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エグゼクティブコーチが考える「1on1とコーチングの違い」とは?

こんにちは、bizlogueです。

今回は特別ゲストとして、Zホールディングス株式会社(以下ZHD)でエグゼクティブコーチを務める熊澤真さんを迎え、bizlogueのメンバーで『ヤフーの1on1』『1on1ミーティング』の著者でもある本間浩輔といっしょに1on1、コーチング、対話などをテーマに考えて、意見を述べていただきました。

エグゼクティブコーチとは、経営者や役員など、企業の中で重責を担う人たちを対象に、定期的なコーチングを提供するプロフェッショナルです。全3回連載の1回目のテーマはずばり、エグゼクティブコーチからみた「1on1とコーチングの違い」とは?


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ヤフーの1on1ってどんなものなんですか?

本間 こんにちは、bizlogueの本間です。今回は特別ゲストとして熊澤真さんに来ていただきました。

熊澤 こんにちは、熊澤です。よろしくお願いします。

本間 熊澤さんとの付き合いはもう10年ぐらいになりますかね?

熊澤 2013年くらいからなので、そうですね、10年くらいになりますね。

本間 今は同じ職場で、コーポレートコーチ室というところで仕事をしていただいているのですが、熊澤さんは僕に多大なる影響を与えてくれた素晴らしいナイスガイでもありますので、今回はその熊澤さんと色々と話していければなと思います。では、簡単に自己紹介からお願いしてもいいですか?

熊澤 はい。改めまして、ZHDでエグゼクティブコーチをしている熊澤です。もともとはコーチングファームで17年間コーチをしておりまして、2013年にZHDの今の会長である川邊健太郎さんのコーチをスタートし、これまで10年間継続しています。そして、LINEとヤフー、ZHDが統合するタイミングの2021年にZHD社内に入って、本間さんと一緒に合併・統合を中でサポートしようという形で入社しました。今は本間さんと一緒に頑張っています。

本間 僕が知っているいわゆるビジネスを対象とするコーチの中では熊澤さんは抜群でして、2021年にぜひ一緒にやってほしいということでZHDに入ってもらった人です。追々、熊澤さんのコーチングの素晴らしさというものは話していきたいなと思っているのですが、今回はこのbizlogueという場に来ていただきましたので、1on1について、特にヤフーの1on1をコーチングのプロとして見てきた熊澤さんはシンプルにどのように感じているのかをぜひお聞きしたいなと思っています。ヤフーでは僕とかがいなくなった今でもみんなが1on1を続けているということは、一つの文化になったのかなとも思っているのですが……

熊澤 えぇ、文化になっていますね。中に入ってビックリしましたよ。社員の方から何気に「1on1をお願いします」って言われて、え、いきなり来るんだ?って(笑)。ですから、ヤフーでは1on1が文化として根付いているんだなと感じましたね。

本間 他にはどうですか? 例えば外部の人に「ヤフーの1on1ってどんなものなんですか?」と聞かれたら、どう答えます?

熊澤 『気兼ねなく、すぐに会話できる合意が取れている』、そんな感じがしますね。僕は色々な企業さんのコーチをしてきましたが、対話することのセットアップみたいなものがめちゃくちゃ難しいんですよ。「(恐る恐る)ちょっと声かけてもいいですか?」みたいな感じになってしまうのですが、ヤフーでは「1on1いいですか?」と会話をスタートさせる合意が取れているところが素晴らしいなと思いましたね。その合意を得ることが難しくて、色々な会社では対話が進んでいないのではないかなと思っています。

本間 それは、かつてヤフーの社長を務めていた宮坂学さんだったり、川邊さんが浸透してきた文化なんですかね?

熊澤 そうだと思いますね。川邊さんが副社長だったとき、彼が部下と1on1をする際のオブザーブをするというセッションをたくさんやってきました。川邊さんのコーチ力がどうなのかをフィードバックしてほしい、と。だから、1on1の際に川邊さんが部下に対して言っていた僕の紹介の仕方が「この人(熊澤さん)は俺(川邊さん)を見ているからね」と、そういうセットアップでした(笑)。

本間 川邊さんとその部下が1on1をやっているその場になぜ熊澤さんが同席しているかと言うと、部下を見ているのではなくて川邊さんを見ているから、と。

熊澤 そうです。だから、部下のあなたは熊澤のことを全然気にしなくていいからね、と。そういう紹介の仕方をしていただきながらコーチ力を高めていった感じがしていて、川邊さんのコーチ力はめちゃめちゃ高いですね。

本間 でも、川邊さんって最初はあんまり上手ではなかったですよね?

熊澤 最初はそうでしたね(笑)。

本間 それをどういうふうにフィードバックしていったんですか?

