ゆうまくん

私は女の子が好き。
多分、そうなんだと思う。確証は全くないけれど。

今まで男の人と何人か付き合ってきた。どれも楽しかったし、充実していた。だけど、心の底では何か違和感が常に引っかかっていた。
楽しいけれど、何か物足りない。それが一体何なのかわからず、一人で抱えきれずネットで「恋愛」の文字を調べてみたこともある。
一緒にいたいと思う。これは当てはまる。
一緒にいて楽しい。これも当てはまる。
一緒にいてドキドキする。なんか違う。
相手にもっと知ってほしい。なんか違う。

思えば、中学校時代、バトミントン部の先輩が大好きだった。
先輩が県大会に出たときは誰よりも嬉しく思った自信があるし、バレンタインデーはチョコを手作りして持って行った。渡したときに大喜びしてくれた笑顔は、今も私の脳裏に鮮明に焼き付いている。

やっぱり確証はないけれど、先輩が初恋の人なんだと思う。
一緒にいたいと思った。一緒にいて楽しいと思った。一緒にいてドキドキした。先輩に私のことをもっと知ってほしかった。

「しおりちゃん、しおりちゃん?ねぇ、聞いてる?」
ゆうまくんがこちらを覗き込むようにして聞いてくる。

「あ、ごめん、うん、聞いてるよ!」

「絶対聞いてなかった。まあ、いいや。」

ゆうまくんは呆れたように笑う。

女の子が好きな私だけれど、私は今男の子とデートをしている。
ゆうまくんは大学の同級生だ、同じ文学部の私が外国語学科で、ゆうまくんが地理学科。第二外国語の中国語のクラスが一緒で知り合った。話しているとお互い旅行に行くのが好きなのがわかって、二人で出かけるようになった。今日は京都に来て、いま太秦のカフェにいる。

「そういえば、さっき乗ってきた路面電車、嵐電って言うんだっけ?あれ、紫色で、サツマイモみたいでかわいいね、おいしそう。」
そう私が言うと、ゆうまくんは大笑いしていた。

「おいしそうって、面白いね。普通渋いとか、和風とか出てきそうだけど、サツマイモなんだね、なんか、しおりちゃんらしい。」

「私、なんでもご飯のことに考えちゃうからね。まあ、幸せもんだよ」
そういって二人で笑いあう。

「あ、嵐電って、路面電車だけど、車両の大きさは普通の路面電車より大きいし、道路じゃないところを走っているほうが普通なんだよ、なんだか不思議だよね。」


ゆうまくんが豊富な知識をもとに知恵を教えてくれる。
「へー、そうなんだ。路面電車以上電車未満、ということか。なんだか私たちみたいだね。」
私は微笑む。

「そ、そうだね」
ゆうまくんは少し表情を曇らせて頷く。
その時、やっぱりゆうまくんは私のことが好きなんじゃないかという考えが浮かんでしまう。

友達以上、恋人未満。
これは二人の中で公式にしている関係である。
二人で江ノ島に行ったとき、新江ノ島水族館を出たところでゆうまくんから告げられた。三回目のデートだったし、王道デートスポット!!という感じの所だったからゆうまくんに告白されるんじゃないかとは思っていて、ごめん、気持ちには寄り添えない、また一人人を困らせるんだ、と思っていたから度肝を抜かれた。ゆうまくんがどうして友達以上、恋人未満でいようと言ってくれたのかはわからないけれど、ゆうまくんと遊んでいて楽しい自分の気持ちと合っていて、かといって付き合うのは違うのかな、と考えていた自分にとって適していた。

時々、友達以上、恋人未満であることを確かめるたび、ゆうまくんは少し困った顔をする、どこか迷っているような、進むべき道筋が定まらない人の顔をする。そのたび、私はゆうまくんが自分の気持ちに蓋をしていないか、少し心配になる。

でも、迷っているということは私もゆうまくんも同じ旅人なのかもしれない。だから、どうであれ同志がいることは心強い。

そんなことをさっきの曇った表情から一転、顔を真っ赤にしてパンケーキを貪り倒しているゆうまくんを見て考えていた。

私は可笑しくなって、自然と口元が緩んだ。







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