空とぶゴカイ
ざぶーん、しゅわしゅわー、
ざぶーん、しゅわしゅわー、
打ち寄せる波音が気持ちいい
ここは、5月の磯です。
磯の岩場には、潮が引いて、
海の水がプールのように残った
潮だまりがあります。
その中は波も入ってこないので、
本物のプールのように静かです。
でも、そっとのぞいてみると、
たくさんの生きものたちが
暮らしています。
そんな潮だまりの中に、
古くから住んでいる、
サザエの親分がいました。
サザエの親分は、
潮だまりのみんなの相談役です。
きょうも、バフンウニさんが、
親分に相談しています。
(バフンウニ)
「ねえ、親分、ぼくたちウニは、
いつも岩の上を這うだけで
魚みたいに泳げないのは
つまらないよ。
あのナベカくんみたいに、
自由に泳げたら楽しいだろうなあ。」
(サザエの親分)
「いやいや、ナベカ君たちお魚は、
泳がないとごはんにありつけないから
これはこれで大変なんだ。」
(アメフラシ)
「バフンウニさんはボクと同じで
海藻がごはんだから、
泳ぎ回らなくても平気じゃないか。」
(バフンウニ)
「ぼくたちは夢を見ちゃ、
いけないのかなあ・・・・」
(サザエの親分)
「そんなことはない!
夢をもってがんばっていたら、
いつか、かなうかもしれない。
ほら、空を見上げてごらん。」
(バフンウニ)
「あ、なんか空を飛んでる!
あれは、UFO?」
(サザエの親分)
「ハハハ、ウニが空を飛んだら、
UFOかもしれんなあ。
あれは、ふだんは、
砂の中や岩の間にいる、
ゴカイくんじゃ!」
(バフンウニ)
「ええっ?
ゴカイくんが空を飛べるの?」
(サザエの親分)
「いつもジッとしているゴカイくんも
夢の結婚相手に出会うために、
一生に一度、
勇気を出して穴から飛び出し、
水面を泳ぎだすんじゃ。」
「魚に食われるかもしれん。
鳥に食われるかもしれん。
でも、時には、勇気を出して、
夢を追いかけることも大事なのじゃ。」
(バフンウニ)
「そうか!
がんばれゴカイくん!
ぼくもいつか空を飛べるように
がんばるからね!」
そうして、結婚相手を探しに
泳ぎ出したゴカイくんたちは、
潮だまりの仲間たちに見送られて
まるで空を飛ぶように、
広い広い外海に
飛び出してゆきました。
おしまい
birdfilm 増田達彦