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つながる読書:『名場面でわかる 刺さる小説の技術』

つながる読書、第2回。
第1回からだいぶ間が空いてしまいましたが、まだやります。
今回の本は、前回の『夜は短し歩けよ乙女』から京都つながりで、京大出身の三宅香帆さんの本をチョイスしました。

前回はこちら↓

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いつか書いてみたいもの。それが小説。
読むのは好きだけれど、書くのはなかなか手を出せていない。それには理由がある。

実は、小学生の頃に何度か、小説までいかないようなお話を作っていたことがあった。それはあるゲームのキャラクターをお借りする形で作る、今でいう二次創作のようなものだった。
中学生になったあるとき、「オリジナルの話を書いてみよう!」と思い立ち、当時親から譲ってもらったばかりのワープロで、小説を書こうとしてみたことがあった。
けど、全然書けなかった。一文字も。

その経験はけっこう衝撃的で、「わたしは小説を書くのは向いていないんだ」とはっきり感じたことを今でも覚えている。
それまで自分は書ける人間だと思っていたのに、そうではなかったのだ、と気づいてしまった。今まで書けていたのはキャラクターがもともとあったからで、実際は何かを一から生み出すことはできないのだ、と。

振り返ってみれば、構成や登場人物なんかの設定を全く考えずに書き出そうとしていたのだからそりゃ書けないよなと今なら思えるけれど、当時はものすごくショックだったのだ。

それから約20年。小説を書くのは向いてないという思い込みにより、今までそこに手を出そうと考えたことがなかった。
けれど今、少し小説が書きたくなっている。それは、三宅香帆さんの『名場面でわかる 刺さる小説の技術』を読んだからだ。

この本は、小説における「名場面」に焦点を当てて、名場面となる条件やシチュエーションごとの名場面を作るコツを伝授してくれている。
そうそう、わかる!と思ったのが、「アイテムの選択が解像度を左右する」というところ。
この本では例として、朝井リョウさんの『何様』に登場するワンシーンが挙げられている。それは、主人公の大学生が朝食に「玄米ブラン」を食べている描写が出てくる場面。
『何様』は残念ながらまだ読んだことがないのだけれど、確かに玄米ブランは、大学生女子の朝食としてすごくリアルだなと思った。

この本に限らず、小説でいかにもありそうなリアルな描写が出てくると、その小説への信頼度が上がるというのは確かにあるし、登場人物の性格や人物像がより明確になって、好感度が上がる(場合によっては逆もある)こともよくある。
「本屋さんのダイアナ」に出てくる描写で、主人公・ダイアナの母であるティアラが、

せわしない手つきでマルボロライトを取り出し、長い爪をかちかちいわせながら、ラインストーンで覆われたライターで火を点ける。

「本屋さんのダイアナ」より

というシーン。
「ラインストーンで覆われたライター」なんて、見た目が派手なティアラがいかにも持っていそうなアイテムだ。
こんな短い文章の中にも、リアルさが詰め込まれている。

辻村深月さんの『傲慢と善良』では、主人公の架が初めて会う相手についての描写が出てくる。

よく日に焼け、子どもがかぶるようなキャップをかぶっていた。身につけているTシャツも、その上に羽織ったチェックのシャツもだいぶ使用感が出ているもので、立ち上がった時に見えたジーンズの後ろポケットは布がほつれて穴が開き、そこに入った財布の角がはみ出ていた。

『傲慢と善良』より

初対面の相手と会うのに、くたびれたシャツと穴の開いたジーンズを着てくるという、身なりにあまり気を遣わない感じ。それがありありと出ていて「いるいる、こういう人!」と、解像度の高さに唸る。
今まであまり意識したことがなかったけれど、リアルさや解像度の高さという点は、小説を読むうえで個人的に一番重視しているかもしれない。

この本には、今回紹介したもの以外にも、名場面を生み出す要素が25種類も取り上げられている。
小説の名場面は、こういうちょっとした描写によって作られているんだということがよくわかるし、もし小説を書くなら、この本で説明されている名場面のエッセンスを意識して書きたいとしみじみ思った。

そんなわけで、小説を書くことに少し興味がわいている今日この頃です。
いろいろ書いてみたいネタはあるのだけれど、一つの話として成立させるのが難しい。
人生で1回くらいは書いてみたいので、この本を参考にがんばってみよう。

それでは今回はこのへんで。
次回の本は選定中です。つながる読書、まだまだ続けていきます。

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