見出し画像

環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定へのグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の加入に関する議定書の締結について承認を求めるの件

背景

2018年12月30日にメキシコ・日本・シンガポール・ニュージーランド・カナダ・オーストラリアの六カ国で発行しその後2023年7月までに他のすべての原署名国(ベトナム・ペルー・マレーシア・チリ・ブルネイ)についても発行されたCPTPPですが、今度はグレートブリテン及びいたアイルランド連合王国(以下イギリス)もこのCPTPPの枠組みに入るべく申請してきました。この背景としてはまず2020年1月31日にイギリスはEUを離脱し2021年1月31日に完全離脱を果たしたがイギリス国内ではいまだに反対意見も根強く特に EUを加盟していたことによる経済的利益を離脱によって失ってしまったことはイギリスにとって大きな損出だったのではないかとの声は今でも大きい。そこでイギリスは独自の外交政策を追求するとしてグローバル・ブリテンという相互外交政策を策定し、ヨーロッパを超えて他地域への関与を強化するとし、特にインド太平洋においては互恵的な貿易、安全保障と価値の共有を通じて欧州のパートナーとして最も広く統合的なプレゼンスの確保を目指している。通商政策に関しては即応性とスピードを重視すると打ち出し2022年末までにイギリスの貿易の80%を占める国・地域と貿易協定を結ぶことを公約として掲げている。しかしカナダ、メキシコとの間ではまだ貿易協定を交渉中であり、チリ、ペルー、ベトナムとはEUの貿易協定を引き継ぐ暫定的な協定を結んでいるだけである。その上にブルネイとマレーシアとは協定を結ぶことができていない。そうした状況の中で CPTPPに加盟することによって環太平洋の主要な国々と一括で高水準の貿易協定を結べることはイギリスにとって大きなメリットであると考えていると思われる。

また、そもそも大前提として自由貿易を進めることの是非について、自由貿易によって安い海外の農作物などの製品が国内で出回ることによって日本のそれと同じものを生産しているメーカーやそのメーカーが属する業界が縮小してしまい経済的にデメリットが大きいという意見があるが、これについては自由化によって生産者余剰はある程度減ってしまうことにより自由化を原因として国内生産者は損害を受けるが、その一方消費者は生産者が被る損害をはるかに上回る国際水準よりも高い製品の生産コストを国民が負担する必要がなくなることの利益を得ることができるので自由化による利益は損益を必ず上回るため損得を差し引きすると日本全体では必ず得をするということはミクロ経済学において証明されている。

今回の法案ではそうしたイギリスの状況を踏まえ、イギリスをCPTPPの加盟国として受け入れることによって経済的メリットだけでなく戦略面にも元々CPTPPの目的のうちの一つである国有企業、デジタル、労働等の分野でルールを規範を形成しCPTPPを中国に対抗するための強力なツールとするという目的を達成することに貢献するというのが本法案の意図である。

法案による経済効果及び評価

第212回国会(令和5年臨時会)において提出される「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定へのグレートブリテン及び北アイルランド連合王国の加入に関する議定書の締結について承認を求めるの件」によってまずイギリス政府のCPTPP加入の経済効果の試算によるとイギリスのGDPを0.08%押し上げる効果があると示されおり、産業別には自動車と飲料・タバコが最も拡大するとされている。この試算では日本への経済効果はほぼないとされているがこの試算では日本を含めすでに2国間の貿易協定を結んでいる国または未発行のオーストラリアとニュージーランドとの貿易協定の関税及び非関税の削減効果を除外しているため実質的な削減効果は初めて貿易協定が締結されるマレーシアとCPTPPによる上積みの効果のみを測定しているため実際の効果より低く見積もられているが、イギリスにとってはCTPP11カ国が全体の貿易の8%を占める重要な貿易パートナーであることを見落としてはならず既存の貿易協定を締結している企業にとってもCPTPPが発行すれば既存の貿易協定かCPTPPかのどちらか使いやすい方を選ぶことができるようになるのである。そしてこの試算の中でもCPTPPの拡大のシナリオとしてタイと韓国が参加した場合のCPTPP13の試算も行なっておりCPTPP11の三倍となる0.25%のGDPの押し上げ効果があると示されておりさらに米国が再びCPTPPに加わった場合のCPTPP14のシナリオでは0.92%のGDPの押し上げの効果があるとされる。よって将来的にイギリスがまだ貿易協定を結んでいないタイ、インドネシア、フィリピンなどの東南アジア諸国や現在はまだ可能性が非常に少ないものの、米国がCPTPPに参加した場合に大きな経済効果が期待できる。そして貿易自由化以外にも経済モデルの試算で数値化があまりされていないメリットも存在している。具体的にはCPTPPの電子商取引では自由なデータ流通に関する先進的な規律が盛り込まれておりIT企業や半導体・ソフトウェア企業のビジネス環境の向上に貢献することができ、また政府調達ではWTOの政府調達協定の内外無差別や透明性の確保の原則を含む規律が盛り込まれているため政府調達協定に参加していないベトナム、ブルネイ、チリ、メキシコ、ペルー、マレーシアとのCPTPPを通じた政府調達へのアクセス貢献にも貢献できるのである。以上よりイギリスのCPTPPへの加入は現在の数値上の経済効果もありそれも今後増大していきその上、試算の数値上に現れにくいようなメリットもたくさんあるので非常に良い案件であると考えられる。


