝出勤のアルバイトに決めたのだった。 早朝アルバイトに初めて出勤するときは、緊張していた。といっても、アルバイトの仕事そのものは学生時代にやったことがあ

          縁と映画と卵焼き

          シャカシャカ、シャカシャカ……ジュワ~。 映画館の大きなスクリーンに映し出されたのは、沖縄のおばあが卵焼きを焼くシーンだった。それはきれいな楕円形のオムレツではない。ごく普通の家庭でお弁当用につくるような「卵焼き」なのであった。 私はそれを見たとき「ああ、あの店の卵焼きが食べたい……」と思った。 渋谷にある映画館(正確には試写室なのだが)を出た後、私は早速、地下鉄に乗った。目指す店は三軒茶屋にある。地下鉄の車内で私は、その日に上映された映画のチラシを眺めながら、さまざま

          回復のグリーンサラダ

          その日の私は、グリーンサラダをつくるために、とにかくレタスをちぎった。きゅうりを薄切りにした。 冷蔵庫にドレッシングがなかったから、代わりにマヨネーズとふりかけを使った。 サラダをつくっているときは、無心だった。 私はつい最近まで、サラダすらもつくることができなかった。 お腹が空いたら、家にある乾きものや、スーパーから買ってきたお惣菜を、パックのまま食べていた。 そして、お酒だけは飲んでいた。というか、飲まなきゃやってられなかった。 世間では、今年に入ってからコロ