熊澤 川邊さんは学習力が高かったんですよ。あと、フィードバックをもらう力。そこが大きかった気がしますね。

本間 それは宮坂さんを見ても、川邊さんを見ても、もちろん頭はもともと良いとは思うんですけど、それに加えて2人は学習力が高いということですよね。

熊澤 ええ、めっちゃ高いですよ。

本間 フィードバックを受けて、変えていくという部分においてはやはり卓越していたなという気がしますよね。

熊澤 求めてきますからね。

会話を『話す人』と『聞く人』に分けたことは革命だった、しかし……

本間 ここからは1on1の話に入っていきたいのですが、僕はよく「1on1の中でコーチングをしてはいけませんか?」とか「カウンセリングと1on1はどう違うのですか?」と、そういうことを聞かれます。いちおう僕はカウンセリングでマスターを取り、コーチングでも資格を取りましたので、昔はそういうことを問われれば一生懸命答えていたような気もしますが、その質問に対して真正直に答えることが本当に良いことなのかと言われると、僕はちょっと違うなと思うことがあって、「1on1は1対1なのでどうぞご自由に」と答えるようになりました。熊澤さんはエグゼクティブコーチとして指導してきましたし、実際に企業のこともよく分かっている、それプラス、ヤフーでの1on1も知っています。その熊澤さんが「1on1とコーチングの違い、あるいは同じところはどこですか?」と聞かれたら、どう答えますか?

熊澤 同じと言えば同じですし……実は僕、最近ではコーチと思っていなくて。

本間 え!?

熊澤 コーチと言うよりも“対話の場”という感覚になっていますね。コーチングにおいて“話す人”と“聞く人”に分けたことはコミュニケーションにおいて大革命だったと思っているんです。

本間 へぇ~、その考え方は初めて聞きました。面白いですね。

熊澤 例えば、相手が「私はああして、こうして」と話していても、聞いている人は「そうですよねぇ」って答えながらも実際は「次に何を話そうか」とたぶん考えている。だから、本当に話を聞いているのかどうか分からない。結局、色々なところで起きている会話はAさんが言った話とBさんが言った話は内容が全然食い違っているんだけど、会話は成立して「楽しいよね!」というふうになっている。要は混沌としている会話を“話す人”/“聞く人”と分けたことは物凄い大革命だと、僕は思っているわけです。なので、コーチのトレーニングというものはすごい革命だったのかなとも思うのですが、一方で、“話す人”/“聞く人”と分けたことによる功罪も大きかったような気もしているんです。

本間 と言いますと?

熊澤 “話す人”/“聞く人”と分けたことによって、聞く側は「こっちは聞く人」みたいな、結局のところ二極化が生まれてしまったのかなと思っています。

本間 二極化、ね。

熊澤 はい。本当は相互に『対話』をしながら目標に向かって動いていきたいのですが、「僕は聞く人、あなたは話す人ね」みたいな感じで二極化が生まれてしまったのが残念と言いますか、1on1やコーチングをさらに良くするためのステップとして見つかったのかなという気がしています。そこは『対話』を一緒にしていこうという形にしていきたいなと思っていますので、コーチングか1on1かという名称はどっちでもいいじゃん、という感覚になっているのが正直なところですね。

本間 なるほど。それは何か進化していますね。

熊澤 そうかもしれないですね。このことはエグゼクティブコーチとしてZHDの中に入ってからも思っていることです。僕が「コーチする人」みたいな感じになると、相手は「あ、川邊からの回し者?」みたいな感じになってしまうんです(笑)

本間 その点、結構苦労しましたよね?

熊澤 最初はそうでしたね。川邊さんからの回し者なんて全然そんなことはないんですけど、でも、事業を良くするために一緒に対話を考えましょうよというスタンスが伝わっていくと、グッとそのセッションが良いものになり、継続して色々な方たちが僕を活用しようと思ってくれているという感じですかね。

本間 コーチングとかいわゆるエグゼクティブコーチと呼ばれている人たちはコーチだから良い質問をしなければいけないとか、一生懸命聞かなければいけないということになりますが、熊澤さんが今話してくれたのはそうではなくて、対話はやっぱり二人で良くしていくものだということがすごく分かりました。そして、それはたぶん昔からそうで、僕も川邊さんと熊澤さんのセッションに何回か入ってずっと見ていましたが、熊澤さんはいわゆるコーチングのテクニックというものをあんまり使わないですよね?

