見出し画像

クマ色への愛をこじらせたで候。

前に書いたコーヒーゼリーへの愛をぶつけたコラムは、なんだかいろんな方に読んでもらえて至福の極みでやんす。ありがとうございます。

それに続く、都内の厳選コーヒーゼリーを紹介したこちら↓

ここでいちばん最後に紹介した「蕪木」さんのコーヒーゼリーが、今年も解禁になりました。
ということで、さっそく食しに行ってきた報告を。
よく考えれば(記憶がただしければ)毎年6月に解禁されているのでコロナ禍は関係なく例年どおりということになりましょう。


はい、どーーーーん!

画像1


メニューを見て、コーヒーゼリーをたのんで、これが目の前にあらわれたらワクワクしませんか? たべてみたくなりませんか?

氷のようにぷかぷか浮いている、うっすら乳白色がラムのゼリーで、グラスのしたの方に黒糖のゼリー。それをシャキーンと冷たいアイスコーヒーがそっと抱きとめている。

基本的にゼリーはゼラチンで固めるのが一般的なのだけど、どうやら寒天を使用しているらしい。
口のなかでほどけるような食感や喉ごしは、とてもやわらかい水ようかんといえば想像しやすいかもしれない。

見た目は洋風の装いなのに、食べると和菓子のような落ちつきと趣がある。
もうなにもいいますまい。キング・オブ・コーヒーゼリー(当社比)。


画像2

ミルクを入れると黒糖ゼリーのコクが前面にでてきて、ここからが「本番」というような気がしないでもないのだけど、なにせ度胸がないので最初からミルクをかけたことはない。
多分、このアイスコーヒーがミルクとの相性抜群で相乗効果が巻き起こっているんだろうな。トルネード的ななにかがな。


ここからはただの戯言、というかただのストーカー日記。

ちょうど座った席からは、どっしりとしたおおきなカウンターが見えて、その向こう側には店主の蕪木さんがいた。
淡々とネルドリップで抽出している。
姿勢よく立ち、頭の先から芯が貫いているように微動だにせず、うつくしい所作でコーヒーを生み落とす。

いくつものコーヒー店をめぐっていると、たたずまいに“禅”を感じるご主人とたびたび出会うことがある。なかでも蕪木さんはすこし独特だ。
とくべつやわらかい空気をまとっているのに、それでいて一歩も引かない武士のような気合が滲んでいるのである。

ひとつひとつの動作に型でもあるかのように洗練した身のこなしをするので、じゃまになってもしょうがないし、あまり気軽に話しかけたりはしない。


しばらくして、そのカウンターに「おばあちゃま」と呼びたくなってしまうような白髪で品のあるご婦人と、おそらくその方の娘さんであろう40代ぐらいの、こちらも品のあるご婦人がお座りになった。

メニューを見ながら「コーヒーゼリーだって」とちいさな声ではなしをしているのが聞こえてくる。

(おばあちゃま、たべてくれないかしら……)とこっそり様子ををうかがっていたら、コーヒーに合わせるチョコレートはなにがよいかスタッフの方に声をかけている。

(そうそう、この店はチョコレートも絶品なんですよね…)と思っていたら娘さんのほうがコーヒーゼリーを注文した。

俄然、わくわくする展開……!!!!! 

この店のコーヒーゼリーがどうやってつくられるのか、 可能であればぜひお店にうかがって目で味わってほしいので詳細は省きます。
なんど見てもため息がでるほどドラマチックなゼリー劇場を…。


おばあちゃまが注文したコーヒーよりさきに、蕪木さんの手によって娘さんに作り立てのコーヒーゼリーがサーブされた。

カウンター席に座るうしろ姿を見ながら憶測するしかないのだけれど、ふたりともとてもおどろいている様子。
おばあちゃまはサーブされた瞬間から娘さんのほうにからだを向けて、食べるすがたをじっと眺めている。

娘さんがスプーンを口に運ぶ。息を吐く。

「おいしーーーーーーーーーーーぃ!!」


からだがふるふると小刻みに震えて語尾を伸ばしてしまうその感じ、過去のじぶんをリピートしてるみたいですごくわかる。途端に胸がいっぱいになる。

そしてひと口ごとにおばあちゃまになにかを語りかけているのがわかる。
「たべてみる?」とでもいうようにゼリーのうつわを差し出す。

ちょうどそのタイミングでおばあちゃまの前に丁寧に淹れたコーヒーがサーブされ、すかさず娘さんが蕪木さんにゼリーの感想をつたえはじめた。


その姿を見てモヤる。なぜかはわかっている。

はじめてこのコーヒーゼリーを食べたときに、蕪木さんに感想を伝えられなかった。あんなに興奮して、食べながら泣き散らかしそうなほど感動したのにだ。
作業のじゃまをしたくなかったのはほんとう。
そしてことばにすると、その表現によって一気に味の価値が下がってしまう気もした。なんてアホな自惚れなんだろう。

拙い感想ごときでおいしさに変化など起きるわけがないのにな。


2020年夏のあいだに、感想を伝えられるだろうか。
……いや、でも足を運ぶことだけでよい気もする。
じぶんにとってはそういうポジションの喫茶店だから。

そんなことを考えながら、しとしと降る雨のなかを新御徒町駅まで歩いた。
ゼリーの余韻はまだ消えない。

画像3


この記事が参加している募集

雨の日をたのしく

もれなくやっさんのあんぱん代となるでしょう。あとだいすきなオロナミンCも買ってあげたいと思います。