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小説 受験の季節 3/4話

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勉強漬けの冬休みが終わった。俺には最近気になることがあった。

「よぉー」

学校の廊下ですれ違った本城謙介ほんじょうけんすけに声をかけるが、向こうは無視である。

まっすぐ前を向いたまま、視線を合わせようともしない。

謙介は、同じ3-Aの同級生で、剣道部に所属している俺の友人だ。

ストイックだが、彼の考え方とか話が面白くて、よく一緒に居たのだが、最近全く話さなくなった。

スタスタと歩いていく謙介の背中を見ながら、何か悪いことをしたのだろうかと自問してみる。

そんな中、クラス内では、中間試験や塾での成績から、誰がどこの高校に受かりそうだとか、あいつは頭が良いという噂がそれとなく囁かれていた。

俺は、夏前から必死に勉強した甲斐もあってか、学力的に堅城高校を狙えるところまで来ていた。

今日の授業が終わり、帰ろうとしていると、後ろから「おい」と声をかけられた。

振り返ると、謙介がこっちを見据えて立っている。

堀の深い顔に高い鼻。目元もはっきりしており、女子には人気があると噂の顔には、影を持った敵意がにじんでいた。

「なに?」

こちらも、つい語気が強くなる。俺と謙介の身長差では、俺が頭ひとつ分見下ろしている形になる。

「お前、堅城狙ってるらしいな」

謙介の口から堅城という言葉が出てきたことが意外で、少しびっくりしたが、「そうだけど」と答える。

「ちっ」

謙介は、制服のポケットに手を入れ、いかにも気に食わないという様子で舌打ちをした。眉間には皺が寄っている。

「な、なんだよ…」

「お前さぁ、なんで堅城なの?」

「なんでって…。サッカー強いからだよ」

「だろうな」 

目元の筋肉を緩めて、そっぽを向いた謙介の顔を見ていると、急に怒りが込み上げてきた。

「な…んだよ。なんで堅城なのかって、そっちが聞いてきたんだろ?その態度なんだよ」

「あ?」

「なんで堅城受けるくらいでお前にこういう態度取られなきゃいけないんだって言ってんだよ!」

挨拶を無視されたこととか、俯瞰でものを見てるような態度とか、色んなことが気に障って、つい大きな声を出してしまった。

ハッとして周りを見るが、幸い長い廊下には誰もおらず、外を歩く生徒も、こちらには気づいていないようだった。

「お前さぁー、気に触るんだよな」

「え?」

謙介は相変わらずポケットに手を入れているが、今度は正面からこちらの姿を見据えていた。

4話目へ続く→

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