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ぼく、“日本ジョーグー”なんで

ホストファミリー同士が留学生を交えてワイワイする。そんな集いにときおり参加する。

それはポットラックだったり、近所の公園だったり、和太鼓のライブだったり。お茶を飲みながらのおしゃべり会のときもある。

国際交流なんてかしこまったモノではなく、みんなで集まってただワイワイするだけの賑やかな時間だ。

先日もそんな集いがあり、4人の留学生を囲んでみんなで話をしていた。日本語専攻のブルガリアの男子留学生が、

「日本の方言がおもしろいので、方言の勉強をはじめました。これを聞いて意味が分かりますか?」

と動画を再生する。どれどれ?と彼のスマホにみんなで顔を寄せた。


わたしが聞き取れたのは、「むかしむかしあるところ」と、「なーかから」のみ。それ以外の言葉は聞きなじみがなく、単語の切れ目すら判別不能。

“分からないことだらけ”ということだけが分かり、素っ頓狂な表情でまわりを見回すと、ほかの日本人も同じような表情。全員の頭の上にクエスチョンマークが3つずつ浮かんでいた。

あまりにもその表情が面白かったのだろう。4人の留学生たちが大笑いし、それにつられてわたしたちもワハハハハと笑った。

どうやらこのなかで沖縄語について1番詳しいのは、ブルガリアの男子留学生らしい。沖縄語のちょっとした知識を彼がシェアしてくれた。

標準語の母音は【あ・い・う・え・お】だが、沖縄語の母音は【あ・い・う・い・う】である。
語尾に“○○さ~”が付くことが多い。
質問文の語尾には“ばー?”をつける。
沖縄県内でも、北部・中部・南部ではフレーズがちがう。
ユネスコから消滅の危機にある言語として掲載されている言葉である。

わたしたち日本人は「へぇ、知らなかったわぁ。沖縄の言葉まで勉強してすごいね」と口々に言う。

「ぼく、“日本ジョーグー”なんで」

茶目っ気たっぷりの笑顔で彼がウィンクする。

じょ、ジョーグー??

「あ、“ジョーグー”は沖縄の言葉で、ほにゃららが好きという意味です」とブルガリアの彼が付け加える。

“ほにゃらら”、使いこなしてるやん。

ベトナムの留学生が「それならぼくは“たこ焼きジョーグー”」と言って、よく行くたこ焼き屋さんの話をする。

ドイツの留学生は「わたしは“ワンピースジョーグー”かな」と、ナップサックにつけているチョッパーのキーホルダーを見せてくれた。

そのあとはみんなで、自分の“ジョーグー”を語り合う会になった。

“日本人がブルガリア人から沖縄の言葉について教えてもらう”なんて、日本人としてお恥ずかしいかぎりなのだが、留学生と一緒にいると、コレは案外あるあるシチュエーション。

日本に恋い焦がれ、日本語の勉強にやってくる留学生。彼らの“日本”に対する思いはヒジョーに熱い。わたしなんかがタジタジになるくらい日本に関する知識をたんまりともっている。

母国にいるときから日本の音楽・映画・マンガ・ゲーム・小説・歴史に親しんでいる“日本ジョーグー”の彼らは、日本のことをよく知っている。

以前我が家にステイしたベルギーの留学生は、1番好きな映画は『おくりびと』と言っていたし。あの映画の世界観に魅せられるなんて、なかなかの審美眼の持ち主。

サイエンス系、ロボット工学系学部で学ぶ留学生も多い。彼らは日本の言葉にはそれほど興味をもたないが、日本の社会システムには興味津々。ちょっとしたコトも次々に質問してくる。

その質問は、文化、習慣、政治、教育、宗教、環境問題、コミュニケーションと多岐にわたる。その問いにあたふたしながらも、家族みんなで留学生との交流を楽しんでいる。

留学生活を終えるころには、すっかり“日本ジョーグー”になる彼ら。旦那さんもわたしも、少しずつ“日本ジョーグー”になっていく彼らを見るのが好きだ。

国際交流なんてかしこまったモノではない。同じ時間と経験を留学生と共有する。それでいい。同じなにかを共有することで、人と人の心の距離はグッと縮まるのだから。

大切な時間を使って最後まで読んでくれてありがとうございます。あなたの心に、ほんの少しでもなにかを残せたのであればいいな。 スキ、コメント、サポート、どれもとても励みになります。