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「本を読まない人生を生きるつもりはない」ー素敵な選書サービス見つけました

先日noteで、こんな記事を見つけました。

事前にカウンセリングシートにご回答いただき、あなただけのオススメ本を3冊選書します。
オンライン上のやりとりで完結し、書店にご来店いただく必要はありません。
「どんな本を読んだらよいかわからない」「自分で選ぶとジャンルが偏ってしまうので、今まで読んだことのない本に出会ってみたい」等、選書サービスを利用してみたい方は、お気軽にご利用ください。
(中略)
普段から多くの本を読む方も、あまり読まない方も、自分が今まで出会ったことのない本との読書経験をしてみませんか?

「選書サービス(常時オンライン)のご案内 PASSAGE通信 #4」より


へえ、わたしだけの3冊を選んでくれる、選書サービス。
ふむふむ、オンライン完結。お手軽。
え、しかも無料。
なるほど、選んでもらった本のタイトルと選書コメントがメールで送られてくるだけで、別に買う必要もないのね。

…つまり、ただただ純粋に、本屋さんが、
わたしだけのために本を3冊選んでくれるってこと?
え、なにそれ、楽しくない?
うわ、そしてなんて素敵なアカウント名。
「いつか読書する日」。

んんん、これはもう、申し込むしかない。

わくわくしながらその場ですぐ、記事内に貼られていた申込みフォームを開いてみる。

開いた先は、とても丁寧なカウンセリングシート。

シートが問いかけるいくつかの質問に、さっそく答えていく。

選書サービスに申し込もうと思った理由、
人生のベスト10の本(3冊でも5冊でも可)、
本を読む時間や場所、
その他いくつかの質問、
そして最後に、
「あなたにとって本とはなんですか?」。

魅力的な質問ばかりで、わくわくしてしまう。

長文回答を読むのは店主さんもきっと大変だしもっと短くしなくちゃ、と思いつつ、書きたいことが溢れて削りきれない。

ああわたし、本について質問してもらうことが、こんなに嬉しいんだな。
そんなことを思いながら、答えていく。

書き終えて、記入漏れがないかチェックする。
うん、だいじょうぶ。
メールアドレスは記入するけれど、それ以外の連絡先や本名を記入する必要はない。
とっても簡単。
よし、送信。ぽち。

これであとは待っていれば、選んだもらった3冊の本のタイトルが、メールで届くんだよね?

うわあ、たのしみ!

* * * *

おすすめ本を選んでいただくのを待っている間、この選書サービスをしている「いつか読書する日」さんの記事をいくつか読んでみた。

そこでわかった、いくつかのこと。

まず、この「いつか読書する日」というアカウント名について。
この魅力的な名前は、この本屋さんの店名だった。
そしてこの本屋さん、「本屋さん」と言ってもひとつの店舗を構えているわけではない。
東京の神保町にあるPASSAGEという共同書店(シェア型書店)の「一棚店主」さん、とのこと。

ん?一棚店主?
どういうこと?

頭にハテナが浮かんだまま、記事の中に貼られていたこちらのリンクに飛んでみる。

こちらもまた、少し抜き出して引用してみる。

世界一の本の街・神保町に2022年3月にオープンした一棚一棚に店主がいる共同書店です。
それぞれの書棚には、フランスの実在の通り名がつけられ、
店主のこだわりが詰まった棚はもちろん、
書評アーカイブサイト「ALL REVIEWS」の参加書評家たちが選んだ本が並ぶ棚も所狭しと現れます。
プロデュースは仏文学者・鹿島茂。
さながらパリのパサージュのような上質な空間で、あなたも書店をはじめてみませんか?
本を愛する方でしたら、どなたでも出店可能です。

https://passage.allreviews.jp/

ええ、一棚一棚に店主さんのいる共同書店!

