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【絵本】『たいせつなきみーYou Are Special』/他者からの評価に疲れたときに

シールを貼り合うこびとたち

ある村に、「ウイミックス」という、木でできたこびとたちが住んでいました。
大きいもの、小さいもの、姿かたちはそれぞれ違うけれど、みんな、「エリ」という名の一人の彫刻家がつくった人形たち。

彼らは毎日、朝から晩まで、お互いの体にシールをくっつけあって暮らしていました。

なめらかな木でできていたり才能があったりするウイミックスにはきんぴかの「お星さまシール」が貼られ、でこぼこの木でできていたり不器用だったりするウイミックスには灰色の「だめじるしシール」が貼られます。

お星さまだらけの ウイミックスとうじょう!
お星さま もらうと 気分はさいこう!
また すごいことをして
お星さまがほしくなってくるんだ。

だけど なんにもできない
ぶきっちょな こびともいた。
そんな こびとたちは
みにくい だめじるしを くっつけられたんだ。

『たいせつなきみ』より


だめじるしシール

主人公は、ぶきっちょのパンチネロ。
いつも失敗ばかりの彼の体は、みんなからつけられた灰色の「だめじるしシール」でいっぱい。

「やつは だめじるしだらけが おにあいだな」
木のこびとたちは みんなで そう言ってからかった。
「あいつは だめなこびとだからな」

『たいせつなきみ』より


いつしかパンチネロは「自分はだめなやつだから、みんなからそう言われても仕方がない」と思うようになり、家から出るのがいやになります。


シールのつかない女の子

そんなある日、パンチネロは、お星さまもだめじるしもつけていないウイミックス、ルシアに出会います。

みんな ルシアにもシールを くっつけようとしたけど つかなかったんだ。

あるウイミックスは「だめじるしが ひとつもないなんて すごいねえ」と かけよって ルシアをほめた。
そして お星さまを くっつけようとしたけど おちてしまった。

こんどは べつのこびとが やってきて
「お星さまを ひとつも もらってないなんて」と ばかにして だめじるしを くっつけようとした。
でも それもやっぱり くっつかない。

『たいせつなきみ』より


「ぼくも、あんなふうになりたい。もう誰からも、いいとか悪いとか、言われたくない」

そう思ったパンチネロは、「どうしたらそうなれるのか」とルシアに訊きます。

「それならかんたん。彫刻家のエリに会いに行ってごらん」
ルシアの答えは、それだけでした。


みんながどう思うかなんて

勇気を出してエリに会いに行くことに決めたパンチネロ。
彫刻家エリは、こんなふうに語りかけます。

「ふーむ」
つくりぬしは みにくい はいいろのだめじるしを見て 思いやり深げに言った。

「ずいぶん たくさん つけられたね」
「そんなつもりじゃなかったんだよ エリ。
ぼくもいっしょうけんめい やったんだ」
「ああ なにもかも わかっているよ。いとしい子。
ほかのウイミックスが おまえのことを
なんと思おうと かまいはしないさ」
「ほんと?」
「ほんとだとも。おまえだって気にすることなんか ありゃしない。
お星さまやだめじるしを つけていったのは
いったい だれだい?
みんな おまえと同じような ウイミックスじゃないか。
みんなが どう思うかなんて たいしたことじゃないんだ パンチネロ。
もんだいはね このわたしが どう思っているかということだよ。
そして わたしは おまえのことを とてもたいせつだと思っている」

『たいせつなきみ』より

エリのこの言葉を聞いて、パンチネロは思わず笑ってしまいます。

「ぼくが たいせつ?どうして?
だって ぼく 歩くのおそいし
とびはねたり できないよ。
えのぐだって はげちゃってる。
こんなぼくのことが 
どうして たいせつなの?」

エリはパンチネロを あたたかく 見つめた。
そして かれの ちっちゃな木でできたかたに そっと手をおいて ゆっくりと こう 言ったんだ。
「それはね おまえが わたしのものだからさ。だから たいせつなんだよ」

