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編集者K氏の想い出④/中国の作文テキスト

K氏は、中国語を勉強している人だった。その関係もあり、中国の大学で日本語、日本文学を教えるということになる。

最初は短期だったこともあり、2回ほど、そのテキスト作りを手伝わせてもらったことがあった。
送られてきた中国の受講生の作文について、細部までの「書き直し例」を作ったものを、テキストにする作業である。

作文は約1,800文字くらい。主に日本について書かれていた。タイトルを見ると、「日本人と謝りの言葉」「日本の女性言葉」「敬語」「人の呼び方のいろいろ」「日本人の社会規範」など、日本人にとっても難しいことが書かれていた。
こうした作文について、まさに一字一句、丁寧に注釈をつけた上で「書き直し例」が書かれているというもの。1回目のテキストは約150頁、1回目は約80頁。膨大な作業量となるテキストだった。

当時のパソコンの状況というものが、NEC9801がメインで、中国語の活字というものが無かった時代である。僕ともうひとりの協力者がいたのだが、パソコンで日本語になり中国語の文字をドットでつくり印刷し、それを僕が切り貼りするという作業を行い、コピー印刷し、製本するということをやっていた。

中国でその講座を終えてからの話が凄いものだった。
K氏は言った。
「あいつらは(注:親しい意味でこうした表現を使っていたと理解してください)、凄いんだよ。作ったテキストを前日に渡したのだけど、全員が一晩で全部丸暗記するまで読み込んでいた。」

K氏は、僕にお礼ということで「かめ出し紹興酒」を買ってきてくれた。飛行機の中では、足元に置いて運んできた、とのこと。ありがたい思い出であった。

その数年後に、K氏は長期で中国の大学で講座を持つことになる。

K氏の講座という存在が、支持され、多くの人が学んだということに、嬉しい気持ちがある。
K氏の自宅の自宅にあった膨大な蔵書は、生前に中国のとある大学の図書館に寄贈され、K氏の名前のついた文庫となっている。

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