なんてユニーク、なんて素敵、さすが神保町。

そしてさらに記事を読むうち、「いつか読書する日」の店主さんが、別のお仕事(本業)をしながらこのユニークな共同書店の一棚を運営されている、ということもわかってきた。

本業があるのに、なぜ共同書店の店主をしているのか。

この理由がまた、とても胸に迫るものがあった。

* * * *



店主さんが書かれたこの記事、とても胸を打つ内容なのでぜひ全文読んでいただきたいのだけれど、これもまた、ここに一部を引用させていただく。

記事は、本業の過酷な働き方のため体を壊してしまった経緯から始まる。

一日のうち、どのくらい働いていたかわからない。
起きている時間で、働いていない瞬間はほぼなかった。
当然の帰結だが、体は悲鳴をあげ、次々と不調があらわれ、市販薬では抑えきれず病院に通いながらなんとか毎日をやり過ごした。
何ヶ月かそんな生活をした挙句、案の定起き上がれなくなった。

PASSAGEの一棚店主にすべりこみでなったのは、そうなるほんの少し前のことだった。
これ以上仕事だけをしていたら、自分が自分でなくなってしまうという恐怖心から、私はPASSAGEの棚主に申し込み、その後のことなど何も考えていなかった。
自分の人生に本の場所をつくりたかった。仕事以外の大義名分が私には必要だった。

寝たきりの私がベッドの上で後悔したのは、本を読まなかった日々だった。
仕事以外のことをしなかった日々のことを心底悔やんだ。
「できるから」それだけの理由でどんどん仕事が降ってきた。おかしいなと思うことはあった。もっとフェアな分担をと求めたこともあった。けれど最終的には、仕事はできるところにやってくるという呪いで、そこにフェアネスはなかった。

(中略)

寝たきりになって、生まれて初めて、心底自分に価値を感じた。
誰かができる仕事で評価されたところで、それが何だったのだろう。
あの時間、私は働くのではなく、本を読むべきだった。

(中略)

寝たきりになった時、神保町の本棚を申し込んでしまってどうするのだろうと思った。
こんな状況では申し込んだだけで、満足に本の補充もできない。なんて間が悪かったのだろうと。
だが奇しくもこの神保町の本棚が私の人生の支えになることに、私はまだ気づいていなかった。

起き上がれるようになると、鍼治療の帰りに神保町に寄るようになった。
本の搬入、PASSAGEにいる人との短い会話。滞在時間はとても短かったが、私にとっては大仕事だった。家に帰ると疲れ果てたが、それは心地の良い疲労だった。仕事では感じることのなかった充足感のある疲労だった。
PASSAGEに行くことを繰り返す度に、自分の中に本の居場所が確固たるものになっていくような気がした。

世の中にこれほど本を支持する人がいる。
長いこと労働に染まりきってしまった私は、自分一人だけでは、本に価値があると信じきれなかった。本を愛する人たちの存在は、私を励まし、一人ではないのだと勇気づけてくれた。

PASSAGEがなかったら、私は今こうして生活できていたのだろうかと思う。
仕事に復帰しながらも、もう嫌で嫌でたまらないのに、夜中まで働く生活に逆戻りをして、また体を壊しての繰り返しだったかもしれない。

私は今後、働きすぎることはないだろう。
私はもう、本を読まない人生を生きるつもりはないということが、明確にわかってしまった。

「藁にもすがる思いで本屋になる PASSAGE日記 #9」より


この文章の最後に書かれた一文。

「私はもう、本を読まない人生を生きるつもりはない」。

うわあ、わかる。
すごく、わかる。

なにも本じゃなくてもいい。
映画でもダンスでも絵でも、とにかく「自分が心から愛する何か」。
その「何か」をしない人生を生きるつもりはない、と決めること。

「本を読まない人生を生きるつもりはない」
「映画を観ない人生を生きるつもりはない」
「ダンスを踊らない人生を生きるつもりはない」
「絵を描かない人生を生きるつもりはない」
「家族と一緒に過ごさない人生を生きるつもりはない」

他者の目にそれがどれほどくだらなく映ったとしても、自分が心底愛するものなしの人生を生きるつもりはない。
そういうことだと思う。

ああ、わたしもそんなふうに生きてきたなあ、と思った。

そして、この価値観を共有する人に、わたしはこれから本を選んでもらうんだなあと、しみじみ嬉しくなった。

* * * *

そして後日、ついに「いつか読書する日」さんから選書メールが届いた。

そこに書かれていたのは、期待以上の素敵なお返事だった。

その素敵なメールを、ご紹介します。
(「いつか読書する日」さんから掲載許可をいただきました)

