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サンタさんは頭を天井にぶつけながらやって来る

 夕暮れ時の散歩道の風景が
すっかりクリスマスモードへと
変わった今日この頃。

気が付けば、
もう12月なんですね。

「お餅食べすぎたから、
デニムがきつくなったわぁ。」

箱根駅伝を見ながら
こたつに座って
鏡餅みたいになった
お腹を撫でていたのが
つい、昨日の様です。

私の感覚なのですが
いつの間にか増えていた行事
《ハロウィン》が過ぎると
一年がゴールへ向けて
一気に加速してゆく気がします。

今年も、そんな感じです。

すっかり
クリスマスへと衣替えをした
街の風景を眺めていたら
とある家の窓辺に
光るサンタさんの飾りがありました。

サンタさん…。

そう言えば、私の子供の頃
サンタさんが(来る家)と(来ない家)があり
私の家は(来ない家)でした。

ある時、母に聞いてみたんです。

「サンタさん、なんで家に来ないの?」

すると、母はこう答えました。

「サンタさんは、家を知らないからじゃろうねぇ。」

知らない…って

え?
学校の図書室で読んだお話と違う。

え?
サンタさんの住むとこから遠いから?

いや…Aちゃんの家には来てるから
日本には来れる。

じゃ、
どうやって家の住所を知らせよう?

お手紙?
でも、出すのって外国だろうし
私、サンタさんの住所知らないし…

「?」で、いっぱいになった頭を
突然、大きな手で
ガシガシ荒々しく撫でられました。

丁度、外回りから帰宅した父が
母と私の会話を聞いていた様で

「あののぅ、サンタさんはおらんのよ。
だから来ないんよ。」

突然の父の発言に思わず、
うわぁーんと泣いてしまいました。

ほわほわとしたクリスマスの夢。

朝起きたら、枕の隣に
そっと…
プレゼントが置かれているという夢。

それが、
ガラガラと音を立てて
崩れていったので
子供の私には耐えきれなくて
しばらく、
しゃっくりが出るまで泣いていました。



サンタさんが来るという家の子が
「アレ、届くかな。」
キラキラとした笑顔で話しているのを
ぼんやり聞き流しながら
ゴム飛びをして帰った
クリスマスイブの夕暮れ時。

我が家にはじめてクリスマスケーキが
やって来ていました。

この前、あんなに泣いたから
お父さん、お母さん
無理して買ってきたのかなぁ…。

少し申し訳ない気持ちになりながらも

白いふわふわのクリームに乗った
真っ赤なイチゴ。

読めない英語で何か書いてある
チョコレートのプレート。

真ん中でやさしく微笑んでいる
サンタさん。

わぁ~
このサンタさん食べられそう。

ケーキの入った箱にある
わずかなビニールの窓に
顔をくっつけながら見ていると
とても幸せな気持ちになりました。


夕食のメニューはお鍋で
いつもよりちょっとだけ
豪華な具材が入っていて

普段の食事の時の飲み物は
お茶だけだったけれど
その日だけはジュースでした。

「これがクリスマスなんじゃねぇ。」

と、祖母が、にっこり笑って
なんだか、特別な日に思えました。

さぁて!
次は、いよいよケーキの番です。

関心なさそうに振舞っていた兄も
瞳をキラキラさせながら

「この英語の書いてあるチョコ半分こしようや。サンタさんは、お前にあげるけぇ。」

「お兄ちゃん、ありがとう。」

ケーキを囲み
兄妹で、ワイワイ話しているのを
いつもより沢山お酒を飲みながら
父が鼻歌交じりに眺めていました。

「ジィングルベェ~ルってかぁ~。」

クリスマスパーティーなんて
よく知らない私の両親が
こんな感じだろう?と、考えてくれた
穏やかな時間が過ぎてゆきました。

これだけで
十分幸せな夜でした。

二段ベッドの上の
自分のスペースに入って
電気スタンドのオレンジ色の
明かりに包まれながら
読みかけの本を読み終え
今夜の余韻に浸りながら
やわらかな眠りにつきました。

どれくらいの時間が経ったのか?

ゴンっ! 

何かが天井に当たる音がすると
すごく酒臭い匂いがしてきて
フガフガとよくわからない
息のような声がしてきたので…
私は、怖くなって…
ぎゅっと目を閉じて動かないでいました。

いつの間にか、そのまま
眠ってしまっていたみたいで
目を覚ますと、
枕の隣に雑に包装されたプレゼントが!

驚いて包みを開けてみると
当時すごく欲しかった
リカちゃん人形が!

うれしくて、うれしくて
パジャマのままお母さんに

「お母さん!サンタさん来た!」

お味噌汁を作りながら
母は、くすっと笑いました。

その横で、二日酔いでボザボザ頭の父が
コップで冷たい水を飲みながら
おでこを押さえたまま、
にっこり笑っていました。

昨夜の謎が解けた私でしたが
それでも、うれしくて
本当に、もうこれで十分だと思いました。

次の年、母からサンタさんへの
リクエストを聞かれた時、笑いながら
「いらない。」と答えました。

結局、その年からは
適度なお値段のものを
一緒に行って選んで
買ってもらう様になりました。

私が母親になって自ら食卓を彩り
主人や子供たちといわゆる定番となった
クリスマスのメニューを賑やかに囲み

小さかった子供たちが
寝静まった夜中
我が家のサンタさんに
細心の注意をお願いして
それぞれの枕元に
プレゼントを静かに置いてもらう。

この和やかな空気感の中
ほのかに酔いながら
思い出していたのは…。

あの夜の
いつもより酔っぱらって
楽しそうだった父や

みんなに食べてもらおうと
いそいそ笑顔で動く母と

そんな食卓を
珍しそうに見ている祖母と

いつもはケンカしがちだった兄が
私に多めにケーキを切ってくれて
ケーキに、ひとつだけ飾ってあった
食べれるサンタさんもくれて

皆が楽しそうだから
自分も楽しくなって
犬さんがはしゃぎ出した事。

決して裕福ではなかった両親が
色々無理して、あれやこれやと
私たち、兄妹の為にしてくれたと思うと
胸の奥から感謝の気持ちが込み上げてきます。


皆が大切な何かを見つけて
しあわせな気持ちになる魔法を
サンタさんと赤鼻のトナカイさんが
空を飛びながら振り撒いているのが
本当のクリスマスプレゼントなのかもしれない。

なんだか、そう思えるのでした。




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