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いや、見学初日→即稽古とか聞いてないんですが。/大学で、能楽部に入った話。(04)【エッセイ:あの日、私と京都は。7】

「座布団! 座布団!」
「どうぞどうぞ!」
「こちらへ!」

ついさっき『予想外の展開!!!』という文字がありありと見えたBOX内は、一気に浮き立った。

そそくさと運び込まれる座布団は、手前に座る男子学生たちの隣に敷かれる。
その2人は、他の部員と違って浮き立つことなく、半ばほっとしたような表情で私を見ていた。

(そうか――この人たちも、新入生か)

私以外に、この異界に(←異界て)迷い込んだ新入生がいる、しかも複数存在したことが意外だった。
何をどうやってたどり着いたのか・・・そんな吸引力のあるサークルなのだろうか・・・

・・・とりあえず座るか。

「・・・失礼します」
「・・・はい」「ども」

互いに軽く会釈をし、

「「「・・・・・・」」」

交流終了。

いっ、いや、だってさホラ、初対面だし!そんな話すことないし!
(※初対面でメガネ先輩に話しかけたことは、高々と棚に上げている)

「いやー!凄い!良かった」

そこへBOXの中にいた、社会人(と思われる)方が相好を崩す。

「まさかこんなに新入生が見学に来てくれるとは!ほんとに良かった、嬉しいね」

その方は40歳ぐらいだろうか、シャツにスラックスという出で立ちに、手には大きな扇子(いや、扇っていうのかな)を持って、足には足袋を履いていた。
見渡せば、ほかの学生たちも足袋を履いている。独特だなぁ。洋服に足袋って・・・。

「じゃあ早速、これから稽古を体験してもらいましょうか。では3人とも、ちょっと舞台に上がってくれる?」

?!

えっ、3人?私?私も入ってんの?

「「・・・・・・」」

隣の男子学生2人は互いに目を見合わせ、手を差し出し「どうぞ」「どうぞ」をし合う。

そこでふと、1人が私に目を向け、もう1人もこちらを見る。
2人同時に。

「「どうぞどうぞ」」

●チョウ倶楽部か!!(゚Д゚)

「君たち仲いいね!笑 ほらほら!早く3人ともこっち来て!」

再度言われ、お互いを見合わせながらも立ち上がる。

このBOX内は、入口側は畳の間になっており、奥が一段高く板の間になっている。畳側には部員が正座していて、板の間には社会人の方が立っている状況だ。この方が言う「舞台」とは、おそらく板の間のことを指しているのだろう。

部員の一人が近づいてくる。女性だ。

「上がるのは靴下のままで。でも腕時計とか、貴金属は外してください。それが舞台に上がるときのルールですので」

そうなのか。言われて腕時計を外す。
男子学生は、ポケットにあった財布や携帯なんかも引っ張り出していた。じゃらん、と重みのある音が鳴る。

舞台に上がるときのルール。理由はよくわからないけれど、なんだか、それだけで気持ちが改まる。
重いもの、とがったもの、武装していたものたちは置いていく。財布や腕時計は日常そのものだけれど、それすら置いて身軽になる。
そうして、非日常へ上がる。

「よし。じゃあ、3人とも、そこに並んで正座できるかな」

板の間に上がって、その場で正座をする。

「稽古をするときは、こうしてお互いに座って礼をするんだ。そうだ、君には伝えてなかったね」

ん、私?

「僕は、この宝生会のOBで、能楽師でもある者です。月に何度か、こうして稽古をつけに来てます」

「はい」

なるほど。
この人が、師匠なのか。
そんな気はした。なんだか他の人とは明らかに違うもの・・・

ん?でも、OBでもあり、能楽師・・・?(この大学、そんな芸術系の大学じゃないよな・・・)

「それでは、よろしくお願いします」

手をついて。
見よう見まねで。


「「「よろしくお願いします」」」


あれ?
でも何で、こんなことになってるんだっけ??

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