さちさん

この度は「いつか読書する日」の選書サービスをお申し込みくださり、ありがとうございました。
ヒアリングシート、丁寧にご記入くださり、ありがとうございます。
さちさんのような方にお申込みいただき、大変光栄です。
どの三冊にするか悩みに悩みましたが(お時間いただいてしまってすみません)、こちらの三冊を。

①『最後の物たちの国で』ポール・オースター
あらゆるものが失われる世界に迷いこんでしまった主人公。
手紙形式のあまり長くはない物語ですが、美しく完成された物語です。
説明してしまうのがもったいない一冊なので、ぜひお読みいただければ。

②『水曜の朝、午前三時』蓮見圭一
恋愛小説と紹介される本ですが、人生を生き切る様が描かれている極上の小説だと思っています。
時代背景、三世代にわたる登場人物等の設定がうまく、読む人の年齢によって、登場人物の誰の立場に共感するかが変わるため、再読するのもおもしろい一冊。
冒頭の主人公の娘婿の短い文章が秀逸で、導入からすばらしく、一気に物語の世界に誘われます。

③『私は生まれなおしている』スーザン・ソンタグ
上記①と②はさちさんがお好きなのではと強く思えたのですが、最後まで悩んだのがこの一冊。
もしかしたらあまり読まない&好みではないジャンルかもしれませんが、ご自身ではお手に取らなそうな本をあえて一冊いれてみました。
スーザン・ソンタグという20世紀アメリカを代表する知識人の14歳から30歳までの日記とノートです。
断片的な文章を書きとめているノートなので、ストーリーや結末があるわけではないのですが、日々生きて考えている文章がありのまま無造作に置かれています。
おすすめするのであればスーザン・ソンタグの代表作や著作の方が一般的だと思いますが、彼女の感性やみずみずしい文章を味わっていただきたく、あえてこの本を選ばせていただきました。

同僚の方の魔法のような選書には及ばないかもしれませんが、一冊でもさちさんにとって新しい世界を感じ、好きになる本があるとうれしいです。

2023/5/8
いつか読書する日

感動して鳥肌が立った。

一番嬉しかったのは、店主さんが「悩みに悩んで」選んでくださったということ。
だって、そんな経験、なかなかできない。
しかもそれが、「本を読まない人生を生きるつもりはない」と思い至るほど本を大切に思っている人の、選書なのだもの。
小躍りするほど、嬉しかった。

そしてここに並べられた、3冊の本。

①の『最後の物たちの国で』は遥か昔に読んだことがあるけれど、きっと今のわたしには違う響き方をするだろうという予感がある。
再読決定。

②と③は、まるで知らない本だった。
添えられた心のこもった解説文からその面白さが滲み出ていて、必ず読もうと心に決める。

* * * *

本を選んでもらう、というのは、すごく特別なことだと思う。

それは手紙を受け取るのに、どこか似ている。
わたしの内面だけを見つめて書いてもらう手紙。
得難い震えのようなものが、そこにはある。

きっとそのうちAIが、驚くような精緻な選書サービスを行うようになるだろう。
でもそこには、この「手紙」の要素が欠落してしまうんだろうなあ、とも思う。

そんな要素いらない、と思う人もきっとたくさんいるだろう。
それもまた正しいと思う。
それでもわたしは、心の込もったこんなにも温かな選書サービスを受けられてよかったと、心から思う。

だって、わたしのために時間をかけて選んでいただいた3冊の本は、読む前からすでにわたしの宝物なのだ。
AIに選んでもらった本が、読む前から宝物になることは、たぶんきっと、ない。


「いつか読書する日」さん、素晴らしい選書を本当にありがとうございました!

* * * *

「いつか読書する日」さんの選書サービスは、こちらから申し込めます。

* * * *

お読みいただき
ありがとうございました。

どうぞ素敵な一日を!



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