ディスカッション

1.米国がCPTPPに加入について

米国が仮にCPTPPに加入した場合、日本やその他加盟国が受け取る経済的効果や中国に対抗するための自由貿易体制構築のためのルールメイキングのという観点から、日本にとっての利益が非常に高いと考えられるが、日本は米国をCPTPPに加盟させたいという意思があるのか、また意思があった場合に交渉などを行なっているのかどうか。また米国の側にCPTPPに加盟する意思が生じた場合その申請を受け入れる準備があるのかどうかやまたその際にどういった障壁が考えられるかどうかということを外務省、総理大臣に問いたい。

2.イギリスの今後のアジア太平洋地域への関与について

イギリスは今、CPTPPなどの経済面を始めとして最近イギリス軍と自衛隊の合同軍事演習を行うなど軍事面の協力関係が進んでいるが日本政府としてはイギリスに今後アジア太平洋地域へどれほどの関与を望んでいるのかを問いたい。具体的にはイギリスとかつての日英同盟のような軍事同盟まで結ぶほどイギリスにアジアにコミットすることを望んでいるのか、それともあくまで基本的には経済的なコミットメントにとどめ、物資の補給や平時の軍事交流に止めることを望んでいるのかを防衛省、外部省、総理大臣に問いたい。

3.TPPの加盟国数について

CPTPPには現在11カ国の加盟国があるが自由貿易を推進していきルールメイキングをしていくというの観点からはこの加盟国数がアジア太平洋地域の国々を中心にもっと増やしていくことが望ましいと考えられるが現在日本政府はインドネシアやフィリピン、カンボジアなどの国にCPTPPに加盟するように働きかけをする意思があるのか、もしあるのならそれに向けた交渉を行なっているのか、そして仮に向こうの国から加盟の申請をしてきた場合にそれを受け入れる意思があるのか、またそれを達成するための障壁はどういったものが考えられるかを外務省と総理大臣に問いたい。

4.中国のCPTPP加盟について

現在中国はCPTPP加盟への動きを見せているがこれは中国にとって外圧を利用することによって国内の産業及び企業を正常化するためのものである。自由貿易の観点から言えば仮に中国が現状難しいとは言えCPTPPの加盟条件を満たすことに成功した場合その加盟を認めるべきであるが、安全保障の観点から言えばそもそもCPTPPは中国に対抗するために作られたものであるので当然認めるべきではないということになる。日本政府は中国がCPTPPの加盟条件を満たした場合加盟を認めるつもりでいるのかそれとも仮に加盟条件を満たしたとしても加盟は認めないのかやそもそもその可能性についてちゃんと考えることができているのかを総理大臣に問いたい。

5.国内の減税による自由化について

国外の国々に対して関税などの規制を廃止して自由化を進めていき他国が自由化していくことを推し進めていくのに現在、国内は相次ぐ増税や規制強化によって不自由かが推し進められている。それなら国内でも消費税や所得税を大幅に減税して国内も自由化すべきではないかということを総理大臣に問いたい。

参考文献

EU離脱 英世論過半が「誤り」ー日本経済新聞

神取道宏. ミクロ経済学の力. 日本評論社, 2014, 180p

国問研戦略コメント(2023-04)イギリスのCPTPP加入の意義ー日本国際問題研究所



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?