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読んだ本の感想

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卍丸的な読書感想文集
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記事一覧

ページと瓦礫のあいだで

ポール・オースターが死んだ。 そのようなニュースを見たとき、僕は偶然にも『ムーン・パレス…

12

『非-知』と現代社会の危機

はじめにジョルジョ・バタイユが提唱する「非-知」の概念は、合理性や理性主義に対するラディ…

卍丸の本棚
1か月前
12

運命の彼方へ ──ミラン・クンデラとカール・ヤスパースに寄せて

はじめに ヤスパース──懐かしくも親しみ深い名前が飛び込んできた。須藤輝彦さんの『たま…

卍丸の本棚
1か月前
13

震災から13年──読書、知ること、考えること

『日米地位協定入門』前泊博盛他著、『戦後史の正体』孫崎享著(いずれも創元社)を再読した。 …

卍丸の本棚
2か月前
11

ふたつのエクリチュールの差異──紙に書かれたものと虚無に書かれたものの暴力性

 僕の読書スタイルは書写になりつつある。詩人、思想家や文豪の美しく洞察力にすぐれた文章、…

卍丸の本棚
6か月前
10

絶対的空間の欠如と回復──非暴力の企て

妻と週末に庭の柿をいくつか収穫した。キッチンに無造作に置かれた柿と同化するかのような西日…

卍丸の本棚
6か月前
9

『恋する虜』 ジャン・ジュネ

 デモクラシーとは、他民族排斥に立脚し、自民族中心的な平等を謳うものかもしれない。 宗教や政治的イデオロギーによらず、結局、人間という欲深い動物は、現代文明において〈理性〉を完成させつつあり、バタイユ的〈至高の感性〉への欲望など、消耗的資本主義と孤絶しても生きていけてしまう社会のなかでは、塵のような概念ですらないものになりかけている。ほんとうの友愛なんて幻想でしかないのだろうか。世界のいたるところで、民族弾圧/紛争/戦争が起きている。ヨーロッパ周縁国ならば、大々的に注目され

鏡、レダと白鳥、ローマ悲歌

 朝は少し曇っており、太陽が顔を隠すと少し肌寒い。紺色の作業着も長袖のものを紺色のシャツ…

卍丸の本棚
7か月前
15

『土神と狐』 宮沢賢治

はじめに 僕の拙い文章を、いつも読んでくださるSさんに、『土神と狐』宮沢賢治 著 をおし…

卍丸の本棚
7か月前
12

憲法について

非常に刺激的で暑い日だった。 憲法と聞いて右左、じぶんには関係ない、と感じるひともいるか…

卍丸の本棚
8か月前
18

至高の感性──『ヒロシマの人々の物語』

もうすぐ、78回目の終戦記念日がやってくる。 長崎──原爆投下地として最後の土地であること…

卍丸の本棚
9か月前
14

『目眩まし』ゼーバルト・コレクションから

雨が降ったり止んだりする。 この数年は、春が足早に通り抜けていったかと思うとすぐさま蒸し…

卍丸の本棚
10か月前
19

カフカとカミュ、そしてゼーバルト

『カフカ短編集』『審判』『城』を久しぶりに再読している。 カミュが『フランツ・カフカの作…

卍丸の本棚
11か月前
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『移民たち 四つの長い物語』ゼーバルト・コレクションから

はじめにアントニオ・タブッキが大好きな僕。あるタブッキ好きな方から「きっと気に入りますよ」とお薦めされて昨年ドイツ人作家ゼーバルトの遺作『アウステルリッツ』を読んだ。大変、感銘を受けたと同時に、ゼーバルトさんの全作品を読みたくなり、今年2023年5月にゼーバルト・コレクションを全巻揃えた。「ひとりゼーバルト祭」と称して、彼の作品群を追っていくことにした。 ゼーバルトの散文作品 『目眩まし』(90年) 『移民たち 四つの長い物語』(92年) ☜本投稿 『土星の環』(95年)