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「格差」と世界

 最近何だか慌ただしく過ごしており、noteになかなか来れていません。投稿もランダムになってしまっている状態なのですが、ご覧頂いている方々もいらっしゃるとのことなので(noteの通知を先程確認しました)、本当に有り難く思っています。

 ところで、今日少し衝撃的な本を読みました。

「大脱出」 アンガス・ディートン 2014.10.22 
みすず書房

 ディートンは著名な経済学者なので、もう読まれている方もたくさんおられるかもしれませんね。

 「格差」という概念は以前から存在していたものの、最近かなり注目されるものになったような印象を個人的には受けています。
 そして、「格差」をいかに捉えるかは歴史的な淵源からアプローチしたり、哲学的に(或いは形而上学的に)アプローチしたり、公共政策的な視点からアプローチしたり……といった形で様々な手法が存在します。(ちなみに昨今だと日本ではサンデルの著書が「格差」について考えるきっかけになられた方が多いのではないでしょうか。)
 本著は経済学者の視点から見た「格差」の問題です。著者の主なテーマに貧困や経済開発などがありますが、同じく貧困にアプローチした経済学者としてはアマルティア・センなどが挙げられます。アマルティア・センもおすすめ。

 話は本著に移ります。「格差」を著者は貧困から脱出した一部の人々が進歩を生み出し、その進歩から取り残された人々との間に芽生えたものとして捉えた上で、その「格差」の具体的な内容を明らかにしていきます。

 最終章では、今尚貧困の中にある世界の人々に救いの手を差し伸べるためには、世界的に見て富裕国とされている国の人々ができることを述べているのですが、「そんなことで良いのか」と結構驚きました。
 その方法とは実は富裕国の人々多数の少額の寄付なのですが、その額がどのくらいの額か、また、何故その寄付がなされていないのかの理由も説明されているので興味のある方は一読されても良いかも知れません。

 僕個人の印象としては日本は比較的、貧困問題については子供の頃から教わる話だと思っていました。ですが、確かに具体的な数字に触れて学んだ記憶は無く、世界の平均寿命や主な死因などについても自分で少し調べた知識を断片的にしか持っていませんでした。改めて具体例の持つ意味、そして具体と抽象を往復することの大切さを実感した次第です。

 また、僕は技術が人を助け、そして技術は進歩を促し、進歩は更に多くの人を助けると思っていました。世界の負の部分を無視していた訳ではありませんが、僕の「世界は良くなる筈だ」という思想は、世界を今より良い世界にするために人は進歩している筈で、同時に、人は世界を今より良くするために進歩すべきだという信念を持っていたからです。
 でも、格差は進歩という一つの開発が生み出すものであり、猪突妄信的に進歩を求めればその代償を他の人が受けることになるというのは盲点でした。

 技術や開発・進歩の恩恵がもたらす善悪両面を考え、根本的な問題を見落とさないようにしなければならないという点は痛く反省し、同時に新しく大きな知見を得ることができた読書体験だと思います。
 
 尚、富裕国等、経済面の話は飽くまで本書執筆時点でのものであり、現在の物価高騰や戦争という問題が世界に与えている影響はまた別の観点から考察が必要でしょう。ただ、いずれにせよ本書は示唆に富む内容となっていますので、おすすめです。

 では、またー。

 
 

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