パンチネロは今まで だれからもこんなふうに 見られたことは なかった。
まして つくりぬしからこんなふうに
言われるなんてね。
うれしくて ことばも出なかった。

『たいせつなきみ』より


シールがくっつかない理由

パンチネロは、シールのつかない女の子ルシアについて、エリに尋ねます。

「どうして あの子には シールがくっつかないんだろう?」

つくりぬしは やさしく こう話した。
「それはね みんなが どう思うかなんてことよりも わたしの思うことのほうが もっとだいじだと あの子がきめたからなんだよ。
シールがくっつくように していたのは おまえじしんなんだよ」

「どういうこと?」

「どんなシールがもらえるかってことを 気にしていると シールのほうもおまえに くっついてくるんだ。
おまえがわたしの あいをしんじたなら
シールなんて どうでもよくなるんだよ」

『たいせつなきみ』より

「よくわかんないな」と答えるパンチネロに、エリはこう言います。

「今にわかるよ。時間はかかるがね。
こんなにたくさん だめじるしをつけられてきたんだからね。
ともかく これからは毎日 わたしのところへおいで。
わたしが おまえのことを どれくらい だいすきだか わすれないようにね」

この言葉をパンチネロが信じたとき、
パンチネロの体から、だめじるしがひとつ、
はがれ落ちました。


シールを貼り合うわたしたち

ここに描かれるこびとたちの姿は、わたしたちに重なります。

学校や職場での評価。
SNSの「いいね」。
見た目の評価、才能の評価。
何を持っていて、何を持っていないか。
何ができて、何ができないか。
わたしたちはいつもいつでも、
シールを貼り合って暮らしてる。

「シールがあるから頑張れる」
という意見も、きっとあると思います。

でもわたしはやっぱり、シールのつかないルシアになりたい。

他者からのシールのせいで、自分を愛せなくなるくらいなら。
他者からのシールでしか、自分を認められなくなるくらいなら。
それくらいなら、どんなシールも自分の体につけたくない、と思います。


他者の評価は、自分の価値とは無関係

この絵本の根底には、キリスト教の思想がはっきりと流れています。
ここに出てくる「エリ」は、明らかに「創造主=神」。

わたしはある特定の宗教を信じてはいないけれど、「より大きな自己」のようなものを感じることはあります。

死ぬまでわたしの心臓を動かし続ける、大きな知性。
生命を生かし続ける、精巧なシステム。
地球を自転させ続ける、人智を超えた自然の調和。

そういうものの視点から見たなら、わたしたちがお互いにつけあう評価は、こびとたちのつけあうシールときっと何も変わらない。
そんなシールより、もっと大切なことがある。


あなたはすでに価値ある存在

生きている限り、わたしたちはみんな、評価を受け続けるでしょう。
誰にでも、誰かを評価する自由はあるのだから。
そしてそれは、決して悪いことばかりではないのだから。

けれど、その他者の評価をどう受け止めるかは、自分で選べる。
他者の評価、いいねの数、そういうものを「自分自身の価値」を測るものとして受け止めるかどうかは、自分次第。

シールのくっつかない女の子ルシアは、他者が貼ろうとするシールを振り払おうとはしませんでした。
ただただ、彼女の体にシールが貼りつかなかっただけ。
それはきっと彼女が、「自分自身の価値は他者からの評価とは無関係だ」ということを心の底から知ったから。
「わたしの価値とは関係ない」と知っているから、他者からの評価は良いものであれ悪いものであれルシアの心に大きな影響を与えず、「取るに足らないシール」としてその場限りではがれ落ちていく。
それはきっと、とても軽やかで自由で、幸せな生き方。

あなたはすでに価値ある存在。
誰かの評価は関係ない。
そのことを、やさしく教えてくれる絵本です。

他者からの評価に疲れたときに。
たいせつなひとへの贈り物にも。

※品薄のため、現在購入価格がとても高くなっているようです。ベストセラーなので、きっとお近くの図書館にもあると思います。


※全6話が収録されたこちらのストーリーブックの方が低価格で購入できそうです。(内容についてはサイトにてご確認ください)


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