饗庭 璃奈子

少年少女、人外、背徳の愛を愛でる。完結した作品はサイトにまとめます。 http://b…

饗庭 璃奈子

少年少女、人外、背徳の愛を愛でる。完結した作品はサイトにまとめます。 http://bonbonkotori.com/

マガジン

  • ヴァルプルギスの魔法使いたち(連載中)

    魔法使いなんかが出てくるファンタジー。童話風の、とても暗いお話です。

  • リデル・ボンボン・オ・ショコラの生涯(連載中)

    メルヘンでハードボイルドな逃亡もの。バッドエンドを召しあがれ。

  • ことのは

    ふと思いついた、本当に短い短文やフレーズを集めています。

  • 柿姫様(連載中)

    逢魔時にだけ現れる不思議な少女〝柿姫様〟と芙美子が過ごした、短い季節。

  • アルマイトの海で眠る(連載中)

    鍋の恋人と過ごす女、葉子。彼らだけの知る、滑稽でかなしく、美しいルール。

最近の記事

アルマイトの海で眠る 5

 土日を跨いで週明け、朝も早くから来客を知らせるチャイムが響き渡るのに跳ね起きる。こわごわドアスコープを覗いて、私は驚きのあまり、胸に抱え込んだアルマイト鍋を取り落としそうになった。なんとそこには、見慣れたスーツ姿の上司と先輩が、やけに神妙な面持ちで、佇んでいたのだ。  あのあとも、会社から何度も入る連絡に、結局一度も私が応じることはなかった。それでとうとう、私の身の上に何か災厄が降りかかったんじゃないかと、心配して様子を見にきてくれたんだろう。幸か不幸か、会社から私の住むア

    • リデル・ボンボン・オ・ショコラの生涯 3

      「おじきはどうしているだろう。もう、僕たちがいなくなったことに気がついているはずだけど」  夜も更けてベッドに潜り込むと、ステンドグラスのランプのみを灯した薄明かりの下、リデルは心許なさそうに呟いた。その声音がいかにも寒々しく響いた気がして、ノワゼはまじまじと、傍らに寄り添うリデルを見つめた。  リデルは叔父との生活に窮屈していた。それでも、血の繋がったたった一人の肉親が、やはり気がかりではあるのだろう。 「捜索願いでも出されていれば、そこそこ大きく報道はされるだろうな。まあ

      • リデル・ボンボン・オ・ショコラの生涯 2

         ノワゼの車は、黒の塗装も剥落しかかった時代遅れのロートルで、大層年期は入っているが、速度の面では決して昨今の車に劣らない。寧ろ直情径行型の突撃銃(ライフル)である。一度アクセルを踏み込んだら最後、留まることを知らない競技車ばりの加速は、老朽化でいかれてしまったエンジン系統によるものである。ノワゼはその振り切れたスピードが癖になるのだと言って、しょっちゅう音を上げるオンボロ加減に毒突きながらも、新型の車に乗り換えるだとかそういう発想には至らないらしい。  彼はまた、本物の銃器

        • リデル・ボンボン・オ・ショコラの生涯 1

           フランネルのシャツに袖を通し、ウールのソックス、ヘリンボーンの半ズボンもすっかり身に着けてしまうと、美しい子供はバレリーナのように、唐草模様(アラベスク)の絨毯の上でくるりと一回転して見せた。 「うん、やはりこちらの方が動きやすい。実に快適だよ、ノワゼ」  軽やかな足取りで元の位置に着くと、子供は傅く男に向かって、完璧な微笑を浮かべた。耳の辺りでまっすぐに切り揃えられた金髪が、透き通った頬の上を淀みなく流れ、幼い仕草とは不釣り合いに大人びた表情は、子供に妖艶な色香を添えた。

