「公共」に関わる「広告」の多重のターゲティング・ブランディングによる拮抗(3)

「公共の広告」は「公共広告」だけではない

 前回までは広告デザインの仕事やその媒体の種類について眺めてきましたが、今回から、「公共」に関わる「広告」についての話に移ります。
 前回に述べたように、広告には「公共広告」という種類があります。「公共広告」は公共に関わる広告の一部ではありますが、公共に関わる広告の種類はそれだけではありません。ですが、近年の公共広告の炎上を巡っては、公共に関わる広告を慨して「公共広告」としていたり、情報の受け手各々の解釈で公共に関わる広告を「公共広告」としていたり、という状況があるのではないでしょうか。SNS等での「公共広告」の炎上については、こうした前提が、議論以前の問題、つまり「話の噛み合わなさ」を発生させているという気がしてなりません。その気づきは疑義に留めることにして、ここではそうした公共に関わる広告を「公共広告」として「公共広告」と分けて分析してみたいと思います。

「公共の広告」の種類

 公共に関わる広告には種類があります。大別すると次の3種になります。
(1)公共広告
(2)政府や地方自治体、公益性が高い機関が送り手の広告
(3)公共の場に置かれる広告

 (1)の「公共広告」は前回述べた通り、公共の役に立つ広告が該当します。「社会的な啓蒙」という目的を持って、主にそうした啓蒙的なメッセージを伝える広告です。ACジャパン(旧「社団法人公共広告機構」)や非営利団体、第三セクター等が送り手、すなわち、広告主になります。
 (2)の「政府や地方自治体、公益性が高い機関が送り手の広告」は、公益性が高い機関については、例えば、消防署、郵便局、水道局、赤十字等が該当します。
 なおこの(2)は、「公共広告」に含めるか否かについて解釈には幅があります。「公共広告」は「非営利団体の広告」であるとして、政府や地方自治体の広告も含めるとする例もあれば(※1)、それよりも控え目に、「公共性の高いテーマを扱っていれば、政府、業界団体、企業も広告主になり得る。」とする例もあります(※2)。
 (1)(2)には持続性がありますがこのように解釈が分かれ、(2)は(1)とは質的にグラデーションになっているとも言えます。しかしながら(2)は、(2)のいずれの広告にも啓蒙的なメッセージが必ずしもあるとは限らないという点では、やはり「公共広告」と同一視できないと考えます。強いて言うとして、「公共広告」の周縁の広告とするのが限界でしょう。
 (3)の「公共の場に置かれる広告」は、公共の場(※3)、例えば公衆(不特定多数の者)によって利用される公園や施設に置かれる広告、公道の道路脇に置かれる広告、それから、公衆の目に触れる屋外広告です。
 このように、公共に関わる広告には種類があります。互いに質的な差異があると解るかと思います。

「公共」の訳語「public」の意味

 今度は「公共」の訳語について分析してみます。「公共」の訳語は「public」ですが、「public」の意味は、前述の「公共の広告」の種類と同様に幅があります。
 「weblio英和辞典・和英辞典」によれば、「public」は次のような意味があります(※4)。
(1)国民一般の、国民全体の(ための)
(2)公衆用の( ⇔private(私的な))(※5)
(3)公立の( ⇔private(私立の、民間の))(※6)
(4)(政府の仕事をする意味での)公務の、政府による、国家の

 (1)から(4)の意味に合わせた広告の使用シーンを鑑みれば、それぞれの広告の性質には差異があることを想定しなければならないでしょう。例えば、「国民全体の(ための)広告」と「公衆用の広告」を比較すれば、広告のターゲット層については、日本国籍がある日本人か、日本国籍はないが日本にいる不特定多数かという差異が出てきます。また、「公衆用の広告」と「政府による広告」を比較すれば、広告主については、「公衆用の広告」が政府に限定できないのに対して「政府による広告」は政府が広告主になるという差異が出てきます。
 このように「public」の意味に差異があれば、それぞれの意味カテゴリの広告によって、ターゲット層や広告主、ひいては広告対象といった部分が変わることがわかります。それはつまり、それぞれのターゲティングやブランディングも変わってくるということでもあります。
 これについては、「公共の広告」の種類の差異についても同様のことが言えます。それぞれの種類の差異によって、ターゲティングやブランディングに異なった方向性が発生するということです。

「公共の広告」は複雑

 以上のように、広告の種類にも訳語の「public」の意味にも実は幅があるわけで、「公共に関わる広告」というだけで、内容も扱いも複雑になって当然なのでしょう。それは冒頭で触れたような、「公共の広告」の「話の噛み合わなさ」にもつながります。そしてその複雑さによって、公共に関わる広告に多重のターゲティング・ブランディングが起こり、それによる拮抗が生じることにもなります。こうした拮抗は、また、私どものようなデザイナー、アートディレクターが、仕事の中で対峙しなければならない重要要素でもあります。
 詳しい話は次回に。

[注釈]

(※1)「読みこなし・使いこなし・活用自在広告がわかる辞典」(塚本輝雄/日本実業出版社/28ページ) では、「公共広告」は「非営利団体の広告」であるとし、大学の広告、政府や地方自治体も含めています。「新版この1冊ですべてわかる広告の基本」(波田浩之/日本実業出版社)では、官公庁や地方自治体の広告も含めています。

(※2)一方で、「imidas」によれば、「公共広告」は「環境、福祉、教育、人権などの社会的・公共的な問題についての理解や解決を目的とする広告」であり、「狭義にはACジャパンによって行われるものを指すが、広義には、公共性の高いテーマを扱っていれば、政府、業界団体、企業も広告主になり得る。」(https://imidas.jp/genre/detail/A-126-0026.html)としています。

(※3)公共:社会一般。公衆。おおやけ。「精選版 日本国語大辞典」(https://kotobank.jp/word/公共-494676

(※4)「weblio英和辞典・和英辞典」(https://ejje.weblio.jp/content/public

(※5、6)「private」の括弧内の補足は筆者。「weblio英和辞典・和英辞典」の翻訳(https://ejje.weblio.jp/content/private

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