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真っ当すぎて気持ちの良い経営理論──『経営の真髄(上)』読書感想文


書籍データ

ドラッガーまとめ本、らしい。
ということで、私は今までドラッガーの著書を読んだことがないのでこれで済ますことにする笑
いずれ下巻も読む。

内容は真っ当なことが書いてある。
あまりに真っ当だから気付かされることがとても多い。
かなり前の著書からの引用もあるのだろうけど、古さを感じさせない。
生きるにあたっては時代に応じた変化は当然していくべきだし、変化しないことは怠慢だと思うけれど、それでもきっと「真髄」とか「本質」と呼ばれる変わらない部分はあるのだと思わせてくれる。

土台をきっちりつくる。そこに柔軟性を加味して生きる。
そういう賢い人になりたい。

要旨と感想

特に気になった箇所を記載。

マネジメントとは何か

本書ではこの問いへの回答として七つの項目をあげているが、その第一項として挙げられている下記の内容は特に秀逸だと思う。

マネジメントとは人に関わるものである。その機能は、人がともに成果をあげることを可能とし、人の強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである。これこそ組織の目的である。したがって、組織の成功にとって、マネジメントは決定的要因である。

p.53

マネジメントに影響する現代の大きな変化としては、下記が挙げられている。これも納得度高い。

  • 労働力の重心が知識労働者に移ったこと

  • 「他者」ではなく「組織」の成果に責任を持つ者(=専門家)が増えていること

  • 企業間の関係値も主従から対等なパートナーシップに変化していること

  • 企業にとって「国」は戦略的にも経済的にも障壁でしか無くなっていること

マネジメントは組織の中のものであると考えられていたが、そもそもマネジメントの役割は「組織としての成果をあげること」であるから、上記のような変化が起きている今日では対象を内部にとどめるのはナンセンスと言える。
そうなるともうそれは企業家精神に近しいものであり、マネジメント・企業家精神の2つは組織に成果をもたらすために現代のビジネスパーソンが併せ持たなければいけない要素なのだと私は理解した。

事業の定義

現代では社会の変化に既存の前提が耐えられなくなり、マネジメントとして「何をすべきか」再定義が求められているという事態に直面している。

事業の定義における三つの要素として挙げられているのが、「経営環境」「組織のミッション」「コア・コンピタンス」。
そしてその三つは、地に足がついているものでなければならず、それぞれが合致していなければならず、組織に周知が徹底されなければならず、検証を繰り返さなければならない──と本書は述べている。

「それぞれが合致していなければない」は、そりゃそうなのでいいとして……

  • 「組織に周知が徹底されなければならない」

この点は、最近企業の意識が向いているところだなと感じる。そのプロセスは昨今進化していて、周知の段階でなく、構築の段階からの巻き込みをするような取り組みも増えているのではないか。

  • 「検証を繰り返さなければならない」

改めて、ハッとさせられる。「事業の定義は仮説にすぎない」と本書でははっきりと述べられる。自己変革する能力、そして変化するための余白も前提として必要。
そして、事業の定義の有効性の検証には「顧客」ではなく「非顧客」の観察が有効であるという指摘も本当に鋭い。

企業の目的と目標

企業の目的は「顧客の創造」である。
したがって、その目的を果たすための機能の一つであるマーケティングは「われわれは何を売りたいか」ではなく「顧客は何を買いたいか」を考えるものである。

当たり前のようでいて忘れがちの視点。
そして「顧客の創造」という目的を果たすためのもう一つの機能が、イノベーション。
イノベーションというと最近は「なんかすごい革新的な発明」のような文脈で使用されているように感じるけど、本書では「新しい満足を生み出すこと」というこれまた真っ当な定義。
社会のニーズを機会と捉え、人的資源や物的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力を持たせること。(ここはより大きな富というより、新しい満足って言葉使った方が辻褄が合うのじゃないかと余計なツッコミしたくなるけど)

で、マーケティングとイノベーションという二つの機能を用いて目的を達成するために、さまざまな角度から目標を設定することが必要。というのがこの章段の趣旨になる。

ここでいう「目標」は、そのあとの「戦略」の章の「戦略」と近しい働きをするものなのではないかと個人的に思う。
すなわち、「コントロールの及ばない世界における暫定的な方針」であり、「現時点でのあるべき成果を明確にし、それを指標に外部からのフィードバックを意識するためのもの」であり、「連続したプロセスの中で良い循環を生んでいく仕組み」であると。

知的労働の生産性

知的労働の生産性向上には、知的労働者自身が、「行うべき仕事は何か」「何でなければならないのか」「何を期待されているか」「仕事をする上で邪魔なことは何か」を問うことが必要で、それは誰しも一度は考えたことのある問いだと思う。
これに対し、逐一現場に問いかけ、改善をかけていくその実践のハードルは非常に高い。けれどそれを行えば、生産性は飛躍的に向上する。

私が仕事をしていてこのような取り組みの際に有効だと感じる方法は、大きく踏み出さず小さな一歩を積み重ねること。焦らず積み重ねるという行為の偉大さを、私たちはもう少し認識するべきだと思う。

知的労働者の生産性を向上させるには、なすべきことを明らかにし、成果とその内容を明らかにし、自立性と責任を与え、継続して学ばせ、教えさせることである。

p.352

……言うは易し、行うは難し。
一歩進んでみても、一年後は10mしか進んでいないかもしれない。でも一歩も進まなければ、一年先も十年先も変わらない。
どんなに些細なことでも、とにかくできるところからやってみることが重要だ。

その他の気になるフレーズ 

知識社会においては、学習の方法を身につけておかなければならない。内容そのものよりも、継続学習の能力や意欲の方が大切である。ポスト資本主義社会では継続学習が欠かせない。学習の習慣が不可欠になる。

p.269「学ぶことを学ぶ」

仕事は面白いものでなくともよい。しかし、自己実現させるものでなければならなくなった。

p.324「仕事と人」

知識労働の生産性は量よりも質の問題であることを理解させることである。

p.334「生産性向上の秘訣」


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