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非所有で気づく幸福 ~ミニマリストへの道~

第一木曜に届けられる赤いパッケージ。中にはスタイリストが選んでくれた服が入っている。トップス、ボトムス、ワンピース。今月はどんな服に袖を通せるのかな。

時代は所有から消費に変わりつつある。そんな中、先延ばしにしていたことがあった。洋服のサブスクを始めること。この夏、重い腰を上げ3カ月のお試しコースに申し込んだ。

サブスクとはご存知「サブスクリプション」の略。モノではなくレンタルというサービスを購入する。手に入れたものは、トキメキ、ワクワク、時間、自信。手放せたものは、箪笥の肥やし、無用のストレス。物質的変化だけでなく、精神的変化も体験することになった。

ショッピングは楽しい。しかし予算や時間に限りがあり、失敗することもある。ひとたび所有すると、メンテナンスが必要で、保管には場所を取る。「もったいない」が先立ち、なかなか捨てられない。クローゼットは捨て時を逃した服で一杯になっている。それなのに、着ていく服がないと悩み、自己肯定感が下がる。これらの悩みをすべて解消してくれるのが、サブスクだった。

まず購入に伴うストレスがなくなった。月額課金・定額制なので、基本的に予算の心配がない。買い物に費やす時間が減ったのも嬉しい。この数カ月に購入したのは喪服と水着だけ。サブスクを始めて、ユニクロに行かなくなった。近所に新店舗がオープンしても全くときめかず、一度も行っていない。
スタイリストが私の体型や好みのデータをもとに服を選んでくれる。自分で選ぶと、パンツばかり、黒ばかり、と結局無難な選択に偏ってしまう。しかし、プロの見立てには毎回ワクワクさせられる。

ロイヤルブルーが鮮やかなワイドパンツ。珍しいピスタチオ色のワンピースや、くるぶし丈のワンピース。ボリューム袖やフリル袖、アシンメトリーなマーメイドスカートなど。流行りのデザインで、かつ素材が良い。久しくユニクロで事足らせていたので、上質素材がうれしかった。

良いものを着ているだけで、不思議と自信につながる。二人の友人からワンピースをほめられた。借り物であると伝えると、驚いていたが、メリットを伝えると大いに共感してもらえた。中国の古書『書経』に「飲食衣服これ大薬なり」という言葉がある。衣服は食べ物と同様に身体と心に直接作用するという考え方である。やはり一日中身につけるのだから、気分の上がるものを身にまとっていたい。

さらに、選んでくれるのはAIではなく、人間のスタイリストである。毎回、服に添えて着こなしのアドバイスも届く。合わせる靴やバッグ、アクセサリー、肌着の色に至るまで、気配りが行き届いている。例えば「白やベージュのバッグを合わせて」とか、「黒のポインテッドトゥパンプスでシャープな印象に」とか。「アクセサリーは揺れるタイプのイヤリングを」などなど。パーソナルなアドバイスがありがたい。

そして何より、返却するので服が増えない。保管や処分に頭を悩まさずに済む。気に入った服は買取りもできる。サブスクの業者的には利用者に買い取ってもらいたい。クーポンを発行するなど、あの手この手で買わせようとする。しかし、心を鬼にして買わない。買えば、服が増えるから。

一時の物欲を満たしても、次の瞬間には執着やコストといった苦が生まれる。仕舞われた物が発する「無言の圧」に恐怖を感じる。まれにポイポイ捨てられる性格の人がいて、実に羨ましい。辛い断捨離をしたことのある人なら分かるだろう。物を手放すのがいかに大変か。

繰り返しになるが、時代は所有から消費、非所有へと転換しつつある。ホリエモンはトヨタのカーリースは3年ごとに新車が来て優秀だという。知人はベビーベッドを6カ月5,000円のレンタルで間に合わせた。ココ・シャネルが亡くなるときに持っていたのは数着の黒いドレスだけだったという。多くを持つ必要はないのだ。

普段は忘れているのだけれど、自分のからだですら、いずれお返しするときがくる。期間が長く、このごろは100年近く使われる。代替品がないから、睡眠・運動・食事など、メンテナンスが必要になる。良好な状態、つまり健康を維持するのに余念がない。いずれ手放すモノに執着が生まれると、苦しみになる。

「一切は借り物」と思って暮らせないか。想像してみると、執着心が薄められ、こころが軽くなる。人間関係の悩みも、仕事のイライラもしぼんでいく。服のサブスクがこんな幸福に気づかせてくれるとは。

ドミニック・ローホーの『「限りなく少なく」豊かに生きる』という本に出会い、ミニマリストにあこがれるようになった。曽野綾子さんは夫の死後すべてを処分し道場のようながらんとした家で暮らしているという。所有しない生き方をどこまで極められるのか。自分なりの答えを求めて、物と向き合っていくことにする。


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