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成人の発達障害の評価と診断ー多職種チームで行う診断から支援までー 【読書感想文】 検査主体だが問診から治療まで幅広く詳しい内容


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Amazonでレビューしたものです。

本書は,東京大学医学部附属病院(以下,東大病院)こころの発達診療部主催の「発達障害研修会 —成人の発達障害の評価と診断—」の内容をまとめたものです。この研修会は,2011年に始まり,毎年実施されてきました。その目指すところはこれまで一貫していますが,令和元年度を迎えるにあたって全体がより統合されるように構成や提示方法がいくらか手直しされ,それが本書にも反映されています。また,この研修会に沿った4つの「Session」に加えて,「発達障害に特化した検査」が「Session4」として追加されています。専門性の高い検査に通暁していると共にこころの発達診療部で実際にその検査を担当してきた著者が解説をしています。東大病院こころの発達診療部は,2005年に設立されましたが,前身である精神神経科小児部デイケアはその40年近く前から活動していました。当初は知的な遅れのある自閉症をはじめとする幼児の療育を主に行っていましたが,時を重ねるにつれて成人後までの経過やより幅広い発達障害の経験が蓄積されてきました。それらを踏まえると同時に,成人後に発達障害を疑って診断を求めるニーズの増大に対応するべく,2012年に、精密な評価と診断を行ってそれに基づく心理教育と支援につなげていく発達障害検査入院というプログラムが開始されました。しかし,このプログラムで対応できる人数には限りがあるので,メンタルヘルスに携わる方々に成人の発達障害への理解を深めていただきたく,発達障害研修会にも力を注いできたものです。こころの発達診療部では,発達障害検査入院を含めて医師,心理士,ソーシャルワーカーの多職種チームで取り組んでおり,この研修会も同様です。このような経緯を受けて作成された本書には,発達障害のある人一人ひとりに合わせた「心理教育と支援」を大切にするからこそ,その前提としての「評価と診断」の充実を願うとの思いを込めたつもりです。様々な場面で発達障害のある人に出会うであろう皆様にその思いが伝わると共に,少しでも理解を深める上でお役に立てたら幸いです。

Amazonのページより


目次
はじめに

Session 1 発達障害と精神疾患──鑑別と併存も含めた診断について
1-1 発達障害をどうとらえるのか
(1)発達障害を考えるにあたって (2)発達障害の定義とその変遷 (3)発達特性と発達障害 (4)発達障害と愛着形成
1-2 発達障害検査入院プログラム
1-3 発達障害の診断基準
(1)ASD (2)ADHD
1-4 発達障害と精神科医療
(1)精神科医療との出会いのタイミング (2)併存症及び社会適応と精神科医療 (3)成人期に支援を要する状況にある発達障害 (4)精神科における診断のための聴取
1-5 鑑別か併存か
(1)発達障害における精神症状の検討 (2)うつ病・不安症・適応障害 (3)強迫性と衝動性を有する疾患:強迫症,摂食障害,行動嗜癖,トゥレット症 (4)統合失調症・双極性障害 (5)解離症・心的外傷後ストレス障害・性別違和 (6)ケースを通した鑑別と併存の検討
Session1まとめ

Session 2 発達歴の聴取について──ASDの特徴を持つ方を例に
2-1 発達歴聴取の前に
(1)ASD(Autism Spectrum Disorder) (2)発達歴聴取の目的 (3)定型発達の発達の道筋を把握する (4)発達歴聴取の方法 (5)聴取を補う資料
(6)発達歴聴取のためのツール ①PPARS-TR(親面接式自閉症スペクトラム症評定尺度 テキスト改訂版) ②ADI-R(自閉症診断面接 改訂版)
2-2 子どもの発達過程を知る
(1)運動の発達 (2)指さしの発達 (3)ことばの発達 (4)対人的相互反応の発達
2-3 発達歴聴取のポイント(ケース1に基づく聴取の実際)
(1)周産期・乳児期(0歳~1歳半)の聴取 (2)幼児期早期(1歳半~3歳)の聴取 (3)保育園・幼稚園期(3歳~6歳)の聴取 (4)小学生期の聴取 (5)中学生・高校生期の聴取 (6)エンディング
Session2まとめ