        アルマイトの海で眠る 5

        マガジン

        • リデル・ボンボン・オ・ショコラの生涯(連載中)
          3本
        • ヴァルプルギスの魔法使いたち(連載中)
          5本
        • アルマイトの海で眠る(連載中)
          5本
        • 柿姫様(連載中)
          4本
        • ことのは
          20本
        • 140字SS名刺
          0本

        記事

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 5

           村の関所では赤髭の衛兵が、回転椅子にもたれ、行儀悪く窓辺に足を投げ出して、退屈そうに口髭をいじりまわしておりました。すっかり気を抜いていたものですから、目の前を横ぎって行く小さな女の子の姿に、慌てて外に飛び出さなくてはなりませんでした。 「おっと!どこに行く気だ?サラ」  衛兵に襟首を捕まえられ、馴れ馴れしく名前を呼ばれて、サラは足をばたつかせました。 「放して!私は伯父さんのところに行くのよ!」 「ああ、あの酷く醜い、ジークなんとかって男か。覚えてるぜ、なんたって、あんな

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 5

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 4

           一方、霧の村では、今朝方一人の人間の男が村の関所を訪れ、赤髭の衛兵にこっ酷く追い返されたという話題で持ちきりでした。衛兵は、力の強さや体格のよさだけではなく、おしゃべりで軟派な男であることでも有名でしたから、閉ざされた村においては、噂はあっという間に広まりました。赤髭の衛兵は、自分が客人たちに仕向けたさまざまな非道な仕打ちを、まるでそれが武勇伝であるかのように自慢げに、声も高らかに語るのです。そして村人たちも、そんな彼の行いを褒め称え、英雄のように祭り上げるのでした。みんな

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 4

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 3

           さて、霧の村が近づいて参りますと、停車する駅舎もいよいよひなびたものとなり、人影もとんと絶えて、辺りはひっそりと静まり返っておりました。この地方に住んでいる者で霧の村のことを知らぬものはおりませんでしたから、みんな魔女や魔法使いや、瘴気の霧を恐ろしがって、霧の村の近くへは近づこうともしないのです。おかげで霧の村の周囲一帯は廃れて、霧の村に一番近い駅から、伯父さんはこれから、山道を何時間もかけて歩いて行かなければなりませんでした。いつも体を縮こめて歩いていたせむしの伯父さんに

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 3

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 2

           伯父さんはもう長いこと、鉄を扱う工場で、戦争に使われる武器の部品を作る仕事をしておりました。真っ赤に燃える鉄をまだ熱いうちに打ち、削り出さねばなりませんから、火傷や怪我をすることなどしょっちゅうでしたし、仕事のあいだじゅう汗だくで、ことに顔の左半分の爛れた肌を伝って汗がひたひたと落ちる様子は、伯父さんの醜い容姿をなおのこと醜悪なものに見せるのでした。おかげで同僚たちにはからかわれ、工場長にはうとまれて、顔を合わせればどやされてばかりでしたから、家に帰りつくころには伯父さんは

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 2

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 1

           今日は年に一度の、魔法使いのお祭りです。ドイツからも、フィンランドからも、エストニアからも、世界中から魔法を使える者たちが集まって、ブロッケンの山で一晩中歌い、踊り、飲み明かすのです。  ところがその年は、いつもと少しわけが違っていました。力の強い、若い魔法使いが、ブロッケンの山に集う魔法使いたちの、破滅の予知夢を見たと言うのです。  力の強い、若い魔法使いは、名をシュテファン・リヒトホーフェンといいました。彼は魔法の使える者たちのあいだではすっかり有名な魔法使いで、どんな

          ヴァルプルギスの魔法使いたち 1

          ひとつかみの蜃気楼

          ひとつかみの蜃気楼

          醜悪な愛の食卓

          醜悪な愛の食卓

          二枚の皿のバッドエンド

          二枚の皿のバッドエンド

          おいものパイと幾何学の路地裏

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          腕の中の神様

          腕の中の神様

          左耳の後ろの秘密

          左耳の後ろの秘密