メンヘラホイホイ-23 崩壊(第一章最終話)
世の中、生きて行くには金だ。それ以外は必要無い。それを信じたく無い自分が居るのも事実だ。
ついに俺はプッシャーを始めた。所謂麻薬の売人だ。
売った人間は気が付くともう二度と現れたなかったりもする場合もある。他のプッシャーに流れたか、あるいは金が尽きたか、あるいは・・。
体力も無かった。常に腹を空かせていた。
食べ物は食べたら吐いちまうもんだからコーラとタバコの煙で毎日誤魔化した。腹が膨れた気がするんだ。聞いた話では某国の難民は空腹をタバコの煙で満たすんだとか。
仰向けに寝ると胃の形が浮き出るほど痩せ細っていた。身長170センチで32キロは異常値だ。
ある日、給料を受け取った。封筒の中には50万ほど入っている。どんぶり勘定だから小銭は入っていない。
少しまともなもんを食いたかった。適当にラーメンを食べ、酒を飲んだ。
自宅最寄り駅から自宅に向かう時に雨が降って来た。俺の髪は長く、鎖骨から20センチほどある長い髪を濡らし、ため息をついてトボトボ歩き始めた。
ふと雨に当たらなくなった。知らない女性が
「大丈夫ですか?」と、こんな見窄らしい男を同じ傘の下に入れてくれたんだ。
そして世間話をして途中まで一緒に歩いて帰った。名前も知らない。その人は傘を俺にあげると言って、右手にある綺麗なオートロックのマンションに入って行った。
羨ましかった。
色々と考えていたら意識が遠くなり、そのまま倒れてしまったみたいだ。
気が付いたら朝で、道路脇に転がっていた。
金、、、!?
ポケットに手を入れると金は無かった。封筒ごと盗まれていた。俺は地べたに座り込んだ。一応財布を見たが1700円だけ入っていた。
生きる希望を失った。この世界から逃げ出したかった。
その日の夜に兄貴から何故か連絡が来た。
10歳の時に親父に失神するまで殴られた時に許しを乞うために泣いた。が、そこから12年間泣いた事は無かった。
兄貴に全部話した。ワーワー泣いた。
プライドも金もバンドも彼女も肉体も精神も全てメチャクチャになった。自分には価値がないって思った。
兄貴は口座を教えろと言う。
そして7千円振り込んでくれた。
兄貴はこの時、彼女と結婚するタイミングだった。その大切なお金の一部を俺に「これで這い上がってみろ」
「なんとかなるから。
なんとかしたいって本当は思ってるんだろ?
だったら何とかしたいと行動するはずだ。
〇〇は俺が若い時そっくりだからな。
大丈夫だ。なんとかなるぞ。
ゆっくりだけど、なんとかなるからな。」
俺はもう泣いて泣いて、もう日本語じゃないような訳のわからない口調で、何度も何度もありがとうと言った。
一生忘れられない。
こんな人に、俺は人生で初めて出会えたんだ。
翌日、俺は某所の新聞屋に住み込みで働く為に電話をかけた。
ユウジさんと良平に電話をかけると
「家賃を8カ月分滞納してるから、その支払いについて誓約書を書いてもらう」というので、最終日にその契約書に分割での支払いを約束した。
そして退去日に、良平と関わるなと言ったじいちゃんとばあちゃんの家に行った。俺の両親は別の場所に住んでいるから会う事は無い。
俺の姿を見てばあちゃんはバカにした。
お風呂を借りた。
じいちゃんの家を出ると、じいちゃんは自転車に乗って急いで追いかけて来た。
「これで何か食え!」と、クシャクシャになった3千円をくれた。
じいちゃん、迷惑かけてごめん・・・。
微かにある人の心が完全に死ななかったのは、きっとじいちゃんにたくさん愛情をもらえたからだと思う。
今でもまた会いたいよ。
そして俺はその土地を出た。
次回、第二章は前科者と嘘つきの巣窟。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?