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チャペックと午後

三連休中に読もうと楽しみにしていた「山椒魚戦争」の作者カレル・チャペックの名前をなんとなくgoogle検索してみたところ、同名の紅茶屋さんがあることを知りました。三十年に亘って新鮮な茶葉にこだわった美味しい紅茶を届けている会社さんのようです。翌日(時によっては半日!)で手元に貨物を届けてくれるAmazonの便利さに甘え、本日は「カレルチャペック」の到着を楽しみに待ちながら山椒魚戦争を読んでいました。

なんというユーモア、風刺、細やかさ!
かつて触れたことのない、途轍もない名作に出会った感激があります。

物語はコンラッドやメルヴィルの「白鯨」を彷彿とさせる野性的な冒険譚風にスタートします。真珠を求めて謎の入り江に辿り着いた荒くれものの船長は、地元民が恐れる「魔物」こと山椒魚たちに出会います。賢く、人と簡単な意思疎通がとれる山椒魚たち。船長は、意外にも彼らを植民地主義的に支配するのではなく、愛し、されど同時に山椒魚たちが入り江に持つ真珠で富を得ようとするのです。

こうして比較的穏やかにはじまった山椒魚と人間の交流ですが、人間の欲が絡む限り、そうはいきません。物語は非常に社会風刺的な展開へと深まっていきます。人間は従順な山椒魚たちをはじめは見世物・商品として、続いては労働力として、つまり体の良い奴隷として活用するようになってゆきます。

そうして山椒魚が人間の暮らしの維持に欠かせなくなり、遂には左翼団体が「山椒魚の人権」「教育の促進」を謳うように。山椒魚たちは加速度的に人間らしく発達してゆき、人間たちは思いおもいに山椒魚を自分のセクターに取り込もうとします。共産党は「全世界の革命的被圧山椒魚たちよ!同志よ!団結せよ!(これ面白すぎて本気で吹き出しました)」と呼びかけ、ドイツは「山椒魚よ!ユダヤ人を追放せよ!」と呼びかける有様…。そうして人間と山椒魚はどうなったか?想像の通りかと思います。

この山椒魚戦争の面白さは、ユニークな構成です。物語のなかに記事が挿入されたり、逸話が入ってみたり、なにやら本物っぽく学者の論文(巻末の参考文献リストつき)が入ったりと、芸が細かい!チャペックは色々な意味で凄い作品を届けてくれたなと思います。どの国の、どの年齢の人が読んでも、反省のきっかけになるような作品ではないでしょうか。

ちなみに日本もちょいちょいでてくるのですが、秀逸です。「日本の学者が山椒魚が書いた科学論文を引用した論文を発表した(=つまり山椒魚の仕事を対等に認めた)ことで学会から総スカンをくらい、その学者は責任をとってハラキリ」という展開。大爆笑。チャペックは日本が好きだったのでしょうか?私の日本像とは対極的です。


近頃、ドストエフスキーの長編をついにすべて読んでしまいました。最後の一作は「白痴」でした。後に続けと、先週は戦争と平和を1~3まで読んでしまい、学生時代からあくせく必死に上っていた山の頂上が遂に見えかけてきたような気がして、不思議な寂しさを味わっています。青春の終わりや。

そしてこの夜は、遅々として進まぬ「失われた時を求めて」の7巻を、苦虫を食い潰したような顔で開いています。やべえ、つまんねえ…アルベルチーヌと主人公の睦言には興味がもてそうにねえ…。(以前同じことをここに書きました。つまり、あれから数十項しか進んでいないのです。)

アルベルチーヌのどこに面白い魂が?

いや、まてよ、アルベルチーヌに興味がもてないということは、あれほど楽しみにしていたソドムとゴモラ(同性愛)篇もつまらないのでは????アルベルチーヌがどの女とくっつこうが、私は同様に興味がもてないのでは????なんてことだ。祭りが雨で中止になった子どもの様に絶望している。

いや…まだ分からぬ…「私はあなたと出会って愛を、人生を知ったのです…」と、アルベルチーヌが突如思慮深い女性に転生するかも知れませんから。LOVEの力で。



いや、ないな。ない。


いよいよ挫折が見えてきた。

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