見出し画像

練武知真 第13話『引いて見ることの大切さを知る為の武術』

伝統武術「形意拳」は、体幹を後ろ寄りに配置した
「三体式(さんたいしき)」
と呼ばれる姿勢を基本とします。

まずは特定の姿勢を維持しながら身体各部を調整する
「站樁功(たんとうこう)」という訓練方法で、
この三体式を身体のベースとなるようトレーニングします。

 

そのあと形意拳の特徴である「前進しつつ技を打つ」練習をしてゆく訳ですが、この時も三体式の基本姿勢は崩しません。

つまり、体幹後方配置のまま進み、打撃を放つのです。

 

通常格闘において、

攻撃時には体幹を前足へと移動させて、体重を乗せたパンチを放つものですが、

形意拳においては、後ろ足寄りに体幹がある状態で強い打撃を打てるように訓練するのです。

そのため、とても複雑な身体操作を学ばなければならず、

さらに、いざという時にその姿勢で戦えるよう身体に染み込ませる必要があります。

 

日常生活ではおこなうことのない「非日常的な動き」を、

自然な「日常的な動き」に変えてゆくのです。

当然、長い時間がかかります。

 

では何故、このような難解で、時間のかかるようなことをわざわざするのでしょうか?

 

そこには形意拳が辿り着いた戦闘を有利に進める為の知恵があるのです。

 

第一は防御における有利性。

自分の大切な本体、頭部や体幹を後方に置いておけば、そこへの攻撃を防ぎ易くなります。

 

相手サイドの気持ちになってみましょう。

形意拳の三体式スタイルに相対した場合、狙いたい頭部や胴部が遠い所にあるのです。

強引にそこへの攻撃を試みても、届かずに空振りするかも知れません。

または腕によって捌かれてしまう可能性も大です。

 

どうです?

少し闘い難い感じがしませんか?

 

さて、また形意拳サイドへと意識を戻しましょう。

三体式スタイルでは前脚に体重が乗っていないので、その前足を動かし易い状態にあります。

こちらからの蹴りも出し易く、

相手からのローキックも脚を上げて回避し易い。

チャンスが来た時にすぐさま相手へと踏み込ことも可能です。

 

このように書くと、

「では何故他の武術も三体式を採用しないのか?」

という話になるかと思います。

 

これは先にも少し話しましたが、

体幹後方配置のままで、強い攻撃力を発揮するのはとても困難だからです。

打撃にチカラが乗らない。

防御するに有利でも、攻撃するには不利になってしまうからです。

 

形意拳はこの問題点について、

「推進勁(すいしんけい)」という前進力に急制動をかけることによってパワーを発生させる方法や

「沈墜勁(ちんついけい)」という大地の反動力を活用する方法、

「気」の概念による身体内部の爆発力を利用する方法など

様々な工夫によって解決を図っています。

 

形意拳の先人たちは、熱き探求心をもって、

繰り返し、繰り返し、試行錯誤をし、

体と頭をフル回転させて作り上げたのでしょう。

私は心より尊敬し、そして感謝しています。

 

さて、三体式の第二の利点についてお話ししましょう。

それは「俯瞰(ふかん)」です。

 

体幹を前足側に配置すると、

強い打撃も打ち易く、

相手へ攻撃も当て易い。

相手へ強いプレッシャーを与えることもできます。

 

ただし、相手からも攻撃され易い為、

優れた反射神経と

打たれた際の耐久力が必要になってきます。

 

形意拳では基本姿勢を体幹後方配置、つまり

「引いた姿勢」

にする為、相手の全体像を把握し易いという利点があります。

 

「前のめり」の姿勢になると、

どうしても相手を広い視野で捉えることが難しくなってきます。

意表をついた攻撃に惑わされたり、フェイントにひっかかり易くなったり。

 

形意拳は相手に集中しつつも「俯瞰」の感性を維持します。

それは想定環境が「一対一の試合」ではなく、

日常における危機対応にあるからです。

相手は複数かも知れません。

武器を持っているかも知れません。

そのような状況では目の前の人物にのみ意識を集中するのは危険なのです。

 

 

日常において強い意志力と集中力を発揮して、

「前のめり」

になって進むことは、問題を解決し、道を切り開き、人生を前へ進めることに大きなチカラを発揮します。

 

ただ気をつけないと、

思わぬアクシデントに足元をすくわれたり、

つまずいたりする可能性もあります。

 

時には少し、心と体を「引いて」みて、

目の前の状況や周囲の状況を俯瞰してみることも大切だと思うのです。

特に、行き詰っている時などは、

全体をよく見ることが、よき行動を生み出し、

問題を解決してくれたりするのです。

 

 

 

2024年5月8日 小幡 良祐

【OBATA RYOSUKE Official Site】https://bd-bagua.com/

【旺龍堂OHRYUDO Homepage】 http://ohryudo.com/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?