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【読書】『お探し物は図書室まで』/明日が少し楽しみになる本

青山美智子さんの小説は、いつも優しい。
何気ない言葉で心の中にするりと入り込み、蓋をしていた気持ちに優しく触れて、そっと開いてくれる。

青山さんの言葉に導かれて、きつく閉められていた蓋が、ほんのすこし、開く。
一度開いた蓋からは、止めようもなく自分の気持ちが溢れ出る。

ほんとうは、こうなりたい。
ほんとうは、こう言いたい。
ぎゅっときつく蓋をしていた箱の中身は、
たくさんの「ほんとうは、こうしたい」。

そこから溢れ出たたくさんの本音の中には、自分でも気づいていなかったものもある。

ああ、わたしはほんとうはこうしたかったんだ。

自分の気持ちに驚くと同時に、不意を突かれて、涙がたくさん溢れた。


この本は、年齢も性別も違う5人の登場人物の、それぞれの視点で紡がれていく連作短編集だ。
その5人の人生を優しくつなぐ役割をするのが、地域のコミュニティハウスの中にある小さな図書室。
(ここに出てくる風変わりな司書が、それはもう格好いい。)

目次は、こんなふうだ。

一章 朋香(二十一歳 婦人服販売員)
二章 諒(三十五歳 家具メーカー経理部)
三章 夏美(四十歳 元雑誌編集者)
四章 浩弥(三十歳 ニート)
五章 正雄(六十五歳 定年退職)

『お探し物は図書室まで』目次


これまで歩んできた道も今の立場も、まったく違うそれぞれの登場人物。
けれど不思議なことに、どの人の中にも、わたしと同じ気持ちがあった。

「ほんとうは、こうしたい」という思い。
そしてその気持ちをかき消すのをやめて正直になったときの、喜び。
体の奥から生きる力が湧いてくるような感覚。

それまで抑え込んでいた「ほんとうは、こうしたい」という自分の気持ちを認めたとき、たくさんの涙と一緒に心が楽になって、自然と心が前を向く。自分の「こうしたい」をコンパスにして明日を生きてみようと思える。


第三章に、元編集者で今は子育て中の女性の、こんなセリフがある。

「ああ、私は本を作りたい。
明日が少し楽しみになるような、自分の知らない気持ちと向き合えるような、そんな本を世に出したい。」

わたしにはこの言葉は、青山さんの書く小説そのものを表しているように思えた。

明日が少し楽しみになる本。
自分の知らない気持ちと向き合える本。

この本は、まさにそんな本でした。

最後までお読みいただきありがとうございました。
どうぞ素敵な読書体験を!

※書影は版元ドットコム様よりお借りしています。


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