見出し画像

月魄|詩

ごらんよ
欠けてゆくあの月の
暗いところが大きくなってゆく

もう光は細い、細い繊月せんげつ


おいでよ

あの月のさやをはらって
君を刺したりしないから

冷たい光で浄める間
少し痛いかもしれないけれど


そのあとで
君を月溜つきだまりのなかにつれていく

痛いわけじゃない
冷たいだけ

青白い熱にさいなまれていた
君の体も

霜明しもあかりみたいな指先も
透明な色になじんでゆく


君の心臓の音が
どこにいても追いかけてきて
僕はすっかり
具合が悪くなってしまった

花々も蕾のまま霜に喰われて
しかたなく
氷雨ひさめんだ氷の花びらを
白くまつわらせている


明けめてゆく
光の穂が
氷の花を砕こうとして
却って虹を散らすのを
君は見たことがあるだろうか


きわみ無き空へ
突き抜けていく光を
僕は
立ち尽くして
見送ることしかできない

君はあそこに行きたいのかい
天につづく階段は
青い星よりなお冷たいのに

僕の足は
氷の羊歯しだに噛まれて
長くは歩けない

だから
ここに居るしかない



だけど ご覧
夜明けだ
凍えた太陽が凍土を照らし始めた

氷だけに許された純潔をまとった君は
この地の女王
そして殉教者

でも君を泣かせたくはない
頬を伝う
凍った雫は
あまりにも美しいだろうから


乾杯しようか
地平線低く
さまよっていく太陽と
明けもせず暮れることもできない
永遠の白夜にかけて


乾杯しよう
無垢なる君と
僕のやり方でしか
君を愛せない
僕の
寂しい愛を

綺麗なまま
一番星が投げかける
澄んだ光のなかに
葬るために






以下、辞典3冊より。(ご興味があれば)
大辞林/ 新明解国語辞典/ 新選漢和辞典



詩のタイトル「月魄」。音読み・訓読み、決めかねまして...。
(どちらでもいいけれど、強いて言えば音読みかなあ)

げっ ぱく[0]【月▼魄】
〔「魄」は月のにぶく光ってみえるほの白い部分の意〕
月。月の光。月の精。

つき しろ[0]【月▼魄】
月。月の光。

大辞林より
(新明解には記述なし)



魂魄こんぱく」という単語。ひとつひとつに深い意味がありました。


【魄】↔魂
〈漢和〉
①人の肉体をつかさどる気。
②からだ。
③月の光。
④月の光らない部分。
⑤心。

〈大辞林〉たましい。陰の気に属し、死後もこの世にとどまるという。

〈新明解〉人の肉体に宿り、それを支配する方のたましい。



【魂】↔魄
〈漢和〉
①人の精神をつかさどる気。
②こころ。

〈大辞林〉たましい。特に、陽の気に属して精神をつかさどるとされる。

〈新明解〉人の精神に宿り、それを支配する方の たましい。


タイトル写真はWalterBieck様@pixabay

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?