Session 3 成人の発達障害の包括的評価──心理検査バッテリーから分かる成人ASD の特徴について
3-1 心理検査による成人の発達障害への評価と支援の必要性
3-2 認知機能の特徴について
(1)知的水準の検査:ウェクスラー式知能検査(WAIS-Ⅲ)の結果と評価 (2)注意・衝動性の検査:Continuous Performance Testの結果と評価
3-3 心理・社会的状態について
(1)性格検査:P-Fスタディの結果と評価 (2)質問紙:AQ(自閉症スペクトラム指数)の結果と評価
3-4 成人ASDと併存疾患
(1)質問紙:CES-D(抑うつ状態自己評価尺度)の結果と評価 (2)質問紙:STAI状態―特性不安検査の結果と評価
3-5 検査のフィードバックについて
①内容についてはシンプルに,視覚的な補助を添えて ②具体的な記述で伝える ③説明を理解しているか確認しながら進める
3-6 ケース2に基づいた包括的評価
Session3まとめ

Session 4 発達障害に特化した検査──ASDとADHDを中心に
4-1 ASDのスクリーニング・ツール
(1)スクリーニング・ツールとは (2)東大病院における発達障害検査入院プログラムでの実際:AQ
4-2 ASDの診断・評価のアセスメント・ツール
(1)ADI-R (2)ADOS-2(The Autism Diagnostic Observation Schedule-second Edition:自閉症診断観察スケジュール第2版)
4-3 ADHDの診断・検査
(1)ADHDのスクリーニング・ツール (2)ADHDの診断・評価アセスメント
4-4 架空事例から発達障害に特化した検査について考える
(1)アセスメント結果 (2)AさんのVineland-Ⅱ適応行動尺度の結果
4-5 アセスメントの報告書について
(1)自閉症診断インタビュー改訂版(ADI-R)の報告書 (2)ADOS-2の報告書 (3)Conner's Adult ADHD Diagnostic Interview for DSM-IV™(CAADID™)とConners' Adult ADHD Rating Scale(CAARS™)の報告書
Session4まとめ

Session 5 成人の発達障害の支援──就労のための特性理解
5-1臨床で出会う,発達障害
5-2 診断告知
(1)告知の必要性 (2)自尊感情を高める診断告知 (3)診断告知に役立つ発達障害特性の長所 (4)診断・告知の工夫 (5)診断・告知への反応
5-3 治療・支援
(1)支援の前に確認しておくこと (2)治療の基本方針 (3)支援の実際―職場へのアドバイス (4)支援の実際―仕事から離れた時間 (5)支援の実際―金銭管理のアドバイス (6)支援の実際―薬物療法 ①ASDの薬物療法 ②ADHDの薬物療法
5-4 発達障害と仕事
(1)ASDと仕事 (2)ADHDと仕事 ①長く続けられる仕事 ②避けたほうがいい仕事 ③工夫 (3)一般原則 (4)働き方
Session5まとめ

おわりに
索引

Amazonページより


発達障害の診断基準から鑑別疾患、併存疾患、小児期の発達段階に薬物治療と、とても幅広い内容を詳しく解説されています。

しかも、実際に東大病院で行われている発達障害の検査について、詳しい紹介がなされていました。
WAIS-Ⅲでは、「言語理解の得点が高く、処理速度の得点が低い結果が成人のASDの方に見られる共通の特徴」だそうです。
また併存疾患への検査も紹介されています。
ただ、検査については、行う心理士さんが自らもトレーニングして習熟する必要があるが指導者がいなかったり、検査キットが高額だったりしてどこでもどんな検査でもできるというわけではありません。その辺の普及が課題かなと思います。

発達歴の聴取についてでは、具体的な方法が示されていました。
発達の時期に分けて順をおって聴取しましょうというもので、0−1歳半、1歳半ー3歳、3−6歳、小学校、中高生に分けて聴取をしようというものです。
ただ、実際は成人の場合は、成人のみのことが多く、だいたいみんな覚えていないです。なかなか親までは来てくれない。
さらに、指さしの状態や最初のことばまで詳しく聞こうとすると、そこまでじっくり聞く時間もないんですよね。

この本を元に、発達障害を疑って受診する場合にまとめておくリストなどができると良いなと思いました。


著者:東大病院こころの発達診療部(編著) 
出版社 ‏ : ‎ 岩崎学術出版社 (2022/2/14)
発売日 ‏ : ‎ 2022/2/14
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 208ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4753311961
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4753311965
寸法 ‏ : ‎ 14.8 x 1.5 x 21 cm



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