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饗庭 璃奈子
2015年8月20日 03:16
「おじきはどうしているだろう。もう、僕たちがいなくなったことに気がついているはずだけど」 夜も更けてベッドに潜り込むと、ステンドグラスのランプのみを灯した薄明かりの下、リデルは心許なさそうに呟いた。その声音がいかにも寒々しく響いた気がして、ノワゼはまじまじと、傍らに寄り添うリデルを見つめた。 リデルは叔父との生活に窮屈していた。それでも、血の繋がったたった一人の肉親が、やはり気がかりではあるの
2015年8月20日 03:15
ノワゼの車は、黒の塗装も剥落しかかった時代遅れのロートルで、大層年期は入っているが、速度の面では決して昨今の車に劣らない。寧ろ直情径行型の突撃銃(ライフル)である。一度アクセルを踏み込んだら最後、留まることを知らない競技車ばりの加速は、老朽化でいかれてしまったエンジン系統によるものである。ノワゼはその振り切れたスピードが癖になるのだと言って、しょっちゅう音を上げるオンボロ加減に毒突きながらも、新
2015年8月20日 03:09
フランネルのシャツに袖を通し、ウールのソックス、ヘリンボーンの半ズボンもすっかり身に着けてしまうと、美しい子供はバレリーナのように、唐草模様(アラベスク)の絨毯の上でくるりと一回転して見せた。「うん、やはりこちらの方が動きやすい。実に快適だよ、ノワゼ」 軽やかな足取りで元の位置に着くと、子供は傅く男に向かって、完璧な微笑を浮かべた。耳の辺りでまっすぐに切り揃えられた金髪が、透き通った頬の上を