みかん

あと少しで異動する
3月は人もお金も動く
社長と話すことを増やしている

現場監督から財務
が、こないだまでの話で
さっき営業部長もやれ、となった

経理も営業もしたことはない
頼むほうも頼まれるほうも面白い
出来ないかも、と思わない自分が一番面白い

新築メインの中小工務店
現在地は社長がプレイヤーであることを控えて
育ってない営業が何もしてなくて現場がない

さぁどうしようかな、と
底で支えているリフォーム推し
正確な数字は異動しないとわからないけど

中小の工務店の社長
情に厚くて付き合いが上手い
社員を切るのは辛いだろうな

誰を切るか
そんな話をする立場も兼任していく
営業コストを適正化しよう、と投げかけた

ミドルからアッパーの注文住宅を売っている
1,2000万円台の数をこなすのではなく
5,6000万円の契約を取れないと飯が食えない

僕はどこへ行っても人をよく見ている
見てしまう、と言ったほうが正しいか
切るのは彼です、と伝えた

数字は全体で悪い
だから数字ではなく
費用対効果として彼を提示した

社内のバランスはそもそも悪い
パレートの法則の上の2が4で
真ん中3の下3になってる

だから彼以外にも推せ
と言われれば推す対象はいるけれど
僕は切る側の人間になった

誰もこんな役回りしたくないよな
社長だけで切ってくれんかな
でも、これって普通の会社員が出来んよな

そう思ったら口にしていた
彼は腐ったミカンです、と
そうか、と社長は理解を示した

社長も僕の上司から話は聞いていただろう
腐ったミカンよりは優しい表現で
僕は誰よりも強く彼を切った

すぐさま、ということはないだろう
僕が異動して現状を把握して
さらに誰かを推しているかもしれない

腐ったミカンという表現はとっさに出た
金八先生をちゃんと見たこともないけれど
相変わらず表現がストレートだな、と苦笑いされた

学校はまだ出荷されていないミカンを育てる
会社は出荷されたミカンを売る
3年ないし6年で消えないガスを除くには

群れようと話しかけ
目上に媚び
上辺だけの約束を反故にする

経営者目線に立つには
自分の財布から金を払って
得たのが”それ”かと想像してみればいい

当たり前に振り込まれる給与
当たり前に使用できるパソコン
当たり前に休める日曜日

それら全てに経営者は金を払っている
僕は小さい頃から経営者の祖父を見ていた
祖父は64で死ぬ間際まで無借金経営を叫んでいた

幼い頃、祖父から満タンの貯金箱をもらった
いくら入っていたのかも忘れたけれど
振ればおみくじの棒が出てくる木製の箱

大吉が出たら500円入れてたのかな
バブルの頃に満タンにしたらしい
それをくれて何か言われたか忘れてしまった

祖父も中小企業の経営者だった
水切りネットを原料仕入れて作っていた
マイルドセブンを吸っていた

幼いながら景気が良いのは知っていた
従業員もパートもたくさんいた
社長室の革のソファーで公文式を解いていた

100円均一ができて斜陽になる前かな
祖父が大量にリストラを始めた
売り手市場だったのか数名以外全員手切った

祖母がえらい剣幕で祖父にキレていた
性格が似てるから想像はつく
誰にも相談せずに片っ端から切ったのだろう

しばらくして近くの土地を手放した
あれよあれよと田んぼ1反残して
ぜーんぶ売り払って癌になった

病床の祖父はいつも赤ら顔で
借金はあかん、逃げは負けやない
みたいなことを言っていた

借金で苦労して
人の良さで損をして
時流に乗って得た稼ぎが嫌だったのかな

今ふとそう思う
自分の器のギリギリで勝負して
勝ちも負けも判断するのは自分だ

祖父の隣に今の僕が居たなら
切るのを止めていたのかな
一緒に浮いたお金で次を狙ってたのかな

多分後者で僕も最期そんなことをすると思うけど、良い機会だから明日墓参りに行こうかなと思った


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