見出し画像

子供は見ないでね 【短編】

「おれたち三人でクリスマス会しようぜ」
魁人がそう言い出した。
「三人だけで?」
「そう。ふかみの家、サブスク入ったから好きな映画を観ていいよってさ。来るだろ?駿」
「何を観るかによるな」
こいつに限ってそんなおとなしいクリスマス会で満足するとは思えない。
その証拠にやけに目をキラッキラさせているじゃないか。
「だからさあ、グレムリン観ようぜ!」
ほらな。
以前おれはこいつのおすすめで弟といるときにその映画を観てしまった。
あのときの恨み、忘れないぞ。
「弟が泣いたのはお前のせいだからな」
「駿は全然ショック受けてなくてつまんなかったなあ」
「おれは三才でとっくに知ってたからな」
つまり、あの映画はサンタの秘密をばらしてしまう映画なのだ。かなり不気味な話のおまけつき。
ふかみは今でも毎年真剣にサンタにラブレターを書いている。
あれを観たらかわいそうだ。
考えが顔に出ていたらしく、魁人は口をとがらせてこう主張した。
「おれたち五年生なんだから、どうせばれるころだろ?だったらおれたちと一緒のときのほうがいいじゃんか」
「どうして」
「同じショックを味わった先輩として、見守ってやろう」
「嘘つけ。ただ泣くところ見たいだけだろ」
「へえ、駿は見たくないのかよ」
おれは言葉につまった。
まあ、その、どちらかといえば見たい、かもしれない。
魁人もおれも知っている秘密を、ふかみだけが知らないというのも逆にかわいそうじゃないか?
うん。かわいそうだ。
「よし。じゃあこっそりクラッカー持っていこう。それで一番怖いシーンで鳴らそう」
「駿もこのごろ面白い奴になってきたな」
魁人はにんまりとする。
こいつに言われるとちょっと腹が立つけど好奇心には勝てない。
おれたちはいそいそとクラッカーを用意し、ふかみが泣いてしまったときのご機嫌取りのためにコンビニであんまんを買った。
ふかみの家のインターホンを押そうとして、ふとおれは罪悪感におそわれた。
「なあ、魁人。やっぱりダイ・ハードにしないか?」
「は?ここまできて裏切るのか?てか、なんでダイ・ハード?」
「おれん家は毎年クリスマスイブはダイ・ハードを観ることになってるんだ」
「なんだか不吉な習慣だな」
「そんなことない。絶対に生きのびてクリスマスを迎えるんだぜ。ハッピーエンドじゃないか」
おれたちがあれこれと相談しているうちに、ふかみが玄関口に出てきた。
「何やってんの?寒いんだから早く入りなよ」
おれたちは笑いをこらえながら、靴を脱ぐ。
下を向いたままで魁人とちらっと目が合う。そのときのおれたちは口が耳まで裂けていたに違いない。
「なあ、ふかみ。おすすめの映画がふたつあるんだけど、どっちにする?」
おれたちは靴をばらばらに脱ぎ捨てて、家の中に駆け込んだ。
………

   この子たちの五年後の謎解きストーリーはこちらです⬇

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?