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映画「永い言い訳」

西川美和による小説とその原作を元に自ら
監督した日本映画
第28回山本周五郎賞候補
第153回直木三十五賞候補
2016年本屋大賞ノミネート


冒頭で、美容師の妻、夏子(深津絵里)が、作家の夫、衣笠幸夫(本木雅弘)の散髪をしているシーンがある。

まるで大きな駄々っ子のように、妻に難癖を付ける夫。夫婦の会話で、お互い微妙な距離がある事が分かる。女の方が精神年齢が高いから、ケンカにもならないし、真に受けず、淡々と作業をこなしていく。

(ムカつくんだけど、無駄にいい男なんだよね…)

妻は有名美容室の経営者、自分は作家だけど、
鳴かず飛ばず…の現状。イラつく気持ちは分かる。
(でも、親しき仲にも礼儀あり)

「おしまい、後片付けお願いね…」

友人と旅行に行く為、スーツケースを引いて、ドアを閉める瞬間、何か言いたそうな表情を浮かべながらも、妻は黙って自宅を出た。

夫は待ってましたとばかり、若い女の子(黒木華)を自宅に招く。完全なる浮気。
(完全なるダメ男…)

まあ、自分の立場を甘んじていて、客観的に自分を観るのは、キツいんだろうなと感じました。作家でも、テレビのゲストがメインの仕事となりつつある様子だったし、“先生”と呼ばれるプライドだけは高くて、それに縋りながらも、それを嘲笑っているかのような…空回り状態。


夜行バスに友人(堀内敬子)と合流し、楽しげな雰囲気で笑い合う。
穏やかさから、一変…バスが転落事故を起こし、
妻が亡くなってしまう。

警察から聞かれた、
妻がどんな服装を?…
していたのか?を問われて、
言葉に詰まり、
曖昧な返事をする。

「まあ、そんなものですよ…長く一緒に暮らしてれば…」
慰めなのか、何なのか…居心地悪い時間を過ごす。

(まだ、妻が亡くなった事実を受け止めてない)

そこから怒涛のように、
「悲劇の夫」とマスコミに追われる日々。

無駄に器用に、夫はそれを演じる。
だが自信が無く、自己肯定感も低い。

(まだ、逃げている)

そんな中、亡き妻の友人の夫、
大宮陽一(竹原ピストル)が、
同じ妻を亡くした喪失の悲しみを、
共に分かち合う為に、登場する。
(骨太な、純粋で熱く、優しい男だ。
最初は、キム兄だと本気で思ってました、笑)

この陽一には、子供が2人居る。
トラックの運転手で、仕事上、不規則。
幸夫は、自ら子守を手伝うと言い出す。
(このお兄ちゃんと妹が、とても良い子なんです)

何故、妻同士が親しい友人だったからと言え、子守なんて面倒な事に参加しようとしたのかは、マネージャーを演じた岸本(池松壮亮)の台詞も一理あったたからだと思った。

自身のスマホの写真を、ちらっと見せて、

「子供の存在って、免罪符ですよ」

「どんなに、自分が馬鹿で、クズでも、子供に
救われますもん」

そして、これです…

(泣くことは、本当に大切)

陽一と、その子供達と、家族のように過ごす中、
やはり妻の死と正面から向き合えない、弱さ。
そして…知ろうともしなかった亡き妻の残像を知る。

立ち直るまで、妻の死に向き合うまで、
体裁ばかりを気にしていた自分に気づいて…

妻が亡くなった時、別の女性と、
夫婦の寝室のベッドに居たのだから…
(素直になれない苦しみ)


そんな中、クローゼットに置きっ放しになっていた、
妻の遺品の、壊れたはずのスマホが鳴る。
未送信の自分宛のメールを見つける…

(神様の悪戯…そうとしか思えない。タイミングも。
もしくは、亡き妻の復讐?)

「もう愛してない、ひとかけらも」

夫は、思わず感情的になる。

(俺、愛されてなかったのか…?本当の意味で、
妻がもうこの世に居ない現実を目の当たりにする。
途轍もない孤独…文句すら伝えることが出来ない…)



うーん…何度か観なおしたんですが…

(私のこと)

「もう愛してない…?ひとかけらも…?」

だった気がしてならないんですよね…

夫の散髪で、穏やかに、優しく、少し寂しげに、
髪に触れる表情が…
(気持ちが無かったら、あんな風に出来ない、
夫の浮気も知っていたのか…)

事故が起こる直前、夜行バスで、
眠りから目覚めた時の、
カーテンを開けて、朝日を浴びるこの表情…

やっぱり、生きてるうちに、生きているからこそ、
気持ちを伝える大切さがありますね。

それこそ、永い言い訳はしたくないものです。

そして、深津絵里さんは、実に美しい。


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