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柿姫様(連載中)

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逢魔時にだけ現れる不思議な少女〝柿姫様〟と芙美子が過ごした、短い季節。
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柿姫様 4

 柿姫様と会うようになってから、一度、友達に遊びに誘われたことがあった。
「今日の放課後、うちに来ない?」
 そう声をかけてきたのは、二つに分けた長い髪を、色ゴムで丁寧な編み込みに結った女の子だった。
「朋ちゃんと遊ぶ約束をしているんだけど、よかったら芙美子ちゃんもどうかなって」
 女の子は名前をりか子ちゃんといって、芙美子がクラスで一番仲のいい子だった。これまでにも何度か誘ってもらって、放課後遊

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柿姫様 3

 その晩、少女の言葉がぐるぐると頭の中を巡り、芙美子はなかなか寝つくことができなかった。
 あれから時が経てば経つほど、あんなにも親しみを覚えていたはずの少女に、芙美子は疑念を募らせた。蘭々と輝く少女の眸が、今も背中に張りついて、物陰からじっと芙美子を見張っているような気がした。一度そうして疑いはじめてしまうと、不信は次から次へとむくむくと膨れ上がって、芙美子の胸に暗雲のように立ち込めるのだった。

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柿姫様 2

 それからも芙美子が泣いていると、少女はしばしば現れた。
 芙美子は内気な子供で、友達がいないわけではなかったが、放課後遊びに誘うとなるとなけなしの勇気を奮い起こさなければならぬ性分で、学校が終わると大概は寄り道もせず、一人でとぼとぼ家に帰った。
 そんなふうに過ごしていた芙美子にとって、前触れもなしに現れた少女は、神様がほんのちょっぴりお情けで芙美子のもとに遣わしめた、いわば天女様のような存在だ

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柿姫様 1

 物心ついた頃には父は既におらず、幼い芙美子を育てるために、母は日中勤めに出ていた。暮らしは裕福とは言えず、母と住まう木造の一軒家も今にして思えば小体なものであったが、それでも小さな子供が一人でいるには持て余した。四畳半の居間に据え置かれた仏壇など、罰当たりな話ではあるがどうにも薄気味悪く、何をしていても、その辺りから誰かに見つめられているような気がするのだった。居間の座卓は芙美子の勉強机を兼ねて

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