熊澤 そうですね(笑)

本間 川邊さんの頭の中にあることを白板にバーッと書きながら、それをスケジュール化したり、それをどうするの?とやっていく過程を見たことで、教科書通りのコーチじゃない熊澤さんのことをすごいなと思ったんですよね。あと、これはコーチがよく使う手だと思いますが、いわゆるステークホルダーと呼ばれる人たち――例えば、コーチングの対象者が管理職だったら、その周りの人たちにコーチがインタビューして「この管理職の人はどうあればいい?」といった話をするわけですよね。これって、僕はある意味では王道だと思いながら、ちょっとズルいなと思うのは、結局のところ直接言ってもらえればいいことなのに匿名をいいことに周りの人に聞いて、「あなた、本当はこういうふうに思われているよ」と管理職の人に返して、それをコーチングプロセスに充てていくということ。これはちょっとズルいなぁと思っていたら、熊澤さんは全然手法が違っていて、例えば僕が川邊さんの部下としてインタビューを受けたとき、熊澤さんの最後の一言は「川邊さんを成長させるために、本間さんは川邊さんに何を提供するか」でした。そして、挙句の果てには全くの匿名インタビューをやめましたよね。

熊澤 はい、やめましたね。

本間 これって、熊澤さんのすごいチャレンジと言いますか、熊澤さんの手法の好きだったところですね。このことは熊澤さんがこれまで話していただいた、対話は二人で一緒に作っていくものだということと共通するものなのでしょうか?

熊澤 そうですね。目的はその人の育成ではない、と僕は最近思っているんです。エグゼクティブコーチが、クライアントを育成するという視点から入ってしまうと、クライアントであるエグゼクティブ自身が「俺はできている」「俺はできていない」という良し悪しを自己評価する構造に入ってしまいます。そうなると、もうコーチングは「やりたくない」となってしまう 。結局、クライアントが事業を進めるためにはステークホルダーとどう関わるかだと思いますし、ここの関りが上手くいかない限り、事業って進まないと思うんです。だから、例えば僕が本間さんにインタビューした場合、「川邊さんと本間さんの対話がどうしたら上手く行くか」ということが僕にとって重要で、川邊さんに対してのネガティブポイント、ポジティブポイントなどは関係ないというのが正直なところです。本間さんが実現したいことは何なのか、それに向けて川邊さんにどう変わってほしいのか――「僕はこれをやりたい。だからこそ川邊さんにこうしてほしい」「あ、そうだったのか、本間さん。それは知らなかった。じゃあ、こうやろうぜ」という本間さん、川邊さん二人の対話がより活性化することの方が、事業がより良い方向に進むきっかけになるのではないかなと思っていますね。

対話によってパイプを“ジャバ”する

本間 そうですね。このやり方は本当に秀逸だったと思いますね。そこを熊澤さんがメタファーとして表したのが『パイプはつながっているか』『パイプは錆びていないか』

熊澤 はい。ここにパイプはそもそもあるのか。それで、パイプがあったとしたら穴は開いていないか、ヘドロでドボドボになっていないか。でも、たとえパイプが詰まっていたとしても、そうしたインタビューをしながら時に僕が上司、部下のグループコーチに入ると、「実はこう思っていたんだ」みたいな会話が起きる場合があって、ヘドロが1回きれいに“ジャバ”されるんですよね。ジャバ、分かります? お風呂の掃除をするときに使うアレです。

本間 ええ、分かります(笑)。

熊澤 そうしてパイプをきれいにするのが僕の役割なのではないかと思っているんです。そして、その対話をどうやって誘(いざな)えるか……。でも、会社の中に入って、やっぱり難しいなと思いましたね(笑)。

本間 そう、難しい?

熊澤 外からだと気兼ねなくバンバン行けましたけど、中に入ったからこそ分かるのは、「あ、気軽にジャバするのは難しいな」ということでしたね。

本間 それはどのあたりですか?

熊澤 本当の意味で本当の本音が出るのか、対話が起きるのか――と言いますと、そうではないこともあるんだなぁと最近実感したことですね。

本間 僕と熊澤さんの二人のミーティングで「熊澤さん、それをやっても社員は本音を言わないですよ」なんて話もよくしましたね(笑)

熊澤 あ、本間さんの言った通りだ、ってこともよくありますよね(笑)。やっぱり中に入らないと分からないことってありますよ。

本間 はい。というわけで、ここまでは主に1on1やコーチング、対話について話してきました。この対談の後半では『コーポレートコーチ』というものに関して色々と話をしていきたいなと思います。僕は熊澤さんがジョインしてくれなければコーポレートコーチという発想はなかったですし、熊澤さんをはじめ仲間たちと色々とやっていきながらこの概念は使えるなと思ってZHDでコーポレートコーチ室というものを作りました。同じbizlogueのメンバーである吉澤さんも今ジョインしてくれています。そのあたり、コーポレートコーチのことをまた話していければと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

熊澤 はい、よろしくお願いします。

熊澤真×本間浩輔
連載第2回『コーチングの哲学――Zホールディングスのエグゼクティブコーチが大切にしていること』

連載第3回『手応えを感じているZホールディングスの「コーポレートコーチ」、その役割と機能とは?』


bizlogueではYouTubeでも情報発信を行なっています。

■ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
(著・本間浩輔)

■1on1ミーティング―――「対話の質」が組織の強さを決める
(著・本間浩輔、吉澤幸太)

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